二章 ボルズ公屋敷襲撃編

ボッチ、師匠と二人きりで訓練を始める

 皆朝は好きか? 俺? 俺は好きでもないし嫌いでもないな。でも皆からよく聞くけど、朝が苦手っていう人いるじゃん。だから俺の予想では皆嫌いだと思ってるんだけど......え? なんでいきなり朝の話してんのかって? まぁ......そうだな......俺は今、布団のなかにうずくまってるんだが、布団の外が何かうるさいから耳も塞いでるんだけど、このうるさいものが早く居なくなってほしいとつくづく思うんだ。だけど、これは完全に居なくならないことを俺は知っている。だってうるさいものの正体が分かってるから分かるんだ......このお節介な奴は絶対に居なくならないって───


「全部聞こえてるぞ、駿」


「ヘアッ......!?」


 ベットの横から、優真が駿の図星をついた。


「ほら、起きろ。いやもう起きてるから布団から出ろ」


「い、イヤだ! 俺はこれから朝、女の子の声で起きるのが鉄則と決めたんだ!」


異世界に来た以上......これは譲れないぜ......


「そんな鉄則捨てちまえっ!」


「イーヤーだー!」


「お前は子供かっ!」


「子供で~す! まだ二十歳になってないんで~す!」


「はいはい屁理屈言わない。ほらさっさと布団から出ましょうね~?」


「屁理屈じゃないで~す! 本当のことなんで~す! 優真ってひょっとして......バキャ?」


「ムカ......」


 優真は布団からなかなか出ない駿を引っ張り出そうと頑張るが、必死な抵抗をするため、なかなか引っ張り出せなかった。


 しかし優真は悔しむ様子がなく、逆に余裕な笑顔を浮かべ、隣(.)にいた人物に言葉を投げ掛けた。


「あ~もうどうする......? 優菜さん?」


えっ......


 優真のその言葉を聞いた瞬間、駿は明らかに動きを静止する。


「───ふふっ......近藤君って、結構子供っぽいんだね」


「えぇ!?」


 その聞き覚えのある声に駿はガバッと布団から勢いよく顔を出して、声の源に視線を向けた。


 そこには、いつも通りの活発とした雰囲気を漂わせるポニーテールで、くりっとした目をした優菜が片手で口を抑えながら笑っていた。


「な、なんで朝倉さんがここにいるんだ......!?」


 その言葉に優菜は苦笑した。


「あれ? もしかしてお邪魔しちゃった?」


「いや別に歓迎なんだけどさ、なんで朝っぱらから俺の部屋に?」


 優菜は微笑みながら、優真を指差し、こう言った。


「いや、さっき部屋の前でばったりと会って、優真くんが今から近藤君起こしにいくから一緒に行かない?、って誘われたから、面白そうだなって思って......」


「あぁ、なるほどって優真............まさかこれを予想して!?」


「実はそうなんだよ」


「ごめん......冗談で言ったつもりなんだけどその満更でもないような顔で肯定されるとこちらとしては引いてしまうんだが......」


「分かった分かった。それよりも早く朝ごはん食べに行くぞ」


 駿の言葉を受け流しつつ優真はそう言って、部屋を後にした。


「はぁ......朝倉さん。さっきのは忘れてくれるか......」


「いやいや無理難題でしょそれ」


「だよな」


 駿はもう一回溜め息をついたあと、ベットから起き上がり、着替えを始めようと「朝倉さん、着替えるから」と、優菜に部屋から出ていくように言って、優菜が扉を閉めたと同時に着替えをさっさと済ませた。


「よし......じゃあいくか」


 駿は背伸びをしながら、部屋をあとにするのだった。


▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣


「あれが転移者か......」


「は......」


 午前10時頃、外で集まりつつある三十人の転移者達のことを、塔の一角の窓から眺める人物がいた。


 窓の前に堂々と立っている人物はそれらを眺めて、鼻で笑った。


「強者達と聞いていたがそれほどでもないではないか......あれほどのもの、騎士十人で事足りる」


 そんな言葉を放つ王子に、斜め後ろがわで跪いていて控えている騎士団長・アースレルは顔を僅かにあげて、静かに申し上げた。


「セエル王子......確かに現時点ではそうかもしれませんが───」


「───口答えするのか?」


 と、アースレルの言葉を遮ると同時に、セエルは睨みつけた。


「......いえ、誠に申し訳ありません」


「ふん、最初からそうしとけば良いものを......まぁいい。下がれ」


「は......」


 アースレルはそういうと静かに立ち去った。


 セエルはそれを見届けると、また窓を見つめ今度は不敵な笑顔を浮かべる。


「異世界人が......誇り高き我がグランベル王国の神聖なる城に穢れた足で踏み入れおって......私自ら叩き潰してくれる」


伝説の剣は......私が全て従えると決めたのだ


 セエルは腰掛けてある長く鋭い業物の長剣の輝く刀身を見ながら、「邪魔する者は全て処罰だ......」と呟き、部屋を後にした。


▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣



 一方で、転移者たちはこれまた豪華な朝食を食べ終わり、続々と集合場所である訓練所に集まっていた。


 全員が、これから戦いの訓練をするという事で男子はすごく浮き足だっており、女子はまだ眠い人も多いのか、男子達をみて、なんでそんなにはしゃげるのか......、と溜め息をついている。


 駿もまた、溜め息をつかれる側の人間だった。


「よっしゃ! きた! ここで才能を開花させるんるんっ♪ そして伝説の剣、ゲーム風で言うと即ちレジェンダリーウェポンを見つける旅にでるのだ!」


「お、おう......まぁ気持ちはわかるが落ち着け?」


「黙れ小僧! 貴様にこの世界を救えるかっ!」


「いや救える力がなかったらそもそも呼ばれてないんですけど......」


 こんな風に、駿は今までになく気分が高揚している。


 優真はそんな駿に合わせるのが面倒くさくなってきた。


「駿......そういえばスキルの件なんだけ───」


「────........................(ガクッ)」


「お、おいどうした」


「............」


 気になった固有スキルの話をしようとした優真だったが、その前に話す相手である駿が何故か今までの姿とは比べられない程に、落胆した。


「駿......?」


「......」


 何故駿がここまで落胆しているのか、優真は回想していると思い当たる節が見つかった。


スキル......落胆......もしかして


「あっ......」


 優真がそう察したような口調で言うと、駿はガバッと顔をあげて


「ソレイジョウ......ナニモユウナヨ?」


 虚ろな目をしながら、不気味な笑顔を浮かべた。


 優真はそんな駿に苦笑し、同情する。


「まぁ......ドンマイ」


 優真はポンと肩を叩いたら


「......よし表出ろよ?」


 と、駿に怒られてしまった。


 そんなことをやっていると───


「───全員集合しろ」


 と、アースレル筆頭に師達が訓練所に姿を現した。


 集合がかかり、自然と学校の癖で皆は背の順になって並んだ。


 僅か三十秒で綺麗に列になって並ぶ三十人を見て、「ほう......」とアースレルが感心するように喉を鳴らした。


「───では、これからの予定を説明する」


 と、アースレルが説明をした。


まず最初にすることは、それぞれの師が担当する職業ごとに分かれて、基礎を訓練を四時間ぐらいした後、一度昼食をとり、その後は二時間はこの世界について勉学。そして自由時間、入浴、夕食、就寝といった流れだった。


「尚、この予定を今日から1ヶ月毎日続ける。そしてその1ヶ月終わったら、残り1ヶ月は様々な技を取得してもらう。本格的な戦闘を通してさらにその技術を磨きにかけ、その先で自分なりの技をどんどんと作っていってほしいと考えている」


 そのアースレルの言葉に、全員が深く頷く。


「よし、では開始する」


 その号令と共に、師達は自分が担当する職業を叫んで、その職業になった人は走ってその師達に合流する。


「......始まった」


なんだか緊張する......


 その頃、駿は右手で作った拳を、一人見つめていた。


これは......RPGゲーム世界じゃ味わえない怖さ......でも悪いものでもないな


 そんな駿の名前を後ろから呼び掛けられた。


「───シュン、行くわよ?」


 その声がする方に振り返ると、風に揺れる赤い髪を片手で抑えながら微笑んでいるアリシアの姿があった。


さてと......


「はい! 師匠!」




───いっちょ強くなりますか!



 駿とアリシアは二人、訓練所を後にした。




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 意気込んだ駿は、アリシアと二人で王国から少し離れたところにある、大きな山に来ていた。


 その山は森に囲まれ、至るところに草木が生えている。しかも生えている木は直径五十センチぐらいを優に越すほどの大木ばかりで、行く手を阻む木を避け続けるため直進できるところなんて何処にもなかった。


 そんな草木しかない山に来た駿とアリシアは、ここで訓練をしていた。


「じゃあまず、模擬戦しましょう」


「え......?」


「模擬戦のなかで、あなたの動きをみて、どれを優先的に直せばいいのか判断するのよ」


「そ、そうですか......」


「貴方はこれを使いなさい」


 アリシアは差し出しのは騎士が扱う一般的な長剣だった。


「はい......」


「じゃあ構えて」


「あ、あの......お手柔らかに」


「分かってるわよ......ほら、遠慮しなくていいからあなたから来ていいわよ」


「はい! ......い、いきます! ───っ!」


 駿は地面を蹴り、僅かの時間で距離を殺し、アリシアに思いきり剣を振り下ろした。


「いい足持ってるわね」


 そう言いながら、駿が振り下ろした剣を横で受けて、そのままの衝撃を吸収するかのような柔らかい剣捌きで斜めに剣を滑らせ、受け流した。


「うおっ!?」


 受け流したことにより、前に重心がかかっていたためか、そのまま前に倒れかける。


 アリシアは絶好の機会を逃すことなく、前に倒れそうになっている駿の足を払って完全に転ばせた後

、首に剣を突きつけた。


「はい、シュンの負け」


「ま、参りました......って当たり前ですよ!」


「ふふっ......」


 アリシアは笑いながら剣を納めると、尻餅を着いている駿に手を差しのべた。


「ふっ......」


 駿もまた笑いながら差し伸べられた手を掴み、アリシアに引かれながら立った。


「で、見つかりましたか?」


「そうね......足以外全部だめだわ」


「ですよねー......」


「そのための訓練でしょ?」


 その言葉に駿は苦笑しながら


「......ですよね!」


 と、いった後───




「────っ......」


「ほら、振る速度が落ちてるわよ! 速く!」


 両手で握りしめているのは長剣だった。


 背筋を伸ばし、腕を振り上げ、振り下げるのを繰り返している。


「太刀筋が斜めになってるわ! それじゃあ切れるものも切れないわよ!」


「くっ......はい!」


 模擬戦以来ずっと素振りをしていた。


......腕痛い......腰痛い......手痛い......指も......



 迫り来る限界を伝える痛みを耐えて、ただひたすらに振り続ける。


「さぁ頑張って......あともうちょっとよ」


「くっ! っ!......はぁ!」


 ───そして


「はい、今日はここまでよ」


「ぐああぁ............」


 駿は思わずその場で倒れた。


「もう......手に力が入らない......」


もうどこもかしこも痛い......素振りキツいわ......


「お疲れ様......シュン」


 優しい声色を駿に投げ掛ける。


 駿は瞠目し、思わずアリシアを見つめた


「......」


 見つめられたアリシアは少し頬を赤らめて、俯かせ、「そんなに見ないでよ......」と、口ごもった声でいった。


「あ、あぁごめんなさい......師匠」


「う、うん......」


「「......」」


 僅かに静寂訪れる。


 アリシアは頬を赤らめ、そんなアリシアを見ている駿もまた恥ずかしくなり頬を赤らめた。


 互いに俯きながら、駿が先に言葉をはっした。


「か、帰りましょうか......」


「そうね......じゃあ行きましょうか」


 そう言って、二人はまた王国に帰るために、来た道をまた戻っていく。


「「......」」


 二人はまだ俯かせながらも、来たときより互いの肩の距離が狭まっていることを、まだ二人は知らない。


 ───こうして、駿とアリシアの訓練が始まった。


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