黒天使たちの飛行戦記

テンマP

日本編

第1話 プロローグ

プロローグ

1947年11月中旬 ~日本空軍 各務ヶ原基地~


「ここでいいんだよな。しかしこの私に一体何をやらせるつもりなのだろうか・・・」

私は私物と着替えを入れたずた袋を片手に担いで基地の敷地内を歩いていた。あ、自己紹介がまだだったわね私は瑞雲ユキ。空軍のパイロットをしている。

そう、明日ここでいよいよ世紀の飛行が始まる。何でも人類初の音速突破のパイロットをすることになった。

え、なんでほかの空軍や海軍のテストパイロットを使わないかって。私は良く知らないが、ほかのやつらは尻込みというか、上層部が貴重なパイロットを失いたくないからって。言うので私のような捨て駒の女子航空隊のエース級を使おうとしたみたいだ。

私以外にもエースといわれている女子パイロットはいたけれど、皆フライトに耐えられない状態やおめでたによる退役というわけで、私が第一線で飛べるパイロットで一番の腕前という訳ね。

それに私には身よりも無いし万が一死んでも泣く人間もいないからもし死んでも遺族年金やら手当てを支給する必要も無いということだね。

と、まあ格納庫の入り口に差し掛かった時に私は呼び止められた。


「おお~。ユキ久しぶりやな」

「あ。貴方は神谷さん。生きていたのね」

そういって関西訛りをしゃべっている女が私に抱きついていた。彼女の名前は神谷 晴子。私と同じ部隊にいたいわゆる戦友だ。

「そうや。それにしてもお互いあのイギリスの空の戦いは大変やったな」

「そうだね。それにしても貴方も生きていたのね。もしかして貴方もテストパイロットになったの」

「いや。ウチはもう、一線から身を引いたんや。今、ウチはひよこ達を鍛える教官になったんや。ほれ、ここに初等訓練用の機体がある」

そういって晴子は格納庫を案内してくれた。

そこには練習用の赤とんぼこと「93式中錬」が数多くならんでいた。

「で、あさってあんたが音の壁を打ち破る機体は隣にあるんや。もしものときウチが骨を拾ったるから安心しい」

「ありがと」

「水臭いで。ウチとあんたの仲やないの」

「でも、貴方のほうが先任だから・・・」

「硬いこと言うなって。どうせだれもいやせえへん」

「そうね。積もる話は夜にでも話そう」

「そうやな。明日飛行やし酒は無理か。ほな飯でも食いながら積もる話をしようやないか」

「そうね」

そんなわけで私達は夜になって晴子の部屋に厄介になることになった。

「あれ、二人部屋なのになんで一人なの」

「ああ。同じ部屋のやつは昨日死んだんや。着陸に失敗してひよこ諸共丸焼けや。で、今朝葬式を済ませたばかりや。ユキ。あんた本当に音の壁を破るつもりなん」

「ええ。多分これが最後になりそうよ。せめて最後に音速の壁を破ってから地上に降りたいわね」

「まあ、気持ちはわかる。そうか。あんたももうすぐ退役なんやね。ウチと司令ぐらいやね。職業軍人の道を歩んでいるのは。退役したあとどないするつもりや」

「ん。そうね。民間のパイロットにでもなろうかしらね・・・」

「そうか。とにかく。あの戦いは酷かったねえ。うちらの隊のなかでも死んだりしたやつらもでたしねえ。まあ、空輸任務をが主だったうちらが急に実戦部隊に変わっちゃったからね」

「たしかに。そうね。あの時は面食らっちゃったわね。でも、最新鋭の戦闘機が使えたのが私達だけだったしね。そしてイギリス空軍に出向だもんね」

そういってユキは懐から写真を取り出して過去を思い返していた。藤井、坂上、水瀬隊長に真田整備班長の事を思い出してた。

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