紙質

 番外二項目である。

インクと紙の相性、ヘビィな万年筆ユーザにはいつでも頭を抱える問題である。インク沼の項では敢えて話題にしなかったが、インクには粘度がある。

粘度が低ければ水のように、粘度が高ければスライムのようにと思っていただければ良い。当然後者のようなインクなど有り得ないが、たとえ話であるからお聞き流し願いたい。

 そして万年筆にはインクのフローという概念がある。つまりこれは、インクがペン先からどれほど流量豊かに流れ出るかということである。

フローが多い万年筆に粘度の低いインクを詰めれば、当然インクは多く流れ出る。逆にフローが渋い万年筆に粘度の高いインクを詰めれば、当然インクは少なく流れ出る。

 どちらがいいということではない。問題はそれを受ける紙である。一概に高い紙を使えばいいということでもないから難しい。

つまりはインクとその流量に対して相性の悪い紙を選ぶと、書いた裏側に抜けたり筆跡が滲んで髭のように見えたりしてよろしくない。

そんなことは気にしないのだという豪傑はこの項を読む意味はないだろうと思われる故、読み飛ばしてしまって結構である。

 インクのフローと粘度による組み合わせの数は一つ一つ筆記していられる量ではない。自身が気に入った組み合わせに合う紙を探す旅に精を出して頂くのが良いだろう。

私個人としてはライフ社のノートをお勧めする。学生諸氏にはぜひツバメノートを。どちらも素晴らしい逸品である。

 さて、紙の色は大きく白色とクリーム色に分かれる。これは拘る人が存外少なく、驚くべきことである。大体我々が物心つく頃から親しむノートや紙といえば白色の紙色である。実際私も高校を上がるまでは白色の紙にしか筆記をしたことがなかったはずだ。これを読んでいる方にも、そういう方がいるかもしれない。

 なればこれを機にぜひ一度、クリーム色のノートか紙を手にしてみてほしい。そこに黒かブルーブラックかのインクで、なんでもいいからしたためてみる。

乳白色の素地が持つラキジュリーとインクのコントラストは美しい。

 この項の要旨、実はこの点にあるのだ。クリーム色の紙こそ、万年筆が持つ優美な筆跡を引き立てる。万年筆の筆跡は美しい、なれば裏抜けや髭は情けない。月に叢雲むらくも花に風、万年筆の美しさを損なう理由にしかならない。そして月は夜に浮かぶからこそ美しい。なれば万年筆の夜空とはクリーム色の紙に他ならないのだ。

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