第10話 白雪姫

 どこかの世界のどこかの王国に白雪というお姫様がいました。


 彼女は名前の通り雪のように真っ白い肌云々……と言うか、端的に言うと見た目――幼女でした。


 ロリロリでした☆


 お城の皆からはロリ雪ちゃんロリ雪姫と呼ばれて可愛がられていました。

 何ともフレンドリーな雰囲気です。


 ですが白雪には大きな悩みが。


「うーん、あたちに足りないのは、色気……!」


 白雪は自分の事を的確に把握しているようです。


 その頃、国王は後妻の座を狙う美人でグラマーな女性から猛烈アプローチを受けていました。


「すまない、私には(亡き)妻と子が……」


 王妃を亡くして久しい国王です。

 正直寂しい時もありましたが、娘白雪のためにも残りの人生独身も厭わない決意でした。

 一途に誰かを愛する姿勢を娘に教えたかったのかもしれません。


 ですが、


「あたちその人しゅき。美人ママ欲ちいなあ~」

「――この子の母親になってくれ!」


 あっさり後妻を迎えます。

 この国の権力は一体誰の手にあるのでしょうか……。


 ともかく、お城には新たな王妃が誕生したわけです。

 王妃は、魔法の鏡に問いかけます。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


「それは――ロリ……いえ白雪姫です」


 王妃は、怪訝な顔をします。


「それは心がって言う意味で……?」

「いえ容姿がという意味です」

「あと数年したらわからないけれど、今の白雪は美しいって言うより可愛いじゃない?」


「いいえ! ――超魅力的で美しいのはロリ雪ちゃんです!!」


「…………」


 鏡はロリコンでした。


 どうりで話的には返答が合っているのに違和感があったはずです。

 王妃は、嫉妬する気も起きませんでした。

 むしろ、


「大丈夫かしら……」


 頬に手を添え表情を曇らせます。

 そしてある時、王妃の危惧は現実のものに……。


「白雪ちゃーん、たまにはお母さんが背中流してあ・げ・る!」

「ホント!? 嬉ちい! 美人なママありがとう!!」

「んまあ~」


 白雪は処世術にけていました。

 継母ままははを取り込むくらい朝飯前です。

 白雪がお風呂に入ろうとドレスを脱いで下着一枚になった時でした。

 脱衣所の鏡から声がします。


「エヘエヘ、エヘエヘへ……ロリ雪ちゃん、あと一枚~、エヘエヘ~ふぉおおおおおお!」



「――――こんッッッのロリコンがああああ!」



 王妃は鋭い拳を突き出して、鏡を粉砕します。


「あなたはこのわたくしが護ってみせる……!」


 ギュッと白雪を抱きしめ、何だか熱い家族ドラマが始まりそうです。

 鏡の精は鏡ならどこにでも入り込めるので王妃は城中の鏡を一枚残らず割らせましたが、身嗜みを整えるには鏡が必要。

 結局根絶は無理でした。


「くっ……仕方がない」


 ロリコン鏡の目からどうにか娘を護ろうと、王妃は泣く泣く森の家へ隠す事にします。

 大きくなって鏡の守備範囲から外れるまでは、と。


 白雪は、地図で教えられた森の家に到着します。

 小さな小屋でした。


「ごめん下ちゃーい」

「「「「「「「……」」」」」」」


 応答がないのですが、人の気配はします。

 と、中でガタッと物音がしました。


「あ……」

「「「「「「しっ! 気付かれるだろおとぼけドーピー! 取り立て屋だったらどうすんだよ!」」」」」」


「……」


 居留守。聡い白雪は色々と察します。

 表札を見ると「7人の小人さむらい」とありました。


 昔の映画のパクリみたいな表札に、白雪は何だか胡散臭くなって潜伏犯の捜査よろしく慎重に家に入り込みます。

 訪問者が去ったと思っていたのでしょう。

 小人たちは、


「「「「「「「腹減った……」」」」」」」


 困窮していました。

 なので森は危ないとくっ付いて来ていた巡回の猟師をお城に遣わして林檎を所望します。

 この猟師、さっきからずーっと「何かいる、霊的なものが何かいる……」と白雪の後ろでビクビク縮こまっていたので、正直ウザかったのです。

 ここは樹海じゃないと言ってやろうかと何度も思いました。


 林檎は今年豊作でしたし、ジャムにしたりして保存もききます。

 荷馬車一杯に林檎を積んで戻ってきた猟師に、砂糖と他の細々したものも追加して一度森全体を見回るようにも告げました。

 これでしばらくは戻ってきません。


「「「「「「「お嬢ちゃんはワシらの命の恩人だよ。ところでこの家に何の用だ?」」」」」」」


 たらふく林檎を食べて飢餓きがを凌いだ小人たち。


「ママ――王妃に言われてここで暮らちゅことになったの。あたち鏡のある生活できないから」

「「「「「「「鏡? 何でだ?」」」」」」」

視姦しかんしゃれるから」


 小人たちは大きな雷を浴びたように衝撃を受けました。


「「「「「「「こんないたいけな子が知っていい言葉じゃない……! ってか二次元はいいがリアルは駄目だろおおおおおおおッ!!」」」」」」」


 正義に目覚めた小人たちは国中を駆けずり回って不埒な鏡を壊しまくりました。

 皆腕っぷしは優れた侍でした。

 表札、伊達じゃありません。

 森のつわものの噂を聞き付け、どこぞのロビンフットが「仲間にならないか?」と訪ねて来ましたが、畑違いだと追い返したりもしたとか。


 こうして穏やかで健やかな森の日々を手に入れた白雪。

 小人たちがいない中、花壇の手入れに庭に出ていると王子が通り掛かります。


「――! こんな所に究極の理想が……! 今すぐ結婚しよう!」


 ロリコンはここにもいました……。

 ああ世も末……。


「ちょっと、来ないで下ちゃいいい!!」

「ん~まずは熱烈なキッスを~」


 無理無理迫る変態に白雪はとうとう林檎を齧り、


「――マジカルアップルパワー!!」


 キラリキュララララーン☆


「この大変態ッ! 刀のさびにしてくれる!!」


 全身から眩い光を放ったかと思うと、何と白雪は美少女戦士に変身!

 しかも、もう幼女ではありません。

 小人たちから剣術を教わっていた白雪は刀を構え王子を睨み据えます。

 これでどうだ! 守備範囲外!


 しかし、


「ふおおおお! 大きくもなれるのか! すぐにでも君に似た子供を野球チームができるくらい作れるね!! 娘が生まれたら溺愛しよう……きっと君に似て……ふふふ」

「…………ひつぎに入りたいようね」


 変態の思考は何処まで行ってもやはり変態。

 切っても切っても同じな金太郎あめのようです。

 冷めた目の白雪はとりあえず美少女パワーで王子を叩きのめし、棺と言うか林檎が入っていた木箱に押し込めると王子の国に返送します。


 変身を解きその足で城へ戻りました。

 報告を聞いた王妃は卒倒しそうになりました。


「全くどいつもこいつも! 大国の王子だから無下にはできないし」


 ……白雪はそれ以上に怒涛どとうの攻撃を見舞っていましたが。

 ともかく、鏡よりも物理的な危険が増したため、白雪は決断します。


「……ママ、あたち大きくなるまで異世界転移ちて無双ちて来てもいい? 向こうで結婚ちてもいい?」

「白雪……ええ…っ、しばしのお別れね」


 真っ直ぐつぶらな瞳で訴える継子ままこに、王妃は涙ぐんで頷きます。


「ママ大ちゅき!」

「わたくしもよ白雪! どこにいてもずっと愛してるわ!」


 こうして護衛の小人と共に白雪は別天地へと旅立って行ったのでした。


「なあ王妃よ、最近娘の白雪を見かけないのだが……?」

「異世界に行きました」

「え!?」



 ――完!

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