第27話

見えないなにかが曲がったように見えた。と判ったときにはすでに回りは草原だった。その草原の中に一本の道があり、それは僕の足元まで続く石畳だった。

「一瞬だなー」

遠藤部長の間伸びた声がした。急いで周りを見ると全員が立っていた。

「すげぇ森」

安高の声に後ろを見ると、草原に相対してうっそうとした森があった。石畳の道は森の中には続いておらず、森は突然終わって草原となっており、それはとても不自然に思えた。まるで、それは。

「その森は境目ですから、入らないでください」

宮本さんの硬い声がした。それで体感できた。

ここは知らない世界なんだ、と。

「う、うん」

安高は1歩離れた。僕も1歩離れた。謝罪の意味だった。たぶん。僕たちをみた宮本さんは小さく息をついた。彼女も緊張していたんだ。

「目的地はあちらです」

宮本さんの指差す先を見る。とはいえ、道はひとつでその先を指しているだけだ。

「あの先に学校があると」

「はい」

「見えないけど、結構歩く?」

「いえ、そうでもありません」

「なるほど」

ふたりが歩き出したので、ぼくたち3人はその後に続く。遠藤部長の言うとおり、道の先にはなにもなく、うねりながら草原の中をつづくだけに見えた。

「今、何時なの?」

遠藤部長がのんきに尋ねる。「日本時間と同じにしました」と宮本さん。「……なるほど」と答えるそのやり取りの意味はわからなかった。遠藤部長は魔法使いなのか、と思う。質問をして、あの答えで理解しているようだ。僕は算所と安高を見た。ふたりとも首を振っている。遠藤部長がすごすぎるのは知ってはいたけれど、この事態にまで対応可能だとは汎用性が高すぎるのではないだろうか。

「国枝は不思議そうだね」

振り返って遠藤部長が笑う。

「ええ、そうですね。って僕だけじゃないですよ?! 算所も安高もわかってないですよ?!」

「あたりまえじゃん」「当然だろ」

判らないことを、判らないといえる。それが僕にはできない。いつものことだけれど、今はどうしようもなく恥ずかしい。

「そりゃ、僕だってわからないから聞いたんだよ」

もう一度、遠藤部長が笑う。

「場所を移動しただけじゃないんだよ」

「はい?」

「ああ、なるほど」

算所はこれでわかったようだ。

「場所と時間を移動した、そうだよね、宮本さん」

「はい、そのとおりです。日本時間に合わせたほうが都合がいいですから」

ここまで説明されないと僕にはわからないんだと思うと、もう、どうしようもなく、体の中を何か、操縦できない獣の力が走り回って、体を食い破りそうな気持ちになる。

僕は、思春期だ。

そう自分を見下ろす呪文を唱える。

「あ、スマホつながるじゃん」

安高、すげーよ、お前。

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