第18話 8月29日。某国と精神病院と新作執筆。

 今日は起きてスマホを立ちあげれば、すぐに飛び込んできた某国のミサイル発射の報せ。


 全くもってうんざりするし、恐怖も感じることだが、朝からそんなニュースばかり眺めていたのでは気が滅入ってしまう。今日という一日に身が入らない。


 だからあえて僕は今朝、事業所までの出発までの時間はNHKの『幻解!超常ファイル』の録画を観て過ごした。中田譲治さんのナレーションが実に愉快。


 国際情勢や日本の安全に興味や関心、心配がないわけではない。


 だが、こうも繰り返し不安や心配や疑念を煽るようなニュースばかり見聞きしていると、それこそ精神衛生上良くない。むしろそんな状態の方が普段と違う、血迷った行動を取る引き金になりかねない。


 これは少々極論かもしれないが、「毎日の精神衛生を良く保つコツは、ニュースを見ないことだ」とすら言っている人もいる。


 毎日のように、誰かが、どこかで死んだ、殺した、狂った、間違いを犯したなどと言う剣呑な報せばかりを聞いていて、何人が心を平穏に保てるだろうか。


 ニュースやマスメディアが全く必要ないとまでは言わないが、いたずらに悪報ばかり聞かせられるのは良いとは思えない。ネガティヴな情報と感情に支配され、そのうち気の迷いでそれこそ間違いを犯したりする人も出てきそうだし、現に出ていると思う。


 どんな時でも、僕が一番最善の行動だと思えることは、毎日毎日を、いつもと同じように、動揺したり惑わされたりせずに自分の為すべきことを少しずつ丁寧に、静かに過ごすことなのだ。


 無論、ミサイルだの何だのがある日頭上から降り注いでくれば、平穏な日々など遠ざかる。それを忌避するからこそ、恐ろしいニュースに目を光らせる人も多いだろう。


 だが、僕の場合はせめて毎日毎日を確実に丁寧に生きることだけだ。いつ『終わり』が来ても後悔のないように。目を光らせて平静に生きられるほど強くもないし。


 今日は四週に一回の通院日。


 通院日と言っても、僕の場合はそれほど煩雑なことはしない。主治医が僕の様子を一目見ていつもと同じ薬を処方したり、三ヶ月に一度は血液・尿検査などのバイタルチェックをするだけだ。


 以前から僕のエッセイを読まれている人はご存知だろうが、僕は精神疾患者だ。通院しているのも精神病院だ。


 中には手厚い看護を受ける患者もいるだろうが、精神科の診察というものは実にドライなものだ。患者の状態に合わせて、感情をほぼ交えずに淡々と毎回診察も処方も終わる。


 メンタル系の専門家と言っても色んな種類があるので一概には言えないが、少なくとも精神科医の場合は、そんなドライな性格でないと務まらないのだ。


 勤務日に毎回毎回、固くこわばって陰鬱な顔をして病をそのまま言葉にするような患者を何十人と相手にする仕事を想像して欲しい。


 ドライな性格でないととてももたない。情け深い人なら、すぐに医者が患者にすりかわるだろう。


 メンタルヘルス系の専門家の中には愛想良く、患者に優しく温かな言葉をかけてくれる類いの人もいるが、それも人と場合によるだろう。今の僕には、ドライな対応の精神科で充分だと解釈している。それほど病状は深刻ではないと。


 一昔前は精神病院というのは悪いイメージが強かった。自我が崩壊し、身も心も獣に成り果てた者が繋がれる『牢獄』同然だと。否、今もそういうイメージは根強いかもしれない。看護者が暴力を振るったり、患者を拘束する所も少なくないから。


 幸い、僕が通っている病院はそんな『牢獄』ではないので助かっている。


 だが、心が獣に成り果ててしまった人も入通院しているのも事実だ。待合室の貼り紙には『暴言・暴力おことわり』とある次第。


 夏場や冬場に空調の効いた建物の中にいてバスが来る時間まで時間を潰したいところだが、正直な所『獣になってしまった』人にそんな暴言・暴力を振るわれるのは御免こうむる。


 気の毒とは思うが、精神が病み、心が壊れてしまったからといって暴力を誰もが許してくれるような免罪符などこの世にない。今日も用が済めば早めにバスの停留所に向かった。


 さて、実は一週間前からSNSでアンケートを取っていた。以前記した、『傾奇者-KABUKIMONO-』の執筆を正式に凍結してもう少しハードルを下げた新作に取り掛かるか否か。


 結果は約半数が「温めている作品があるなら書いてみればいいのでは?」との票をに頂戴した。『傾奇者-KABUKIMONO-』の続きが読みたいという票はゼロだった……が、これで新作へ以降するのに心残りが幾分かすり減った。


 ただ、「全く新しい作品が読みたい」という選択肢にも結構な票を頂戴したので、そちらのプロットも練りつつ……『LIVE FOR HUMAN』ノベライズを完了させてから完全新作を書くか、あるいは『LIVE FOR HUMAN』を書いていて気分転換をしたくなった時にでも新作を書こうかと思う。


 精神的にいっぱいいっぱいになるのでダブル連載などという華々しいモノではまず無い……が、書き著したい欲求さえ途切れなければあまり間を空けずに書きたい。


 エッセイも続けたいが、どうなることやら。エッセイという名の日記のようなものだから、小説とは別扱いで書けるかと思うが、そんな余裕を持てる自信は全く無い。自分の足跡を確認する意味も込めて書いているので小説を書くこととは違う意義があるはずだが……。


 とにかく、焦らず腐らず。可能な範囲で善処はしたい。読み手がどう思うのかはこれからはあまり考えないようにしよう。書く筆が止まるぐらいなら……ちょっと辛口の感想を貰うとすぐ迷いに陥るんだから。


 天よ、我に易しい試練しか与えないでください。頼んます。


 神よ、我に七難八苦を与えないでください。お願いします。


 そんな前向きとも後ろ向きとも形容し難い微妙な気持ちでこれからしばらく執筆するだろう。『努力』はしてもいいが『苦労』はやり過ぎちゃ駄目だ。魂と肉体が濁る。

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