第23話 ボクの彼女は・・・

リーネとキューブが寝る時間と言って、しばらく経つと、

リーネの部屋から寝息が聞こえてきた。


「リーネよっぽど疲れてたんだね。ご飯も食べないで寝ちゃうなんて」

ヒジリが笑いながら夕食の準備をしている。

いつ聞いても心地の良い、包丁とまな板のトントントンと言う音。

その音を聞きながらゴロゴロしているボク。


「ご飯とかあんまり食べないのかな?

育ち盛りの体型なのにね。ヒジリと同じで...」

ボクの頬を鈍く光る何かが通り過ぎ去った。


「なんか言った!!!ハツキ???」

しまった、またやってしまったと思い素直に謝る。


「ゴメンなさい!ヒジリさん。ほらヒジリさんはスレンダーと言うか、

結構運動してるから締まってると言うか...」

「ほう、ハツキはリザーヴより先に倒されたいみたいね?」


台所に居たはずのヒジリが目の前で指を鳴らして見下ろしている。

「ゴメンなさい!ほんとゴメンなさい!ヒジリさんは綺麗です。美しいです。

世界で一番かわいいです」

ヒジリの動きより早くソファから降り、床に頭を打ち付けながら謝った。

「次、言ったら本当に倒すわよ」


(ボクを護るって言っているヒジリが、

ボクを倒そうとしたら狂神化バーサーカーになるのかな?)

なんて素朴な疑問を抱きつつも、聞けずにソファに戻って再び安らぐ音を聞いていた。


「ねえ?ヒジリ」

「なに?次、変な事言ったら本気で怒るよ」

「あのさ?ボク達強くなる為に何をすればいいのかな?」

「それはやっぱり修行じゃないの?滝に打たれたり?」

「そうか...え!?滝!!!」

「わからないよ!明日リーネが教えてくれるんじゃない?」

夕食の準備が終わりヒジリが料理を運び始めている。


夕食がテーブルに並び2人とも椅子に座る。


「「 いただきますっ!! 」」

やはりヒジリの作った料理は美味しい。


「ヒジリの作ってくれるご飯はいつも美味しいよね」

「そうでしょ~!愛情もちょっと入ってるしね」

鼻をフフンと鳴らし、少し顔を赤くしながらヒジリが答えた。


「もう一度、聞くけどヒジリは後悔してないの?」

「何が?ちゃんと主語を言ってくれないとわからない~!」

「そりゃ、あれだよ...」


改めて聞くのが恥ずかしいから敢えてボヤかして言ってるのに。


「ボクを...?」

「ん?」

「ボクを護る為の代償と能力を消してもらう事」

「あ~少し後悔してる!!!」


なんてね。と言いながら少し舌をペロっと出した。


「後悔なんてしないわ。多分、能力を消した時の方が後悔すると思うの。

それに自分で決めた事だし。ハツキを独りにしないってさ」

そう言ってヒジリはいつも笑ってくれている。


ボクはヒジリに何をしてあげれるのだろう?


護れる力をちゃんと使えるのだろうか?


「大丈夫だよハツキ。2人で強くなるって約束したでしょ?」


確かにそうだった。

約束した。

何もまだしてないのに、何かを望んで、すでに不安になっていた。

ボクは前に進むしかないのに。

こうやっていつもヒジリはボクの背中を押してくれる。


「ありがとうヒジリ」

笑顔でヒジリに答える。

「どういたしまして♪」

ヒジリも笑顔で答えてくれる。


食事も終わり食器を片付けようとしたらヒジリが

「疲れているでしょ?

最近、色々あって水で体を拭くことしか出来なかったから、

先にお風呂入って来て良いよ。

ハツキは病み上がりだしね」


そういう細かい所にもヒジリは気遣ってくれる。


「ありがとう。それじゃ先入るね」

は~い♪とヒジリが笑顔で洗い物をしながら言う。


久しぶりの湯船だった。

やはり暖かさは感じなかったが気持ちいい。


湯船から出て、体を洗おうとすると、

バンっ!!!


「お背中流しにきましたぁ~!!!」

うん!前もあった!

この光景、前もあった。


「きゃ~~!!」

「だからなんでハツキがそう言う反応するのよ?」

ヒジリは少し呆れた顔で立っている。

バスタオル一枚で。


「だ、ダイジョウブです。ほんと大丈夫です」

「いいから、遠慮しないの」

逆らえない笑顔でヒジリが無理矢理、バスチェアに座らせた。


「ハツキ?あのね?」

「ん?」

「さっきの話何だけどさ。あたしの事、心配してくれてたんでしょ?」

「う、うん」

唐突に先ほどの話をされ、少し動揺し声が上擦ってしまった。


「あたしさこんな体になって、左眼もなんか気持ち悪くなっちゃってさ、

なんかホント、もう人間じゃないんだって鏡で自分を見る度に思うの。

あたしの二つ名もう知ってるでしょ?」

「銀髪の...」

「うん。銀髪のバーサーカー。

あたしね、嫌いだったんだ。

ホントにイヤだったの。女の子なのにさ。

まぁ自分の責任でも有るんだけどね。

でも今はもう本当にバーサーカーなんだよね。

狂神化バーサーカーの時は記憶無いんだけど、きっとバケモノなんだろうね」


ボクは声を掛けてあげられなかった。

なんて言ってあげればいいのかわからない。

そんな事無いよとその場凌ぎの嘘でヒジリを慰めてあげても意味が無かった。

ヒジリは知っているから。

左眼...いや左半分がもう自分の制御が効かなく、侵食の影響が出ている事を。


しばらくの沈黙の後、ヒジリが話を続けた。


「もし、もしね...」



「ハツキを護る為に狂神化バーサーカーしちゃって戻れなくなったら、

あたしを置いて行ってね。

バケモノなんて連れて歩けないでしょ?

あたしはハツキを護れたと思って満足してると思うから。

そしてまたハツキがピンチの時はすぐに行くから。

だから置いて行ってね...」


背中を洗う手が止まっている。

もうダメだ。

殴られても良いから振り向こう。

振り向くとヒジリは手で顔を覆って泣いていた。

右目からは大粒の涙が流れている。


「見ないで。

もう涙も流れないの。

右目からしか涙が出ないの」


「ふざけるな!

ヒジリを置いて行けだって?

バケモノ?

ボクを護る為にそうなってしまったヒジリを置いて行けだって?

本気で言ってるのかヒジリ?

さっき2人で強くなろうって言ったじゃないか?

そうならない為に強くなるんじゃないのかよ!

ボクはヒジリを護るって決めたんだぞ!

ヒジリがどんなになっても護るって決めたんだ!」


ダメだ。やはりウマく言えない。

ヒジリを傷付けてしまうばかりの様な気がした。


「ゴメンね。ハツキ。

そうだよね。2人で強くなるって約束したばかりなのに」


悩みを抱えて、人で無くなる代償を抱え、どれだけヒジリは悩んでいたのだろう。

ボクはなんで支えてあげれないのだろう。

自分が情けなくなる。


「洗い終わったよ...」

「ボクも言い過ぎた。ゴメン。上がるね」

ヒジリはなにも言わずコクンと頷いただけだった。


街で買い物した時にある物を買っていた。

本当はもっと楽しい気分で渡したかった...



~~ 数時間前 ~~

「え~と、回復薬も買ったし、食料も買ったから...

そういえばヒジリがボクの皮袋から色々使ったって言ってたな」

何を使ったか分からなかった為、近くのベンチに腰掛け、皮袋をひっくり返した。


カツンと音を立て、ベンチに落ちる紅い物。

両思いの石フィーリング・ストーンだった。


「紅色になってる」

ヒジリの言葉を思い出した。


・・・ 最終段階で紅くなる。 ・・・


それを見て、

「そうか。そうだよな」

ボクもヒジリを...


「あれ売ってるかな?売って無かったら作ってもらおう」

ボクはその後、リーネの街を走り回った。



パタンと音がし、ヒジリもお風呂から上がってきた。


「ハツキ、さっきはホントにゴメン!!!

なんかあたしバカだった」

ボクは笑顔でいいよ!と親指を立て返事をした。


「泣き虫ヒジリちゃん?水分結構出ちゃっただろうから何か飲む?」

ヒジリは「泣いてないもん!」と口を尖らせながら

「飲む!ブドウの搾ったの飲む~!!」

「了解!座って待ってて」

は~い♪と元気に手を上げ椅子に座った。


「はい、どうぞ」

冷えたブドウを搾った飲み物を渡す。

「ありがとうハツキは優しいね~」

ヒジリは一気に飲み干し、グラスをコースターの上に置いた。


カタンとグラスが倒れる。

「あれ、またあたしやっちゃった?」

と不思議そうな顔をしてヒジリがグラスを見ると


コースターから光と共に魔方陣が浮かび上がる。


コースターの上に指輪が一つ。


「え!?なにこれ!?」

「知識不足のヒジリちゃんに教えてあげるよ。

水分を含むと収納していたものが出てくる魔法のコースターの裏側」

「それは知ってる。指輪の方」


宝石箱の指輪ジュエリーボックス・リング


いつでも物を出し入れできるアイテム。

両思いの石フィーリング・ストーン入れておけば使いやすいでしょ?


と言いますか...

最近、両思いの石フィーリング・ストーン見た?」

ヒジリは小さくフルフルと首を振った。


ボクは自分の指にしている指輪から両思いの石フィーリング・ストーンを出す。


「あ!紅色だ...」

「うん。これが今のボクの気持ちの色。

好きって言われたから、好きになったワケじゃない。

護ってくれるから好きになったワケじゃない。

ヒジリと一緒にいて...」


「一緒にいて...?なに?」


「好きになった。

ボクはヒジリが好きになった。

護ってあげたくなった。

護らなくちゃって思った。

だからさっきは悔しかった。

なにがあっても傍に居るから。

ずっと一緒にいよう...



だからコレもらってくれますか?」



右手の薬指を見せる。

うん!と小さく頷きながら

「あたしにも付けて」

と右手を出した。


同じ薬指に付けようとしたらサッと手を動かし、左手の薬指に指輪を入れた。

瞬時に指に合う様、指輪が小さくなる。


「ありがとうハツキ。これを見ればなんか狂神化バーサーカーしても、大丈夫!」


薬指にはめた指輪を眺める右眼から涙が零れる。


「好きだよヒジリ。泣き虫だけど大好きだよ」

「いつも一言多いけど...

ありがとうハツキ。大好き~」

テーブルを飛び越えハツキに抱きつく。


これからもずっと一緒に居たいと思える人が出来た。

独りになったあの日は想像出来なかった。

今は隣にヒジリが居てくれる。

ボクもずっとヒジリの隣に居たいと心の底からそう思う。

そして例え何があったとしてもヒジリを護る。

ヒジリがどんな姿になったとしても。

ボクの大事な人なんだ。


そう...


『ボクの彼女はバ~サ~カ~』

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