第2話 桃太郎

 昔々ある所におじいさんとおばあさんがおりました。

 お爺さんは山へ柴刈しばかりに、お婆さんは川へ洗濯に……。



 ある日、力持ちのお婆さんが川から拾った大きな桃を担いで帰って来ました。

 お爺さんは感激します。


「おおっすごいな。これなら一年は食べ続けられそうだ……! 色々保存方法を模索してみよう! ちょっとした商品開発も出来そうだな!」

「でしょう? とりあえずさっそく味見してみましょ!」


 そう言って包丁で切ろうとすると、強力のお婆さんの包丁に何か危機感を覚えたのか、桃が震え出します。


「「何!?」」


 おののく二人の前で、その桃はパッカーン!と真っ二つに割れて、中から元気な男の子が飛び出しました。


「「おやまあ!!」」


 夫婦に子供はいませんでした。なので夫婦はその子を引き取り、桃太郎と名付け育てることに。


 すくすくと育った桃太郎。

 正義感も強く、立派な少年に成長しました。


 最近鬼が各地で悪さをしていると聞き付けた桃太郎。

 その正義感を胸に、


 「オラ鬼退治に行ってくるだ!」


 お爺さんとお婆さんは標準語なのに、彼だけ何故かなまっていました。


 日本一というのぼりと、きび団子をこさえてあげたお爺さんとお婆さん。


「用意ありがとう! 行って来るだ!」

「「行ってらっしゃい。くれぐれも逝かないように」」


 と微妙な言葉で送り出します。

 家族の絆がヤバいです。


 意気揚々と鬼が島を目指す桃太郎。


 と、そこに一匹の犬が現れ、


「桃太郎さん、お腰に付けたきび団子、一つ私に下さいな」


 開口一番にそう言って鬼退治の同行を打診して来ました。

 いつどこで桃太郎の目的と持ち物を把握したのでしょう?


「いいだよ!」


 桃太郎は快くきび団子をあげ、犬が仲間になりました。


「っつーか最近の犬って人の言葉を話すんだなあ! あでも花咲か爺さんとこのポチはここ掘れワンワンっては言ってたっけかなあ。だどもそれくれえしか言わなかったな。おめぇすげえなあ!」


 驚きと称賛の言葉をかけると、犬は「それほどでも~。あ、因みに公認会計士の資格持ってます」と器用に後ろ頭を掻いて照れました。

 売り込む気満々でした。


 しばらく歩いて一人と一匹は人語を解する猿に会いました。

 ヴィジュアル的に眼鏡を掛けていますがメガネザルではありません。

 日光辺りから来たのでしょうか?


 猿は当初レンズ越しに興味なさそうに桃太郎たちを見ていましたが、何かに気付いて「あっ」と声を上げます。


「ちょっと待ちたまえ。君は……竹取病院で一緒だった犬君だろう?」


「え? ――あ! そういえばその猿顔、見たことある!」

「やれやれ、猿なのだから猿顔は当たり前だろうに」


 何と言う事でしょう。同じ病院の患者だった二匹の再会でした。


「今から鬼退治行くんだけど、猿君もどう? いいですよね桃太郎さん? この猿君は何と税理士なんですよ!」


 犬の言葉に「犬君が言うのなら…」と猿は眼鏡を押し上げて了承。犬猿の仲とは無縁な二匹のようです。


 桃太郎も「心強いだ!」と実戦では果たしてどうなのかと言うインドア派を仲間にはしゃぎます。


「んだらおめぇにも食ったら百人力のきび団子あげるだ!」


 さすが剛腕のお婆さん作です。効果は力技系が強化されるとのこと。

 天晴れお婆さん。

 まるでこのパーティー編成を予期したようなアイテムを支給してくれました。これで腕力面では心配要りません。


 余談ですが、最近の動物は人語当然!と勘違いしたまま桃太郎は最後まで行きます。


 桃太郎が次に出会ったのはきじでした。


「「ん? 君は竹取病院での……!」」


 またもや感動の再会でした。


 鬼退治に行くと言うと、


「鬼には困ってるけど、あたしこれでも繁盛店の美容師だから忙しいのよ」


 と、ハサミを持ったオネエ雉は言います。


 前の二匹とは能力ジャンルががらりと違うかと思いきや、


「雉君は弁護士資格もあって10カ国語を話せるんです!」

「確かTOEIC満点を叩き出した脅威の英語力も有していたはず……」


 犬と猿が進言し、雉は、


「そんな手放しで褒められても無理なものは無…」

「――来てくれ! きび団子あげっから!」

「――わかったわ!」


 桃太郎の爽やかな笑みにころっと掌をひるがえしました。


 一人と三匹は海に出て、波間の向こうにぼんやり見える鬼が島の影をにらみます。


「世間の人々を救ってみせるだ。例えこの身がどうなろうと……!」


 近くの漁師さんに貸してもらった船というかボートに乗り込み桃太郎がヒーローらしく意気込みます。


 皆がそれにうなづいて、ボートは動き出しました。




 その頃、鬼が島では見張りが見張りをサボってだらっとしていました。


「うほ~ッ今あの子水着波に流された~ッ」

「!? どれどれどれどれ~! 双眼鏡貸せよおおおお!」


 見るべき場所を見ずに私欲に走っています。


 高級リゾート地「ザ・鬼が島」


 鬼たちの根城は南国気分を味わえるリゾート地でした。

 けれど経営難で維持費が嵩んで、その埋め合わせに世間から金品を巻き上げていたのです。


「なあ、見張りって意味あんの? どうせ敵なんて来ないよな~」

「確かに~」


 うきうき気分で双眼鏡を代わる代わる覗いている彼らは思いもしません。


「――――ぬおおおおおおおおおおーっ!!」


 桃太郎が物凄ものすごい速さで手漕てこぎボートを漕いでいるなんて。




 その頃、桃太郎は、


「鬼が島はまだかあああああーッ!!」


 地球の反対側に方向を間違えてボートを漕いでいたので、めっちゃ遠回りしていました。




 ザザーン、ザザーン。のんびり波の音。


「あー暇……」

「ほんと、帰っていいかなー」


 見張りたちは今日もだらけていました。

 翌日もだらけていました。

 翌々日もだらけ切っていました。


 そして――――……。




 結局、桃太郎たち一行が鬼が島というかリゾート地「ザ・鬼が島」に辿たどり着いた時には、資金の補てんも完了し、経営の抜本的見直しを図った結果経営が好転。

 その流れで鬼たちが世間から奪った金品を倍返ししたので、不満は治まっていました。


 拍子抜けした桃太郎一行でしたが、


「まあいいか。鬼を手中に納める方法が消えたわけじゃないし!」


 海のど真ん中で宝島を見つけ、その財宝を全て手にした桃太郎は、一国すら買える程の大金持ちに!


 言葉遣いも今や標準語に!


 急がば回れの最高に効果が発揮されたケースでしょう。


「どうぞ~桃太郎様ご一行ですね」

「ええ、どうも」


 セレブ桃太郎がにこやかに笑むと、出迎えた係の女性は頬を赤らめました。


 彼らは初めザ・鬼が島のVIP客となり、そのうち経営を牛耳れる株式の半分以上を取得。

 鬼が島は桃太郎の支配下に治まりました。


 以後、鬼たちは参謀犬猿雉の助言に従った桃太郎の掌に転がされ続け、二度と悪さをする事はありませんでした。


 お爺さんとお婆さんは桃太郎から永久無料会員にしてもらい、楽しい老後を送りましたとさ。


 後に三匹は人語を話す事もあってか、東方の三賢人とまで呼ばれたとかいないとか。


 めでたしめでたし。




 次は……たぶん花咲か爺さん!

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