第2章 それでも彼女は救い出す

第六羽 歩みを進める羽

 カムラとミーシャは東へと歩みを進めていた。大都市アルテークの崩壊後、

二人で話し合ったのだ。

それぞれの都市でもきっと堕天使による攻撃が始まっているのだろうと。なのでまず各都市に向かい堕天使を殲滅しようと。

そして出来る限り情報を集め堕天使の拠点を

攻めようと。 それが例え何年かかるとしても

やり遂げて見せると。

それがアルテークに対しての唯一してやれる敬意であり誓いなのだと。

大都市アルテークここを中心にして、

東西南北にそれぞれアルテーク並の都市がある。


 二人はまず最初にアルテークから一番近い

東の都市、 軍事城塞都市【セルデリア】へと

向かっていた。 しかし堕天使に攻められるといっても

各方面の都市は東西南北で異なった軍事施設があり堕天使も容易く攻めることができないのだ。 もちろんアルテークにも軍事施設があった、 それが騎士団だ。

しかしタイガーが殺され、 そのあげく何者かの暴動により内部から

アルテークは崩壊した。そう言うことが起こり得るかもしれない可能性も見て二人は他の都市にも行くのだった。 セルデリアまでは歩いて2日、

とりあえず今晩の寝床を確保するために

【シャルティ】という街に向かっていた。

日頃の訓練のせいとでも言うかカムラは長時間歩くのには慣れていた。

しかしミーシャはというと


「何でこんな歩かなきゃならないんだよー。 獣人に優しくないなー 」


 と文句を垂れていた。


「仕方ないだろ。 あの戦いで少なからず荷馬車等に影響が出たんだ。

徒歩移動もしないと 」

「んなこといったってさー 」


 なんだかんだでカムラとミーシャは、

すっかりと打ち解けたような雰囲気をだしていた。

 

「そういえば一つ思ったんだけど 」

「何? 」

「お前の使ってた風のエストリカってあれ攻撃呪文じゃないの?

防御魔法しか使えないって言ってたけどタイガーを飛ばしてたよね? 」

「あー、 あれも正確には防御魔法に分類されるんじゃない?

ダメージは与えられないわけだし 」

「ふーん。 そういうもんかね 」

「私も詳しくは知らないんだけどね 」

「自分の魔法なのに? 」

「んー。 気づいたら使えてたんだよね。

っていうか何でこんなことあんたに言わなきゃならないのよ! 」


 ――せっかく話し込めると思ったのに、

いつものミーシャに戻ってしまったな。


 二人は既に公道を通り抜け森の中へと進んでいた。

昼というのに木々が生い茂って薄暗く

感じる。 すると不意にミーシャが足を止めた。


「・・・ミーシャ? 」

「カムラ、 気づかないの? 」

「気づかないって何が? 」

「って本当に気づいてないのかよ! さっきからこの森を抜ける気配が

一向にない。 ハァ、 あんたなら気付いてると思ったのに 」

「そんな都合良く分かるわけないわ! 」


 ともあれカムラも回りを見渡して見るが

確かに前に進んでる気がしなかった。


「ミーシャ、 これって結界か何かなのかな 」

「そんなこと言われても分かるわけないじゃん。 専門外よこんなの 」


 ――そうだよなー。 俺だってこんなの初めてだし対処の仕方が分からない。

さて、 どうしたものか。


「なぁミーシャ呪文とかで何とかならない? 」

「無理 」


 —―即答だったかよ、まぁ分かってはいたんだが。


そしてもう一つの異変にも気付いてしまった。


「なぁ、 もしかしてここにいるのって俺ら二人だけなんじゃ? 」

「ハァ? そんなわけ・・・ 」

 

 ミーシャは獣耳をピクピク動かして音を聴いていた。


「静かに! ・・・ 生き物の気配が感じない 」

「敵の可能性は 」

「そんなの十分にあると思うけど 」


 カムラの質問にミーシャは素っ気なく返事を返すが流石のミーシャにも

身体中に緊張が走る。一瞬早くミーシャが気づいた。

どこからともなくナイフが飛んできたのをミーシャは風の防壁でそれを防ぐ。


「カムラ敵! 人数は一人! 」

「おい!? 本当なのかよ! さっきまで気配が無かったって 」

「私の聴覚レーダーに反応したから間違いないわよ!

それにナイフなんて普通飛んでこないでしょ! 馬鹿なの!? 」


 ――耳で捉えたのなら間違いないか。てか悪口叩く余裕あるのかい。


 今度は左方向から二本のナイフ。 それをカムラが剣で裁く。

続けて真後ろからもう二本、 今度はミーシャがそれを防ぐ。

二人は警戒を強めた瞬間、 声が聞こえてきた。


「堕天使は全員殺す。 お前らは奪いすぎた 」


――この声、 女性? にしては随分若くないか。


「カムラ、ボーっとしないで! 次来るよ! 」


 ミーシャの掛け声と同時に今度は左方向から二本、 右方向から三本

カムラに襲い掛かる。 カムラは自身の剣でその全てをはじく。

しかし流石のカムラも真上から降ってくる数本のナイフには気づかなかった。

 

「カムラ上! 」


 カムラがしまったと思うと同時にナイフがカムラに向かって降り注いだ。

そのどれもがカムラに命中したかのように思えたが間一髪で

ミーシャの防壁によりそれを防いだ。


「悪いミーシャ。 んで一体これはどういうことだよ 」

「目的は堕天使を殺すって言ってなかった? 」


 ――だとしたら俺らのことを堕天使だと思い込んでいるのか。

ミーシャは敵が一人だと言っていたが、

それ以上いる可能性だってあるかもしれない。


 カムラはそこにはいない誰かにむかって話し始めた。


「待ってくれ誤解だ! 俺らは堕天使でもその仲間でもない!

むしろその逆だ。 堕天使を殲滅させることが俺らの目的なんだ 」

「うるさい。 関係するものは全てぶち壊す 」

「頼む話だけでも聞いてくれ! 俺らだって自分達の街を堕天使に

壊滅させられたんだ。 堕天使を滅ぼすまでは死ぬわけにはいかない 」

「その言葉に嘘、 偽りは無いだろうな 」

「無い 」


 二人のやり取りをミーシャは黙ってそのまま聞いていた。

ここで自分が何かを言えば、下手に攻撃されると考えたからだ。

声の主は暫く考え込むように静になり、

そして一言放った。


「そこで待っていろ 」


 瞬間、 森の様子が変わったのがわかった。

辺りはいつの間にか元に戻っていて

鳥や小動物等が周りにその場に急に現れた。 と表現するほか無かった。

二人は周囲の危険が無いことを確認し武器をしまった。

待った時間はほんのわずかだった。

一人の女性が向こうから走ってくるのが見えてきた。


 ――そう。女性が向こうから・・・女性が・・・・・・・ん??


 彼女の姿が見えた瞬間、

二人は顔を見合せた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る