第35話 天国行きのバス

「じゃあ明日、ちょっと出張ということで」

「あの一応、行先を聞きたいんですけど」

「はい、まぁ言い難いのですが…天国の手前です」

「大霊界ですか~」

「魂が抜け出たら行くとこですから、まぁロケハンの感覚でお願いします」

「天国へ?ロケハン感覚で?」

「じゃあ、今夜はお疲れ様でしたということで」


 。―――。

「ねぇ…アンタ天国って行ったことある?」

綺璃子キリコ~、オマエ、ワシのこと覚えとってくれたんやな~」

「はっ?」

「いや、前回、ワシ自分の存在価値を…アイデンティティを見つめ直してたんや」

「うん…なんで泣いてるの?」

「泣くやろがー!! 自分を、自身の内側を覗くってツライやろー!!」

「ハイハイ…たこ焼き食べる?チンする?」

「…する…」

「美味しいのー、生きてて良かったのー」

「えっ?死のうとしてたの?」

「妖怪も、人間も、その存在を忘れられたらときが本当の『死』ですやん」

「はぁ~」

「今日は『死』を感じたで」


 。―――。

「おはようございます」

「おはようさん」

「待ってましたよ、準備は出来てますから」

「アハハ…やっぱり行くんですね…天国」

「1歩手前ですけどね」

「臨死体験っちゅうやつやな、オマエ、得意やん」

「特技にした覚えはないわ、履歴書に書けないし」

「さっそく行ってもらいますか…ねっ綺璃子キリコさん」

「ん?…あれ?なにか、えっ?アタシが行くんですよね?」

「そうですよ」

「アタシだけ?不破ふわさん行かない感じに聞こえましたけど」

「僕は無理ですね、魂が簡単に抜けませんから」

綺璃子キリコは、ポンッと抜けるもんのー、鼻パックの角質みたいにスポッと抜けるやん、オマエ昨日もいっぱい取れてたやん」

「うるさいわねー、今、問題は角質じゃないの!! アタシ1人でGo to HEAVENするってトコなの!!」

「大丈夫ですよ、1歩手前です。まぁ早速行きましょうか」

 不破ふわさんが、綺璃子キリコの背中をドンッと両手で押すと、ポンッと魂だけ前へ1歩押し出される。

「うっ…なんか変な気分」

 自分の身体が不破ふわさんに抱きかかえられて店の奥に運ばれていくのを不思議な気持ちで見守る綺璃子キリコ

「まぁ、気ぃ付けて行くんやで、留守中のことはワシに任しとき!!」

「戻れるのかな~」

「大丈夫ですよ、4時間ほどで戻ってくださいね」

「過ぎると…やっぱり?」

「えぇ…そういうことです」

「あー!! でもどうやっていくんですか?天国」

「すぐ迎えが来ますよ、バスか電車か、まぁそういうものが…ほらっ」

「猫やん…猫のバスやん」

綺璃子キリコさん、パウチの里ですよ!! 寝過ごしたりしないでくださいね!! 終点に着いたら戻れませんからね」

「はい…行ってきます」

 綺璃子キリコは重い足取りで猫のバスに乗り込む。

「達者でなー、お土産とか気にせんといてなー」


 。―――。

「で…なんでアンタも乗ってるの?」

「なぁーワシもソレを考えてたとこや…思うに、魂の一部が繋がっとるわけでースコーンとオマエに引っ張られとしか…」

 その頃、不破ふわさんは、ハンカチ持って、手を振ったままの姿勢で白目を剥いて倒れたイプシロン(仮)を綺璃子キリコの隣に寝かせていた。

「仲のいいコンビですね、しかし、そうか…こういうことになるんだな…うん」

 勝手に納得して、店番に戻ったのである。


 猫のバスは早かった。

「見てみぃ綺璃子キリコ、ワシら風になってるでーってテンション低いのー」

「天国一直線のバスに乗ってんのよ!! ノー天気姉妹みたく、はしゃげないわよ!!」

「おっ?次やで、降りなアカン」

「ピンポン押さなきゃ」

「ワシ押したい!! ピンポン係りはワシやでー」

「面倒くさいわね、ほらっ」

 綺璃子キリコに抱えられて『次降ります』ボタンを押すイプシロン(仮)。

「見えてきたでー」

「アレが?」

「そうみたいやな…」

「天空の城ね…まるで」

「どっかで視たことがあるような気がするのー」

「気のせいよ…」

「…ラピュタやん…」


 かくして、ラピュタ…『パウチの里』に降り立った2人。

 ロボット兵の迎えはあるのだろうか…。

 いや…さらわれた人を救えるのだろうか?

「大丈夫や!! 根拠は無いが、自信はあるで!!」

「いや…それ一番ダメなヤツよ」

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