第32話 学院での日常



 学院生活は忙しい。座学以外にも実習やら何やら目まぐるしく日々が過ぎていく。

 知らない知識を得るのは面白い。やはり技術面では中世レベルに感じられるが、それ以外……例えば魔法を使った分野は抜きん出ている。

 ――でも魔法に頼りきりで医療なんかは進んでいない……回復魔法があるから細かな知識が必要なくなったのか……そうなると魔法が使えない若しくは治癒術師ヒーラーに看てもらえない人達の格差が出てきてるのか。

 窓の外を見ると王都の煌びやかさが目に入るが、リヒトの胸の内は晴れない。



「では午前の講義はここまで。各自復習しておくように」

 教員の一声で皆が一斉に動き出す。

「リヒト君。ちょっといい?」

 ーー確かクラス委員に(無理やり)任命された……

「どうしたの? アンナさん?」

 黒髪おさげで眼鏡を掛けている少女だ。確かに見た目はTHEクラス委員



「それが……今日の講義で解らない所があって……」

「どれどれ?ああここは……」

 ――マニュアル様って本当に偉大だな。授業は聞いてさえいれば覚えられるし……あれ?カンニングし放題じゃね?

 恐ろしい事実に気付きながらもクラスメイトに優しく解りやすく説明するリヒトであった。



「どう? 僕の説明で解った?」

「ありがとう。リヒト君。すごく解りやすかった」

「アンナさんが頭がいいからだよ」

 そのまま雑談していると、扉の方から「アンナー。学食行こー」という声が聞こえてくる。

「はーい! リヒト君も一緒にどう?」

「今日は弁当があるから……また今度ご一緒させてもらうね」

 そう言うとアンナは手を振りながら友人達と去って行ってしまった。



 ――さて。天気もいいし木陰で弁当でも食べるか。

 そう腰を上げた所に後ろからイラだちを含んだ声が浴びせられる。

「毎日毎日女の子に囲まれていい御身分ね」

「……セシリア? どうしたの? イライラして」

「べ、別にイライラなんてしてないわよ!」

「そう?」

「……私が話しかけようと思っても、いつも他の人と話してるからじゃない」

「何か言った?」

「な、何でもないわよ!」

 首を傾げるリヒトであった。



「それで。何か用だったの?」

「用ってほどじゃないんだけど……あなたいつも昼休みいなくなるじゃない。気になって」

「ああ。弁当を食べに中庭とかに行ってるだけだよ?」

「そ、そうだったの! ……デートしてたりじゃなかったんだ……」

 セシリアはリヒトに聞こえないように呟くとホッとした顔をする。

「? 良かったら一緒に行く?」

「え?! いいの?! あ……でも私お弁当じゃないし……」

 ――怒ったり驚いたり落ち込んだり……忙しい子だな

「明日! 明日お弁当持ってくるから一緒に食べましょう!」

「う、うん。わかった。」

 セシリアの迫力に気圧されながら頷くと、ニコニコしながら「約束だからね!」と念を押して行ってしまった。

 ――試験以来あまり話せていないし、まぁいいか。

 深く考えるのをやめてリヒトも昼食を食べるために教室から去って行った。




「それにしても広い学院だよなぁ。」

 中庭に向かって廊下を歩いていると、反対側から知った顔が歩いて来る。

「ソフィア。お疲れ様。」

「! リヒト君。ビックリした……いきなり話しかけるんだもん」

 ソフィアは教材が入ってるのであろう箱を抱えながら歩いていたため足元ばかり見ていてリヒトに気付かなかったようだ。

「ごめんね。その箱は教材?」

「……うん。次の授業に使うから運んでくれって男子に押し付けられちゃった」

 気弱なソフィアは断れなかったのだろう。シュンとしている。

「そうなんだ。僕も手伝うよ」

「……え? 大丈夫だよ。それにお弁当持ってるしこれから昼食なんじゃないの?」

「いいからいいから。昼休みはまだ時間あるしね」

 そう言ってソフィアが抱えていた荷物をヒョイと持ち上げると二人で歩き出した。 



「よっと。これで大丈夫かな」

 実験室に教材を置くとソフィアが申し訳なさそうにしている。

「……ほんとにごめんね。手伝って貰っちゃって」

「気にしないでよ。友達でしょ? それに女の子にあんな大荷物持たせられないよ」

「……友達……女の子……」

 ソフィアは赤い顔をしながら俯いているが苦しそうではなく、どことなく嬉しそうな顔をしている。

「困ったことがあったらいつでも言ってよ?」

「……うん。ありがとう。リヒト君」

 顔を上げるといつものオドオドした表情ではなく恥ずかしそうな、でもしっかりとした笑みをリヒトに向けるのだった



「さぁ。遅くなったけどお昼にしよう」

 少し雑談した後、ソフィアと別れ廊下をあるき出したリヒトの耳に


――――キーンコーンカーンコーン――――


 昼休みの終わりを告げる鐘の音が無情に響くのであった。


 がっくりと肩を落としたリヒトはそのまま教室へと戻って行き、空腹のまま午後の授業を受けることになったという。



後書き

 セシリア  「ふんふーん♪」

 セシリア母 「あらあら。随分嬉しそうね。そんなにお弁当作って誰と食べるのかしら?」

 セシリア  「ち、違うわよ! わ、私が全部食べるの!」

 セシリア母 「この子ったら恥ずかしがっちゃって。若さっていいわねぇ。ね、あなた」

 セシリア  「違うんだってば! なんで私がアイツのために料理なんか……あ」

 セシリア父 「……ほう。男か……」


 リヒト   「? なんだか寒気が……」


 前騎士団長がアップを始めました。

 女子に弁当作ってもらう系男子は全て爆発するべきだと作者は思っています

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