第54話 黄泉平坂行きって

「頼む…罪が許されぬ私の代わりに弟へ、言葉を伝えてくれまいか…妹よ」

「え~、人類皆兄弟なんでしょ?どの弟よって話ですよ」

「逆に考えたら誰でも、えぇんとちゃうかな?」

「アベル…弟の名はアベル」

「そんな名前だけ言われても~ねぇ~」

 チラッとイプシロン(仮)を見る綺璃子キリコ

「せ…せやで…写真とか無いの?無かったらちょっと無理やで、世界にアベルさんいっぱいおると思うで」

「アベルは…冥界にて、そなたらを…呪うている、今も…」

「呪う?…弟もヤバイ系?」

 綺璃子キリコの顔が、あからさまに嫌そうな表情に変わる。

「頼む…動けぬ私の代わりに…頼む」

 ハングドマンことカインの目から涙が流れ、氷の粒となって地面に落ちて砕ける。

「あんさんねぇ~、そのアベルさん?になにしたか知りませんけどね、見ず知らずのワシらが、ゴメン言うとったで~言うても伝わらんのとちゃいますの?しっかり罪をつぐのうて、自分の足でアベルさん?のとこ行って、謝ったらえぇがな」

「カイン兄さん、アバレルさんに何したんです?」

「アバレルではない…アベルだ…私は弟を…アベルを…殺したのだ」

「バカたれがー!!」

 イプシロン(仮)が綺璃子キリコに飛び蹴りをかます。

「なんでアタシよー」

「重たい話、引っ張り出し寄ってからに…ホンマ、オマエはトラブルメーカーやで!!」

「カイン兄さん、アベルさんを?」

「そうだ…私は嫉妬に駆られアベルを…弟を…殺めたのだ…」


 。--。

「ふぇ~ん…ごめんなさい~」

「せやから言うたんやんか!! 重たいねん!! オマエのパンツ泥棒とレベルがちゃうねん!!」

「知らなかったのよー、人類最初の殺人者だったなんて~、人類最初の嘘つきだったなんて~」

「しかし…たまげたヤツやの~カインっちゅう兄さんは…」

「ねぇ?ちょっと神様に意地悪されたからってね~」

「ホンマに殺さんでもな~」

「神様って肉食系なのね、野菜より肉を選んだんだし」

「そういうことやね、カイン兄さん、罰で農家でけんようになった言うてたしの」

「でも、なんとかいう人が、イジめちゃダメって言い聞かせたけど陰口に耐えられんかったんちゃうか」

「そうね~転職多いって言ってたわね~」

「面倒くさいことになったわね~」

「ホンマにの~…傷心旅行だったのにの~」


 。^^V

「1週間…有給休暇をグスッ…」

 綺璃子キリコが半泣きで不破さんに申し出た。

「零はん…綺璃子キリコの気持ちを汲んでやってくれんか?ギリギリやねん、入ると思うてた額と、通帳の残高現実の落差が大きすぎんねん…頼む」


 そんなわけで…

「東海道を巡って京都に行くグスッ…そうだ京都に行こう…」

 なんやかんやで旅支度をして…バスに乗り込んだのだが…。

 トンネルを抜けると、そこは…黄泉の国でした。

「間違うて…黄泉平坂よもつひらさか行きに乗ったんやの」

「戻るわよ!! 死者の国に用事は無いわ」

「ひょっとしたらくだんもおるんちゃうか?」

「どうでもいいの…今さら…悲しい思いでは、ココに捨てていくわ」

「黄泉の国に思い出不法投棄すなや…バチ当たるで」


 黄泉の地下鉄は複雑であった…迷い迷い辿り着いたのは国境超えた地獄であった。

 国内旅行なのにパスポートを持っていたのがいけなかった。

 さらに希望を捨てたのが行けなかった、アッサリと門を潜り…バスに乗って眠って起きたら終点コキュートス。

「次のバスは何時なのよー!!」


「アベルっちゅうのは何処におんねん?」

「さぁ?」

「兄さん適当すぎますやん…情報ガバガバやん」

「しょうがないんじゃない?ずっと氷漬けで吊られてんのよ」

「ネット環境悪そうやしのー」

「そうなのよ…ずっと圏外なのよ」

「置いてかれとるのー地獄っちゅうとこは、あきませんわ」

「とりあえず、地獄にはいないんじゃない?」

「そうやのー、せや!! 適当なトコで降りて聞いてみたらええやん」

「誰に?」

「誰でもええで、適当に何人か聞いたらわかるんちゃう?」

「う~ん、じゃあ…」

 ピンポ~ン♪

 綺璃子キリコが『次降ります』のボタンを押す。


「どこやねん…ここは?」

「第三階層…って書いてあるわよ」

「中途半端なトコで降りたのーオマエは…」

「なんか獣臭いし…犬臭い…人いなそう」

「もうちっと、外の様子を見て、ピンポン押しや…それにワシ、ちょっとピンポン押したかってんぞ」

「知らないわよ…しかし、生臭いとこよねー」

「おっ!! 綺璃子キリコ犬と遊んどる人おるで」

「どこ?あっホントだー、あの人に聞いてみよー」

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