第29話 決意

ヒジリがボクの隣から居なくなって数日経った。


ボクは街の情報屋、外から来る商人、色々な人から情報を集めた。


リーネは探索魔法を使いヒジリを探す。


キューブはギルドの受付に戻り、冒険者などから情報を集めていた。


どこかで鬼を見なかったか?

白い大きな何かを見なかったか?

白いモノは見なかったか?


返って来る答えはいつも同じ。


”そんなの見ていない”


ヒジリの今の状態で動きがあれば目立つ。

目立てば噂が流れ、耳に入るはずだ。

しかしそれが一切無い。


どこかに引き篭もっているのか?

洞窟?

初めてヒジリがあの姿で現れた...


「始まりの洞窟・・・」


独り言の様に呟いた。


そうだ!

きっとヒジリはそこにいる。


お菓子な宿屋に戻り、荷物をまとめる。

その姿にリーネが驚き、慌てて聞いてくる。


「ど、どうしたのだ!なにかわかったのか?

もし場所がわかったのなら私にも教えろ!!」


「いや、ハッキリはわからない。

ただボクが初めてヒジリの狂神化バーサーカー状態で会った場所。

ヒジリと2回目に逢った場所。

『始まりの洞窟』

そこに行けば何か手掛かりがあるかも知れない」


「なるほどな。

ヒジリの意識が無い状態であるからこそ、

想いが強い場所に居るかも知れないな」


リーネと共に荷物をまとめ、ギルドに向かいキューブを”回収”し洞窟へ向かう。


洞窟まで約8日。

ヒジリと一緒に来た道を戻る。

ヴォルズと戦った平地。


・・・ここでヒジリと一緒に戦ったんだな・・・

・・・初めてヒジリの天使の翼アンジェ・エールを見たんだな・・・

・・・本当に天使みたいだった・・・


ヒジリと一緒に居るようになって日はまだ短いけど、たくさんの想い出が出来た。

そしてヒジリの事がわかってきて大事な人になった。

ヒジリ・・・

どこに居るんだ。


寝る間も惜しんでボク達は始まりの洞窟に向かう。

途中、妖精が出てきても追い掛け回し、

目的地へ着く時間を大幅に遅らせるヒジリが居ない。

妖精も寂しいだろうな。なんてリーネがポロリとこぼす。

ボクはそうだね。と走りながら答える。

同じ事を考えてた。

ここで妖精を追い掛けて出て来てよヒジリ。

どんな姿でもいい早く出てきて。


始まりの洞窟には予想以上に早く着いた。

リーネがいつでもこの場所に来れるよう、魔法陣を敷いていた。


薄暗く、べったりと湿気が体にまとわりつく感じ洞窟内。

前に来た時と同じだ。

ただ湿気がまとわりつく感じはリーネが言ったので気付いただけだった。


「ここはモンスターも居るから気を付けてね」

一応、リーネとキューブに注意を促しておく。


リーネもキューブの小さく頷き、


「何が来ても私の魔法で灰にしてやるさ」

「私も戦えるのですよ。ハツキ様。見縊らないで下さいませ」


親指を立て、笑顔で答えた。


心強いな。


リーネとキューブの返事を聞き終えて、

ボクは皮袋に手を入れ、コインと呟いて数秒待つ。

皮袋から手を出しコインを親指の上に置き、指で弾く。


カキーーンと乾いた音と共にコインが回転しながら宙を舞う。

リーネがおっ!と声を上げる。


「表」


ボクは表を必ず出せる様な魔法なんて知らない。

ただ洞窟内を調べる為にコインを使っただけだった。

リーネの反応を見て、サンブライトの真似をしただけ。


落ちてくるコインを手の甲にパシンと押し付け、

押し付けた手をどかす。


コインは手の甲で表を出していた。

もう一度、リーネはおぉ~!と声を上げる。

1/2の確立にどうやら当たったようだ。


「魔法も使わず表を出したな♪」

リーネは嬉しそうに言う。


「うん。いい感じだね。

ただダンジョン内はいい感じではないね。

結構な数のモンスターが居る。

宝箱は無し。

空の宝箱は奥にあるけどね」


期待が高まる。

大きな気配は無かったが、なぜか期待してしまう。


ヒジリすぐに行くよ。


途中、色々なモンスターに出くわした。


ゴブリン、スケルトン、オーク、その他諸々。

ボクが罠を使い、リーネが魔法で倒す。

キューブが体に合わない大きな剣を振り回し倒す。

狭い洞窟内でそんな大きなモノ使うな!とリーネに怒られていたが。


床に黒い染みがあるフロアに出た。

壁には大きな穴。

思わず立ち止まってしまう。


「どうした?」

とリーネが問いかける。


「ここで初めて狂神化バーサーカーしたヒジリに会った。

ボクが死を覚悟した時に現れたんだ。

真っ白で大きくて、とてもとても強い鬼にね」


「そうか。ここでハツキは死に掛けて、

ヒジリが来たんだな。どうやって?」


「良くは覚えていないけど、急に現れた?」


「急にか...

ふむ。なるほどな」


リーネは1人納得し、頷いている。


「よし!奥までもう少しだから行こう」


全員、全力疾走で奥に向かった。

空の宝箱があるその場所へ。

ヒジリが倒れていたあの場所へ。


「はぁはぁ...ココだよ。

ボクとヒジリが逢った場所...」


空になった宝箱を指差す。


そこには...


すでに開けられ空になった宝箱。


壁と地面にたくさんの疵。


居なかった。


ヒジリはそこに居なかった。


力が抜け、糸が切れてしまった操り人形の様に地面にへたり込む。


悲しみと共に涙が溢れる。

もしかしたらなんて思っていた。


「ハツキ...」

リーネが優しく後ろから抱き締める。


「リーネ。ゴメンね。

で、でも...

まだ...

行きそうな場所はあるんだ...

牢獄の塔ってとこ...」


「もういいんだ。ハツキ。

ヒジリはきっとそこにも居ない。

この疵を見ればわかるだろう?」


そう言えば前に来た時にはこんな疵無かった。

疵は重なってはいるが4本の爪で引っかいたような疵。

本来、デーモン種の指は3本。

しかしヒジリの指は4本だった。


ここに来たんだ。

そしてまた違う場所に。


「でも諦める訳にはいかないだろう!

ボクはヒジリがどこに行ったとしても必ず見つけるんだ。

リーネには分からないかもしれないけど大切な人なんだよ!!」


パシン!とフロア内に音が響く。

目に涙を一杯に溜めた、リーネが涙声で、

大声で叫ぶ。


「バカモノ!お前だけが悲しいと思うな!

私だって...

私だって...」


「ゴメン。そうだった。そうだよね」


自分の事しか考えてなかった。

悲劇の中心人物のつもりになっていた。

ヒジリに関わってきた、リーネもキューブも悲しいんだ。

そんな事も忘れているなんてボクはバカだな。


「許さん。

絶対に許さん。

責任は取ってもらうぞ」


涙を流しながら、リーネが悲しみを含んだ笑顔を見せた。

そして疵だらけの地面に数字や見たことも無い文字を書き始めた。


何を言っているんだ?

何をやっているんだ?


「リーネ?」


「少し待て。すぐに終わる」


そう言うと2つの魔法陣を描き上げていた。


「これは?」


「見ての通り魔法陣だ。

言っただろう?責任を取ってもらうと」


リーネはニヤリと口元を上げ笑う。

そして目を閉じ、こう呟いた。


「我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者なり。

風と熱風の悪霊ここに顕現せよ。

魔神・パズズ」


フロアに風が巻き上がり、地面の砂が舞い上がる。


舞い上がった砂の中から現れたライオンの頭と腕、鷲の脚、背中に4枚の鳥の翼とサソリの尾の魔神。

パズズ。


「ハツキよ。すまんな。

こうするしかないのだ」


悲しそうな目で見つめる。


舞い上がった砂が全て地面に落ちるともう一体の影。

白く大きな4本指の影。


ヒジリだ。


「ハツキの命の危機だ。

そりゃ現れるわな」

笑いながらリーネは指をパチンと鳴らすと、パズズの姿は消えた。


「さて、ココからが本番だ!」

リーネはキューブに視線を送り、キューブは静かに頷く。


「ヒジリ。お前はまだやるべきことがあるのだろう?

その姿で何が出来る?

もう一度よく頭を冷やせ。

その時間を私が与えてやる・・・・・


やはり笑いながら殺気を向けてくる。

その殺気に導かれるように白い鬼がリーネの方に向かっていく。


「819年前に借りた物は返すぞ。

サン、エール。

それに私も言ってみたかったしな」


リーネは目を閉じ呟く。


「我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者なり。

全ての災厄よ、我と共に眠れ。

永久と言う名の仮眠ペルマナント・ソメイユ


いつの間にか魔法陣の上に移動しているリーネが、

白い鬼とキューブを巻き込み黒い光で包み込む。


こちらを見て楽しそうに笑いながらリーネは


「悪い。ハツキ。私はお前たちに託す。

お前ならいつでも出せるだろう?

早くウロボロスを自身の力で抑え込み、私を出せ。

任せた...」


理解した。

理解したくないが理解した。

わかったよリーネ。

すぐに匣を開けるから。


次の瞬間、目を開けていられないくらい眩い光がフロア中に広がり、

カツンと音がする。


光が収まり、目を開けるとそこには小さな黒い匣。


そして裸の...


ヒジリ。


人間の姿のヒジリ。


急いで駆け寄り、揺り起こす。


「ヒジリ!ヒジリ!起きろ!!!」


反応が無い。


なんで?目を開けてくれない?

リーネが体を張って戻してくれたんだぞ。

何をしている?

今は寝坊をして良い時間じゃないぞ。


「んん...」

「ヒジリ??」

「・・・」

「・・・・」

「・・・・・」



「早く可哀想なお胸を隠さないと風邪ひく...」


ドス!!!

ナイス左ストレート!!

おはようヒジリ。


目の前に顔を真っ赤にし涙目のヒジリ。


「あんたね~!!!なんなの?いっつもいっつ...

あれ?あたし???」


「うん。狂神化バーサーカーの最後の一回を使った。

そしてボクとリーネとキューブの元を去っていった。

怒りたいのは僕たちだ!!!」


「でもハツキが死んじゃうって思ったら。

しょうがないじゃない。

それにあんな姿で一緒にいれないよ」


ヒジリは顔を覆い涙を流す。


「代償に関してはボクの未熟さのせいだ。

それに対しては謝る。ゴメンなさい。

でも居なくなるなって言っただろう?

心配したんだぞ」


「ゴメンなさい。

あれ?リーネとキューブは?」


黒い匣を指差す。


「たぶん、ボクの移動する・苦痛ペイン・ムーヴの代償ウロボロスと

ヒジリの狂神化バーサーカーと一緒に入ってる。

最後にウロボロスを何とかしろって。

そして匣を開けてリーネを出せって」


「ああ...

ゴメンなさい。

リーネ、キューブ。

ゴメンなさい」


ヒジリは子供みたいに大声で泣いた。

優しくヒジリを抱き締める。


「おかえりヒジリ。ボクはもうキミを離さない。

早く方法を考えてリーネとキューブを戻そう」


「ハツキ、ごめんなさい。ごめんなさい。

辛かった。ホント辛かったよ~~」


洞窟内に響くヒジリの声。


ああ、帰って来てくれたんだね。

探したんだよヒジリ。

もうどこにも行かないでね。

そして代償を抑えて、匣を開けてリーネとキューブとまた一緒に旅をしよう。

またみんなで笑おう。

もう一度、言うよ。


「おかえり。


『ボクの大事なバ~サ~カ~』」





ボク達は何かを得れば、何かを手離している。

能力もそうだ。

能力を得れば、代償を支払う。


全ては手に入れるのは確かにムリだ。


ただ少なくともボクの大事な人たちは護りたい。

いや、護る。


ルナが願った幸せな世界。

リザーヴが作ったこの世界。


どちらが正しいかなんて判らない。


判らないから護る。


ボクの信じた世界を。

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