まだ見ぬ龍に恋した乙女は転生皇子の夢を見るか?

はくあ

プロローグ

皇帝の前に引き出された少女は泣いていた。


「この娘で間違いないな?」と壮年の男。この国、ムルマーシュ皇国の皇王スサ・フォン・ムルマーシュが呟いた。


「はい」と女性が頷く。スサの娘、スセア・フォン・ムルマーシュが答える。


「朝からこの調子か?」


「はい、朝から一向に泣き止む気配がありません。」


「なぜ泣いているか問うてみたか?」


「はい、昨晩、私が初代様の昔話を聞かせたら、その夜から泣き出してしまったそうです。龍に会いたい、龍の妻になりたいと・・」


「龍の妻になりたいと?そう申したか?」


「そのように・・」


スサは暫く黙ってしまった。



「この娘の身分はどうなっている?」とスサ。


「私付きの侍女ですが身分は奴隷です」


「ふむ、そうであったな。我が国の皇室の決まりは、侍従、侍女は奴隷だったな。」


「はい、貴族、一般の血をひくものを入れぬ決まりだとか」


「まあ、初代様がお決めになったことだ。皇室の独立性を守るための方策の一つだな。それと、この娘の父母はどうしている?」


「父母は、お母様の侍従と侍女でしたが、一昨年、帝国を襲った病魔の禍にて亡くなっております。」


「孤児と言うわけか、哀れだな。お前の母も、あの病魔の禍に巻き込まれなくなった。それを看病していた侍従夫妻がいたが、もしかしてその忘れ形見か?」


「はい」


「それを、其方が引き取って育てているわけだな?」


「はい」


「うむ、龍は恩義に報いる性の物、わが妻の看病をし、その命をそれに捧げたものの娘であれば奴隷といえども大切にしなければならんな」


「はい。今は、妹の様に扱っております」


「ところで、そこな娘の名はなんという?」


「レムリアにございます」


「ふむ、レムリア、其方、歳はいくつになる?」


「15でございます」とレムリア。


「ふむ15か、スセアは17だから妹としてもちょうどいい齢だな」


「はい」とスセア


「レムリア、其方を龍の嫁にしてやろう」


「「え??」」


「お父様、今この国で龍と言えばお父様と私だけですが?まさかお父様の?」


「いや、お前の息子の嫁だ。お前が結婚して最初に生まれる子は男子だ。その子の嫁にする」


「どういう事ですか?」とスセア。


「うむ、この娘を呼び出した理由でもあるのだが、昨夜、俺の夢の中に初代様が現れて『明日の朝、お前の身内の近くで龍の嫁になりたいと泣いている娘がいれば、その娘をお前の最初の孫の嫁にするとよい』と言うお告げがあったのだ。」


「初代様の?」


「うむ。そして初代様のお言葉通り、泣きじゃくっていた娘がレムリアだ。しかも初代様のお言葉通りなら、お前の最初の子は男子という事になる」


「しかし、私はまだ結婚もしておりませんが・・」


「お前が、ガルファと付き合っていることは百も承知だ、あ奴の家系は実力で成り上がってきた家系だが、ガルファには兄弟がおらん。まあ、此れが奴を二の足を踏ませている理由だがな」



「本来は龍をお前にあてがう決まりだったがお前は奴を選んでしまった」



「そこでだ、お前とガルファの間にできた子供の第二子をガルファの家、カグツ家に養子に出そうと思う。あ奴の父、フェリスは俺の旧友だ。俺の孫とフェリスの孫が家の跡継ぎなら文句は言うまい」


「なるほど・・」


「しかし、レムリアは如何されます?少なくとも齢は30を超えてしまいますが?」


「そこでだ、ツクヨミの加護を使おうと思う」


「ツクヨミの加護?」


「いわゆる時の魔法だ。代々受け継がれる魔法だが、お前が30歳を超える辺りで自然と使えるようになる。そして、その魔法を使い、お前の息子が16歳の成人を迎えるまでこの娘の齢を固定しておこうと思う。」


「まあ、この娘が結婚すれば、自然とこの魔法は解けるという事だ。とりあえずはお前付きの侍女として扱うが、お前に子供が生まれたら皇子付きの侍女にする」


「二人ともこれで良いか?」


「「はい!」」


「では、ツクヨミの加護をかける。レムリア、俺の前に来るがよい」

レムリアはスサの前に進んでいく。


「ではかけるぞ・・・」

レムリアの体が淡く光りだして、やがて光は収束した。


「レムリア、16年と少し待ってね。この子の旦那様にしてあげるから」とお腹をさする。


「はい」とレムリア。


「ちょっと待て、この子だと?」


「はい、お腹の子です。あと、昨晩、何かお腹に光が差し込むような夢を見たのですが、この事だったのですね」


「いや、それ以前に大事なこと俺に言う必要があるのではないか?」


「はい、このお腹の子はガルファ様の子です」


「なんじゃと!もうすでに手を付けていたのか」


「レムリア、もう一度俺の前に来い。追加の魔法が必要になった。其方をガルファの餌食にするわけにはいけないからもう一つ魔法をかける」


「お父様、なんの魔法?」


「ウズメの加護じゃ。俺と、お前と、お前の息子しかこの娘の真の顔、姿は知らないようにする魔法じゃ。男からすれば、手を出したくないような姿に見せかけるのだ。」


「つまり、レムリアの貞操を守る魔法と?」


「そういう事だ」


「レムリア、もう一度前へ」


「はい」


「では今から掛けるぞ良いな?」


「はい陛下」


そして、再びレムリアは光った。


この後、皇帝スサ・ムルマーシュはガルファ・カグツとその父フェリス・カグツ公爵を呼び出し、叱責の上、スセア・ムルマーシュとガルファ・カグツの結婚を決めてしまった。


二人の結婚式は、スセアのお腹が目立つ前にすることとなり、その翌月の吉日、盛大に結婚式が行われた。




とある天界の片隅で・・


「で・・良いか?」


「はい、あなた」


「ジジイどもの設定にすると、俺には子供が出来なくて、果ては弟と兄弟げんか」


「しかも、弟さんのロボットに握りつぶされてしまったり、隕石に二人で突っ込んで自爆したり」


「さらに、金太郎の様な肌着着せられて、ババアの息子になっていたり」


「前前前世からロクな終わり方は無かったですね」


「ここは叔父貴譲りかな?前前前世まで不運続きで、やっと夫婦になれたのだから」


「叔父様と違い、今度は私が待つ番ですね」


「うんそうなるね。では行こうか・・」


「ふふふ、甘いぞ、儂の目の届かぬところで勝手に設定を作りおって」


「若干、弄ってやるかの」


俺は、悪寒がした。


そして半年後、皇宮に産声が上がった。

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