03:おっぱいと狐耳



 じっと女神様を見つめていると、顔を赤らめて言った。


「だからって、私にえっちなことをするのはナシですよ?」

「しないよ! 知り合いにするのは気まずいし、なんか怖いし!」



 本当はしたいけど、それで面倒なことになっても嫌だしね。

 お店でちゃちゃっと済ませて、後腐れない関係を楽しむのがベストなんだ。

 だって、イケメン化もコミュ力アップも果たしてないし。妄想の中の自分みたいに、可愛いお姫様とイチャイチャ出来る気がしないし。でも童貞は卒業したいし。



「へたれですね」


 何故だか、可哀想なものを見る目を向けられた。



「とにかく、私はトモマサさんのことを見捨てません」

「……うん」

「ですが、それはそれです。私を巻き込んだ責任はとってもらいます」

「……うん。えっ?」

「なので、お仕事は探してもらいます」



 くっ、結局働くしかないのか。

 どうせ働くのなら、やっぱりえっちなお店に入ろうか。

 そう思って、俺は密集するピンクなお店達を眺めた。



「ど、どこで働こう?」

「……これなんていいんじゃないですか?」


 女神様が指差したのは、ピンクのドラゴンが描かれた看板。

 店名は、「桃色ドラゴン」。まんまだ。



「なになに。本番禁止。乱暴行為禁止。初めての人でも安心の、ソフトなプレイが売りのお店。冒険者や魔王などになりきって、楽しくえっちなことが出来ちゃいます――か」


 少なくても、痛いことはされないみたい。

 男の子募集。未経験者歓迎。住み込みのバイトも出来ます。

 ともある。



「……よし、ここにしよう」

「覚悟が決まりましたか。では行きましょう」


 女神様が、ドアノブに手をかけた。



「あ、でもやっぱ怖い。周りに人いない? あの人えっちなお店に入ろうとしてる――って思われちゃう」

「事実じゃないですか」

「いや、でも……」

「いいから、行くんです」


 女神様はドアを開けると、半ば強引に俺を押し込んだ。

 店に入ると、すぐ正面にカウンターがある。そこに、メイド服みたいな衣装をきた、受付のお姉さんが立っていた。



「いらっしゃーい♪」


 太陽みたいな笑顔。

 銀色のポニテが可愛い、巨乳の美少女だ。前髪がちょっと長めで、目にかかりそうなところもいい。そっと摘んで、キスをしたくなるサラサラ具合。


 着ているのは白いブラウスと、ピンクのロングスカート。

 そしてなによりも目を引くのは、頭の天辺に生えている三角の耳。

 ふさふさの毛で覆われているそれは――



「夢にまで見たキツネ耳じゃないかーっ!」



 怪訝そうな目で見られた。

 何故か、女神様に足を踏まれた。

 咳払いして、視線をそらす。

 あ、スカートの下からはみ出ているのは、これまたモッフモフの尻尾じゃないですか!

 うひゃひゃ、本物の狐っ娘ですよ!


 初っ端から不安だらけだったけど、やっぱり異世界に来て良かったぁ。

 でも、こんなお店で受付をしているのだ。やっぱりえっちなのかな?

 えっちだとしたら、頼めば耳と尻尾を触らせてくれたりなんか――




「あら? もしかして、働きに来た方ですか?」



 狐のポニテっ娘が言った。

 邪なことを考えていたので、どきりとした。

 えっちなお店があるからって、みんながみんなえっちなわけじゃあない。いくらここが違う世界だからって、調子に乗っちゃダメだ。


 えっちな衝動をツバと共に飲み込んで、狐娘の顔を見た。

 うわっ、やっぱり可愛い。

 視線が重なった。

 とっさに、俺は目をそらす。


 可愛い女の子の顔を正面から見るなんて、ハードルが高いよぅ。



「あの、働きに来た方じゃないんですか?」


 狐娘が、不思議そうに首を傾げた。



「あ、いえ、えっと、あの……」


 斜め下――服から零れそうなおっぱいを見つめながら、口をもごもごさせる。

 受付にこんな可愛い女の子がいるなんて、聞いてないよ。



『そんなツラでえっちな仕事が務めると思ってんのかよ』


 とか言われたらどうしよう?

 なにか言わなきゃなんだけど、言葉が出てこない。


 すると、


「そうです。この人を働かせてやってください。住み込み希望です」


 見かねたのか、女神様が言ってくれた。

 優しいなあ、女神様。俺のすべてを捧げたい。



「そうですかー。わかりました」


 あれ。すんなりとOKな感じ?



「貴女の方もお仕事希望ですか? 女の子の募集はしていないのですが……」

「私は妹です」


 妹?

 ああ、そういう設定でいくのか。貧乳の妹、最高だ。



「実は私達、住むところをなくしてしまい……住み込みできると聞いて、私も兄と一緒に置いてもらえたらと……」


 泣きそうな演技をする女神様。

 よくもまあ、そうポンポンと嘘がつけるなあ。

 女って怖い。



「そうでしたか。わかりましたー。では奥で面接をしますので、二人で入っちゃってくださーい。ただし、住み込みでのお仕事が決まっても、貸せる部屋は一つだけでーす」

「それで問題ないです」


 ということは、女神様と同居だ!

 やったね、えっちなハプニングの予感!




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