2-7


「ジョーくん、ジョーくん!」


「ん? 瑛美!」


 久丈と一華を取り囲む観衆たちを掻い潜って、瑛美が二人の前にやってくる。その手にカードを持っている所を見ると、いつの間にか引きに行っていたらしい。本当にクラス・トランス一直線だなこいつ、と久丈が呆れるのも知らないで、瑛美は歓声に負けないように声を張り上げた。さり気なく自分と一華の間に割り込んだことに久丈は気付かない。


「初めまして、一華お姉さま! 永水家の長女、永水瑛美です! ジョーくんの幼馴染やってます!」


「あら、永水のお嬢様ね。初めまして、私は双刃一華です。よろしくね」


 仔犬みたいな美少女と、絶世の美女が微笑みながら挨拶を交わすここは麗しの聖域だ。すげぇ騒がしいが。


「楽しい学園ですね! ここは!」


 いまだ止まらない「いちか」「もがみ」コールに瑛美が言う。


「まぁ、『冠装魔術武闘クラス・トランス』やってる人間は、基本的にノリがいいわね。良くも悪くも」


「ここに来る人達はみんな長くやってますしね!」


「そういうことね……さて」


 と一華は観衆を振り返る。


「皆さん、ご声援ありがとうございます!  最上くんはこれよりカードを引きますが、どうか職業クラスはご内密に! 三ヶ月後のトーナメント戦でお披露目いたしましょう!」


「頑張ってー双刃お姉さまー!「最上くん、お姉さまの足引っ張っちゃだめよ?「うおおもう王城先輩なんて怖くないぜ!「最上ぃ、負けるんじゃねぇぞぉ!」応援してるぜ!」


 上級生たちが実にテンション高く応えていく。


 その中には、久丈への声援まで含まれていて――正直に言って、じん、ときた。


 彼らは一華を見捨ててきた人達である。一華を助けようとしなかった人達である。手のひら返しと言われても仕方ない人達である。


 でも、だからなんだ。それでも今は、一華と久丈を応援してくれている。中学最後の試合で――つい二ヶ月前の試合で、観客から嘲笑された久丈は、自分が当時とは全く逆の立ち位置にいることを知った。あの頃と何が違うのか、自分の隣に誰がいるのか、この心地良い感覚は誰のおかげなのか、それをわからないほどバカでもない。


「さ、行きましょう、ジョーくん」


 観衆をかき分け、レッドカーペットを踏むように颯爽と前を歩いて行く一華。その背中を追う。そんな久丈を、ばしばしと遠慮無く周りの生徒達が叩いていく。がんばれよ、負けるなよ、任せたぞ、そう言って。


 自分のためにやってきた人助けが、誰かに応援されるなんて、今まで一度も無かった。


 運が悪いなんてとんでもない。


 最上久丈は、最高の幸運の持ち主だった――否、そうなったのだ。


 双刃一華と出会ったおかげで。




 『聖域』の部屋にひとり入った久丈は、天井から光の射す中央の台座の上に手を掲げる。すると、その手の影に『聖域』のシステムによってランダムで選ばれたカードが出現した。


 引いたカードをめくる。


「……っ!?」


 信じられない気持ちで扉を開き、外にいる一華にカードを見せると、彼女はわずかに驚き、そして頷いた。


「これ以上、ないわ」


 自信満々な笑顔で告げる。


「私達は勝てる」


 引いたカードは『道化師クラウン』。


 トランプの『ジョーカー』のような絵柄が描かれそのクラスは、一華の『舞踏剣闘士ブレイド・ダンサー』と合わせやすい技能士系のコスト1で、




 『S++《最高》レア』の、奇跡のような一枚だった。




「あなたは、このクラスを引くために、今まで『冠装魔術武闘クラス・トランス』をやっていたんだわ」


 まるで運命であるかのように、双刃一華はそう微笑んだ。


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