2-7
「ジョーくん、ジョーくん!」
「ん? 瑛美!」
久丈と一華を取り囲む観衆たちを掻い潜って、瑛美が二人の前にやってくる。その手にカードを持っている所を見ると、いつの間にか引きに行っていたらしい。本当にクラス・トランス一直線だなこいつ、と久丈が呆れるのも知らないで、瑛美は歓声に負けないように声を張り上げた。さり気なく自分と一華の間に割り込んだことに久丈は気付かない。
「初めまして、一華お姉さま! 永水家の長女、永水瑛美です! ジョーくんの幼馴染やってます!」
「あら、永水のお嬢様ね。初めまして、私は双刃一華です。よろしくね」
仔犬みたいな美少女と、絶世の美女が微笑みながら挨拶を交わすここは麗しの聖域だ。すげぇ騒がしいが。
「楽しい学園ですね! ここは!」
いまだ止まらない「いちか」「もがみ」コールに瑛美が言う。
「まぁ、『
「ここに来る人達はみんな長くやってますしね!」
「そういうことね……さて」
と一華は観衆を振り返る。
「皆さん、ご声援ありがとうございます! 最上くんはこれよりカードを引きますが、どうか
「頑張ってー双刃お姉さまー!「最上くん、お姉さまの足引っ張っちゃだめよ?「うおおもう王城先輩なんて怖くないぜ!「最上ぃ、負けるんじゃねぇぞぉ!」応援してるぜ!」
上級生たちが実にテンション高く応えていく。
その中には、久丈への声援まで含まれていて――正直に言って、じん、ときた。
彼らは一華を見捨ててきた人達である。一華を助けようとしなかった人達である。手のひら返しと言われても仕方ない人達である。
でも、だからなんだ。それでも今は、一華と久丈を応援してくれている。中学最後の試合で――つい二ヶ月前の試合で、観客から嘲笑された久丈は、自分が当時とは全く逆の立ち位置にいることを知った。あの頃と何が違うのか、自分の隣に誰がいるのか、この心地良い感覚は誰のおかげなのか、それをわからないほどバカでもない。
「さ、行きましょう、ジョーくん」
観衆をかき分け、レッドカーペットを踏むように颯爽と前を歩いて行く一華。その背中を追う。そんな久丈を、ばしばしと遠慮無く周りの生徒達が叩いていく。がんばれよ、負けるなよ、任せたぞ、そう言って。
自分のためにやってきた人助けが、誰かに応援されるなんて、今まで一度も無かった。
運が悪いなんてとんでもない。
最上久丈は、最高の幸運の持ち主だった――否、そうなったのだ。
双刃一華と出会ったおかげで。
『聖域』の部屋にひとり入った久丈は、天井から光の射す中央の台座の上に手を掲げる。すると、その手の影に『聖域』のシステムによってランダムで選ばれたカードが出現した。
引いたカードをめくる。
「……っ!?」
信じられない気持ちで扉を開き、外にいる一華にカードを見せると、彼女はわずかに驚き、そして頷いた。
「これ以上、ないわ」
自信満々な笑顔で告げる。
「私達は勝てる」
引いたカードは『
トランプの『ジョーカー』のような絵柄が描かれそのクラスは、一華の『
『S++《最高》レア』の、奇跡のような一枚だった。
「あなたは、このクラスを引くために、今まで『
まるで運命であるかのように、双刃一華はそう微笑んだ。
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