第21話 山中での戦い


テントから出たリヒト達は兵士に見つからないように隠れながら進み、ようやく野営地を抜け出した。


「抜け出したのはいいけど、どこにいるのか検討もつかないな」

 森の奥の方にまで行かれていたら探知魔法でも探しようがない。

「風の探知だと動物達が引っかかりすぎるし……そうだ。ノア?」

 振り向きながら声を掛けるとキョトンとした女神が首を捻っている。


「なんですか? リヒト様?」

「魔物って動物と違って魔力はあるのか?」

「はい。個体によりますが基本的に魔物はヒトと同じく大なり小なり魔力を持っています」

 それだ! 風探知が使えないなら魔力を探知すればいい。

 そう思いついたリヒトは前と同じく目に魔力を籠めていく。


「……よし。これなら魔力が見える。」

「それはいい考えですが、視界に入らないと意味がないのでわ?」

「あ……」

「仕方ありませんね。ちょっと失礼します。」

 そう言うとノアはリヒトに抱きついて来る。

「ちょ、ちょっと待っ! わぷ……い、息が……」

 ノアは自分の胸で呼吸が止まりそうなリヒトに全く気付かず、バサっと翼を広げて空へと舞い上がった。

「これでどうですか?」

「ぷはっ! 死ぬかと思った……なんか爺さんが幼女に飴をあげてるのを見た気がする……」

 ぶつぶつ言いながら周りを見渡すと、

「あそこに固まってるのは数からして多分騎士団、遠くにやたら大きな魔力があるが……アイレかな?」

 さらに目をこらすと……いた。多分あれだ。


「ノア! ここから5時の方角だ! やっぱり街の方に向かってる!」

「わかりました! しっかり掴まっててくださいね!」

 そう言うとノアはスピードを上げながら一直線に飛んで行った。 


「凄い速さだな……あっという間に着きそうだ」

 風魔法で風圧を相殺しながらリヒトは目を輝かせている。生身で空を飛ぶなんて男子一生の夢だ。

「もっと出せますけど……リヒト様に負担を掛けないように飛ぶにはこれが限界です。それにしてもリヒト様?」

「ん? どうかした?」

「私のこと、敬語で話さなくなりましたね」

 あちゃあ、流石に不敬だったか? 最近なんか女神って感じもあんまりしないし友達感覚になってた。

 そんな事を思って口籠っていると

「いいんですよ。むしろ私は嬉しいんです。リヒト様との距離が近くなったと言うか……私をただの女性と見て貰えているのが嬉しくて」

 ニコニコしながら伝えてくるノアを見て、女神も色々大変なんだな。そう思った。



「あそこで降ろしてくれ!」

 魔力反応の約百m手前に音もなく降り立つと二人で息を殺す。

「……視界が悪いな。このままゆっくり進もう」

 コクリと頷くノアを後ろに音を出さないように歩み続けること数分

「いた。あいつか……本当にデカイな」

 そこには岩と見間違うほどの巨大な魔物が鼻をひくつかせていた。

「あんなヤツが街まで降りたら大変な騒ぎだ。絶対にここで食い止める!」

 そう決心して身体に魔力を漲らせ、右手には父親から貰ったナイフを握る。

 リヒトが飛び出そうとした瞬間

「リヒト様!」

 ノアに後ろから突き飛ばされた。

「ぐっ……アイツ気付いてたのか! 岩を投げるなんてなんて力だ。助かったよノア。」

 突き飛ばしてくれたノアに礼を言うために振り向くと

「ノア!」

 そこには破片が当たったのか脚から血を流すノアがいた。

「私は大丈夫です! 少し休めば止まります! リヒト様は私が援護できない間時間稼ぎをしてください!」

 治療しようと駆け寄ろうとしたリヒトを制すると、ノアは治癒魔法を使い始める。

「すまない……おい! このデカブツ! よくも俺の家族を傷つけやがったな!」

 そう叫ぶとリヒトの魔力が膨大に膨れ上がる。

「グルゥ……」

 何かを感じ取ったのか警戒しているような素振りを見せる魔物が脚に力を入れたかと思うと

 ズドンッという大きな音と共に巨体に似合わぬスピードで突っ込んでくる。

「早い! ……でも!」

 身体を捻りながら突っ込んできた魔物の脇をすり抜ける。

「父さんの剣の方が何倍も早い」

 背後で呻き声を上げるグランデグリズリーの左腕からはボタボタと血が滴っていた。



「それにしても……なんてパワーだよ……」

 目の前にはグランデグリズリーが踏みしめた地面が陥没していた。

 ……まともに当たったらミンチだな……

「まぁ……」ナイフを逆手に持ち替える「当たらなきゃいい話だ!」

 そのまま風魔法を放ち、反動で飛び出していく。

 ……まずは、厄介な脚を止める!

 やつはまだ傷に気を取られているだろう。反対の右脚を貰う!

 そう決めて後ろから一気に襲い掛かる

「グガァァ!」

 ……まずっ……!……

 振り向きざまに打ち下ろされた右手にリヒトは咄嗟に両腕を交差させて防御する。

「がはっ……」

 吹っ飛ばされて木に激突したリヒトの口から血が飛び散る。

 風魔法で障壁を張るのが間に合わなかったら確実に死んでいた。 

 ……身体は動く。背骨は大丈夫。……衝撃で肺が押しつぶされただけだっ!

 魔法でむりやり肺に酸素を送り込み呼吸を整える。


「やっぱり一筋縄ではいかないか……」

「グルガァァ!!」

 グランデグリズリーもリヒトをただの餌から明確に敵と判断したようだ。

「今のうちに吠えてろ! お前は俺が仕留める!」

 どちらともなく両者が飛び出し、爪とナイフが交差した。

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