思わず戦略地図を描きたくなる

  • ★★★ Excellent!!!

静かなる潜入、息もつかせぬスピードで展開されるアクション。
切り取られた日常に容赦なく溢れる死と破壊。
理不尽や不条理に呆然とする間もなく襲い来る化け物や帝国兵。
生き残りと脱出を目指して知恵を絞り共闘する者達。

過剰過ぎない描写が小気味よく読者の脳裏に映像を映し、瞬時にその世界観に引き込まれていく。

帝国軍に抗う主人公たち、そして化け物の襲撃。
突然の転移によって命を奪われた街の住人達。
その住人達を襲った惨い死様を思い知れとばかりの魔素を利用しての攻撃は、正直スカっとするものがあった。
決して、チートや無双ではない。ピンチも痛手も喪失も容赦なく降りかかる。けれど彼らは確実に、この世界で強くたくましく成長している。

ライトな雰囲気のタイトルではあるが、内容は非常に緻密に練られている。
物語は最初サバイバルホラー(?)的に展開され、まずは救出と脱出、それから、奪われた街の奪還、復興、そして異世界のどこにも組み込まれることなく独立領としての地位を確立すべく他国と交渉を重ねる主人公の明晰な話術や作戦には惚れ惚れせざるを得ない。
(著者はきっと、この主人公の様な人物なのではないかと思う)

自分たちの身近に、どこにでもあるものを、ファンタジーのアイテムとして使う発想は面白く、だが一定の制限も設けられており、実に巧みな設定だと思う。

読みながら、これは今後戦記物、建国モノの様相を呈してくるのではないかという気もしていたが、そうでもなさそうだ。
災厄のように突如発動する”転移”の謎、異世界と地球の繋がり……何と言ったらいいか分からない、分類しがたい、だがとにかく面白い小説だと言う事だけは断言できる。

病を妹から救う為に危険を冒し「ゾーン」に潜入した少女レーンと転移に巻き込まれた涼一の出会いは、偶然のものだったかもしれない。
けれど、彼らが協力し合う関係となれたのは、その後描かれる彼らの人柄を見ていると当然のように思えた。

登場人物たちの心理描写は程よく限定的で実に淡々としているようにも見える。だが、この物語においてはそれで十分。時折差し挟まれる登場人物たちの他愛のない会話や動きに人間らしさと個性が伺え、決して人間模様がメインではないが、楽しめるものとなっている。
時にクスっとさせられるシーンもあり、緩急が絶妙で(それこそずっと緊張感が溢れているわけではないので)非常に読みやすい。

物語も終盤とのこと。
全ての謎が解き明かされ、そして彼らがどう生きていくのか、しっかりと見届けたいと思う。
(89話まで読了済)

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