第56話 人を呪わば穴2つ

「暗くは無い!! 声が枯れ果て、血が出ようとも我は呪いの言葉を叫び続ける」

「とりあえず…カインさんの話を聞いて、仲直りすれば、お互いにココから出れるんじゃないの?」

「保証はないけどのー」

「ハァー…保障どころか、カインはでられませんよ」

 頭の上から溜息まじりの声がする。

 綺璃子キリコが上を向くと、ヒラヒラ、フワフワした水色の衣を纏った、なんだかそれっぽいのが見下ろしている。

「天使っぽいのがいる~」

「絵にかいたような天使やの~」

「当たり前だ…私に形などない、お前らのイメージで、そのように映っているだけの超高次元の存在なのだよ、たかが人の子よ…」

「偉そうやのー、ちょっ、降りて来てみ?」

 イプシロン(仮)が挑発する。

「断る…絶対殴るもん、オマエ」

「そのとおりやけど…調子狂うの…なんやキャラが」

「ラファエル…だろ?」

 綺璃子キリコの足元からアベルが天使に話しかける。

「そのとおりですよ…様子を見に来たのですが、どこです?アベルさん」

「ふっ…私の姿が見えぬのも無理もない…私にもオマエの姿は見えぬ」

「どうゆうことですアベルさん?」

「簡単な事…私の顔を跨ぐ女がいるゆえ、私からは女の海のような青い下着しか見えぬのだから…」

 綺璃子キリコは思いっきりアベルの顔を跨いでいた。

 グシャッ!!

 綺璃子キリコがアベルの顔を踏みつける。

「娘よ…久しく見ぬ青い色が見れて満足だ」

 地獄の空は毒々しいオレンジ、無理もないのかもしれない。

綺璃子キリコのパンツに海を感じるとはのー、悲しい話やで、綺璃子キリコ、存分に見せてやったらどないやろ?」

「人の子よ…私からも頼みます」

「うん…ホント、ちょっと降りてきてくれる?」

「断ります…殴られる気がしますから」


(^_^)/~

「ときにアベルさん、未だ恨みは晴れませんか?」

「晴れるわけもない…私の心に、娘のパンツのような青色はもう…」

「しつこい!!」

 グシャッ!!

「カインさんも…神の戯れで憐れとも思いますが、あなたは、その黒き心を抱かなければエデンにも行けましょうに…このような地で呪いの言葉を叫び続けることになろうとは…」

「あっ?忘れてた、そのカインさんから、お手紙を預かっております」

 綺璃子キリコが鞄からゴソゴソとメモを取り出す。

「なんと?カインさんからの?」

「はい、偶然会ってー、なんか伝えたいことがあるとかでー、言葉をメモしてきたんです、アベルさんへ」

「ほぉ~アベルさんの?どんな様子でしたか?」

「寒そうやったの~、ガッチガチ歯がカコココしてたで」

「そりゃ…そうでしょうね…コキュートスですからね…そういうことじゃなくて」

「うん、なんか謝りたいって…言ってたね」

「せやな…カコココの合間にの」

「せっかくですから聞いてさしあげましょうよ、アベルさん」

「……今さら……」


(-"-)

「読むわよ~」

「テレッテ♪テレレレー♪」

 イプシロン(仮)がBGMを奏でる、もちろん口で、なんか涙お願いしますよ的な音楽を。

『ディア、アベルさん。あれから何万年経ったでしょうか…あの日、つい撲殺しちゃってから、僕は、妹を妻として何千年も職と各地を旅して…(放浪のですよ)…子供を残しつつ…(仕方なくですよ)…老いていく身体をひきずり、その生涯をとじました。正直なところ、割と苦労もしたし…でも、なんか僕を虐めたら、酷いことになるよ的な呪い?もかけられていたようで、思ったほどは虐められませんでしたけど、でもなんかアイツアレなんだぜ的な事を言う人もいたりして、あんまり定住とは無縁のジプシー的な感じで、まぁなんでした。死んでからエデンに行くものと思ってましたが、なんだかダメらしくて、今はコキュートスというところで氷漬けの毎日を送っています。何万年もこうして氷浸けっていると、頭に昇った血が冷えるのでしょうか、冷静に物事を考えられるようになります、とはいえ、逆さ吊りなので、頭には血が昇って行くんですけどね(笑)あなたは、私の血筋が途絶えるまで地上のヒトを呪い続けているそうですね、風のうわさで聞きました。蒸し暑い2階層で埋められているとも…願わくば、もう一度話し合う機会を与えて頂ければ、すぐには無理でも…歩み寄れるかもしれないと僕は思っています。』

「だそうです」

「あれ?泣いてへんやん」

「アベルさん?」

「いいだろう…カインが私と話したいのであれば…その目の前で罵ってやろう…この声が枯れるまで」

「アベルさん…いいでしょう…その願い叶えましょう」


 その後、アベルはコキュートスで埋められ、吊るされたカインの真下で兄を罵っている。

 綺璃子キリコが、そんなアベルに送ったもの。

「のど飴あげる」


 ラファエルに地上まで送ってもらった綺璃子キリコとイプシロン(仮)の地獄めぐりであった。


『そのもの、青き下着を纏い、コキュートスへ降り立つべし…』

 伝説はまことであったそうな。

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