第52話 ドリーマーズ 夢追い人

「チョコムース美味しい…バラの香りがステキング~」

「では…当選券をお預かりしてよろしいでしょうか?」

「はい…えっとコレです」

 鞄から銀色のアルミホイルを差し出す綺璃子キリコ

「これは…これは厳重に…当然ですねー」

「当然ですよー、当選だけにー、アハハハハッ」

 舞い上がって自分の妙なダジャレで一人ウケる綺璃子キリコ

 えっ?って顔の銀行員3名。

「ん?あれ?可笑しくないですか?」

「あぁ…いえ…もうアハハハハッ…」

 無理やり笑う銀行員。

「では…お預かりします」

「はい」

「確認させていただきますので…もう少々お待ちください、ケーキまだありますけど?」

「ホントですか?アタシ~、オレンジムースの食べたいです」

「ご用意いたします」


 ケーキを5個食べて…残りはお持ち帰りでって言われて、上機嫌の綺璃子キリコ

(プチセレブ最高ー!!)

 貯金は億からだわーとしみじみと実感したのである。

 所詮、金だわ…窓口で自分で書類書いて、数万円をやりとりするなんて…客だなんて思ってないのよ、こういう1部のセレブのために彼らは存在しているの…そうこのケーキのように。

 なんだか涙が溢れてくる綺璃子キリコ

「ちょっと…よろしいでしょうか」

 先ほど出て行った銀行員が支店長を呼んでいる。

 入口のドアの方へ移動して、なにやら耳打ちしてヒソヒソと話している。

「……高額当選……いや…そうなんだけど……」

 ポツリポツリと聴こえる会話。


「あの…当選金はお持ち帰りで?」

 戻ったのは、支店長ではなく窓口のお姉さん。

「はい?いえ…とりあえず御預入れでお願いします…さすがに全部はちょっとねー」

「かしこまりました。では、口座をお作りしますので、こちらに記入お願いします」

 いつもの見慣れた紙が差し出される。

 カキカキと書いて…

「で?おいくらほどに?」

「あっ…ご当選金額は…9万…8千5百円です」

「ん?」

 綺璃子キリコが書こうと思っていた欄は億の場所…ボールペンもソコに先端が置かれていた。

「え?」

「あぁ…ココです」

 とお姉さんは、ボールペンをヒョイと摘まんで万の桁に移動させた。

「9?」

「9…8…5で00です」

「はい…」

「はい、ありがとうございます」

 サッと用紙を受け取って出て行った。


 警備員が2名、冷ややかな目で綺璃子キリコを見ている。

「失礼します」

 営業っぽい人が入ってきた。

「この度はご当選おめでとうございます…3等98,500円、確かにお預かりいたしまいた。これからも当銀行をご利用ください」

「……はい……よろしくお願いします……」

「他になにか?」

「いえ…なにもありません…なんか…ゴメンなさいというか…失礼しようかと思います」

 綺璃子キリコがケーキの箱に手を伸ばすと、キッとメガネの奥の目つきが変わった銀行員。

「はい…当然だと理解できます…」

「出口までご案内して差し上げて」

 銀行員は警備員にそう言うと、部屋を出て行った。


(なんか…死にたい…)


 。―――。

 歩いて帰ってきた…当然だがタクシーなんて使えないからだ。

綺璃子キリコー!! オマエ時間掛かったやんけ、心配したでー、今な不破ふわはんと焼肉予約したんやで、久しぶりに行こうや…って…なんで泣いてるん?オマエ」

「ふわ~ん!! ケーキが美味しかったー、みんなに食べさせてあげたかったー、店ごと買ってあげたかったー」


 焼き肉…美味しい…馬鹿丸の店で残念会を開いてもらった綺璃子キリコ

「三等だったとはね…高額当選には違いありませんけど」

「なんで、オマエは確認せぇへんのや」

「だって…くだんのおっちゃんが…1等だと思うじゃない…」

「3等からは銀行に行くから高額当選って表示されるんですね、知らなかった」

「うっ…うう…」

 食べながら泣き出す綺璃子キリコ

「泣いたらアカン!! 綺璃子キリコ…泣いたら…アカン…」

 イプシロン(仮)も泣きそうな顔をしている。

「飛行機…乗って…インテリジェンスな旅をしてみたかった…」

「せやな…そんときはワシ…檻で輸送されるんやけどな…景色も見れんけどな…」


「まぁ…10万円は当たったわけですから…良かったと思いましょうよ…ねっ」

「6億が…10万に変わる、見たことが無い落差に絶望したんです…アタシ」

「今夜は御馳走しますから…ねっ…明日からまた頑張りましょう」


「ゴチになります…あーんっ!!」

「泣いたらアカン…綺璃子キリコ!! 泣いたら負けやん…世間に負けんと生きなアカン…」

「うん…アタシ生きる、どんなにツラくても…妖怪になっても、いつか6億当ててみせる、その時まで死なない」

「その意気や!!」


 近年稀に見るバカ2人の夢は脆く崩れたのであった。

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