第18話残った手紙

俺の大切な、大切なペンダントは、いつ、割れてしまうのだろう。



 俺は森の奥深くの誰もいないような場所を、ひとりで歩いていた。

 もう、走れない。

 体力的にも肉体的にも魔力的にも精神的にも、もう走ることなんてできなかった。

 もう動かない左前足と、いつの間にか痛めていた右足。

 噛まれたときの出血と、そのあとまた傷口が開いたときの出血。

 駆使しすぎた魔力。

 今、意識があることすら不思議に思うくらいだ。何かを考える力さえも、残っていない。

 そんな今の俺を支えてくれているのは、いつ割れてもおかしくないペンダントだ。カイナにいちゃんがくれた。

 一歩ずつ、ゆっくりと、家に向かって歩いている。

 たぶん、あと5分くらい頑張れば、ツリーハウスが見えるか見えないかくらいの場所までいけるはず。

 何度も意識を手放しそうになる。けれど、何とかツリーハウスが見える場所まで来た。

 仮面を、はずす。

 ペンダントも、最後の力を振り絞るかのようにちかっと一瞬だけ輝いて、仮面を収納する。

 「……やっと……じゃね?」

聞き覚えのある声が聞こえてとっさに木の陰に隠れる。

 バクラだ。あの、唯一俺が大嫌いな。

「一生、帰ってこなきゃいいのにな、アイツ。そしたら、ナタリは何も言ってこなくなる」

「確かに!」

「それいいなっ!」

取り巻きのふたりも賛同している。

 ……ナタリが何も言わなくなる?

 ということはつまり、何をしても大丈夫になるぜウェイ的な?

 今にもはちきれそうな思考回路をフル活用し、その答えに至る。

「それだけは……」

つぶやいて、木から姿を現す。

 「バクラ」

「……んあ? ……チッ、本人登場かよ」

バクラは舌打ちをして太めの木の枝を拾う。

「別に、俺はいなくたってかまわないけど、ナタリを悲しませるようなことをするのは許さない」

「知るかよ、んなもん」

全力で地面を蹴る。魔力を搾り出す。

「ぜあっ」

〈飛氷石〉。昨日の戦いよりも威力は落ち、大きさも小さくなっているが、同級生をびびらせるにはちょうどいい。

 「……っ! お前が星力持ちなんて、聞いてないぞっ!」

頬を少しかすって切れた傷口を押さえながら、バクラたちはその場を去っていった。

 「帰ら、なきゃ」

数歩進んだところで、視界が揺らめいた。

 もう、限界だった。

 意識の糸はついにぷつりと切れ、俺は暗闇におちた。


 そしてペンダントも最後までひびが進み。

 ぱきん、と小さく音を立てて割れた。

 割れたペンダントは収納能力を失い、仮面が出現した。

 そして、一通の手紙も。

 ファミはツリーハウスの目の前で倒れた。アヨリ町までは徒歩10分くらいの位置。

 バクラたちが町に戻ってファミのことを騒ぎ立てたので、ナタリもカルハも、森の中にファミがいることがわかった。

 ふたりは顔を見合わせうなずき、森に向かって駆け出した。


(つづく)

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