第18話 試合は始まり……。

手に触れるボールの感触。少し冷たく所々に窪みがある。ある一定の重さを感じていた。


「選手の好きなタイミングで始めてください。」


マイクと共に一空さんの声が体育館に響き渡る。


周りは緊張しているのか静かだ。


「おい。清水、最初のパスはお前がしてくれ。」


「え?私がするの?」


清水は驚き、指で自分を指していた。


「ああ。頼むわ。それと最初は邪魔されないから落ち着いてパスしろよ。」


「え、ええ!それぐらいわかってるから!」


本当に分かってるのかな?何かめちゃくちゃ怒ってらっしゃいますが。


「じゃあ、始めるわよ。」


そう言うと清水はボールから、手を離し、パスをした。


……………………………………………………


「それで?話って何よ。」


「ああ。明日のことなんだけどな。まず最初に言っとくぞ。俺は殆どバスケットボールをしたことがない!」


清水と大鳥はぎょっとした顔で見てきた。


「はぁ!?じゃあ、何でバスケ何かで勝負を吹っ掛けたのよ!」


「これは賭けだって言っただろ?それは、お前らに賭けたってことでもあるんだよ。」


「え?どういうこと?」


大鳥は小首を傾げて、質問してくる。


「簡単に言うと、俺達の運次第ってことだよ。」


「「運!?」」


「そうだ。そもそも俺たちみたいな奴がバスケをしてシュートがポンポン入るわけないんだからな。」


「な、じゃあ、どうするのよ!」


清水は疑問を問いかけてきた。ただ、その問いはすでに出ている。


……………………………………………………


「さて、もうそろそろ、選手がパスをだし試合が始まるわけですが。どうでしょうか?西ノ宮先生。」


一空さんはまるで実況者のように西ノ宮先生に聞いていた。


「そうだな。正直言って伏見達が木島達に勝てるとは思っていないな。」


「そうですよね。普通ならバスケ部の一年生エースにバスケで勝負しようなんて思いませんよね。」


西ノ宮先生はうんうんと頷いていた。


「それでも、伏見達はバスケで勝負を仕掛けたんだ。勝機はあると見ていいのだろう。」


「まぁ、最初は堅実に行くしかないのでしょうね。」


その言葉と共に清水からボールが放たれた。清水から離れたボールは俺のもとに一直線に飛んできた。


しかしそれを予想してたのかイケメン(笑)は俺のブロックについていた。


「君が一番危険だからね。僕がマークして挙げるよ。」


そう言うと木島は両手を広げ、清水達へのパスコースを防いだ。


「そう来ると思ったよ。」


そうだ。最初からお前に勝てるなんて思っちゃいない。なら、それなら、俺は運に賭ける。お前が想像もしない事をやる他ないのだから。勝機があるとするならそれしかないのだから。


俺はボールを受け取った瞬間に飛びスリーポイントラインからボールを放った。


木島はそれに反応することが出来ずにつったていた。ボールは優に木島の上を通過した。


「何!?伏見、お前。」


木島は驚きの表情を浮かべて此方を見てくる。


「俺はお前に勝てない。それなら、俺は別にお前に勝てなくてもいい。勝負に負けてもいい。俺は試合にさえ勝てればな。」


そうだ。俺には羞恥心だとか、自尊心何て持ち合わせてない。だから、勝負何てそもそもしない。だから、これでいい。このやり方でいい。この勝ちかたでもいいんだ。


ボールは輪を描き、ゴールへと落ちていく。そのボールは回転しバックボードに当たりゴールに吸い込まれるように入った。


「せ、先制点は伏見チームだぁぁ!」


西ノ宮先生は大声を上げて叫んだ。そのせいでマイクが反響しキーンと言う耳に来る音を上げた。


「み、耳がいたい。」


そう呟いた、清水は西ノ宮先生に向けて 少し苛立った 目線を向けた。


「う、すまない。」


そう言うと西ノ宮先生は頭を下げて謝った。


「まさか、決めてくれるとは思わなかったよ。」


木島が片耳を押さえながら話してきた。


「そうだな。俺も決まるかどうかわからなかった。でも、決めた、決まった。それでいい。勝ちかたはどうあれ結局勝てばいい。そうだろ?木島」


俺はそっと木島に視線を向けた。


「そのやり方がどこまで持つかな。」


木島は余裕シャクシャクで答えた。


そうだ。まだ余裕でいてくれないとこっちが困る。その余裕が唯一の俺達の勝機なんだから。


そう思い、俺はボールを取り木島に渡した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る