#08 まぁ、逃げるには異世界が一番だからな

「なっ何でこんな、うぐぅっ……」

「(ちょい黙れって、見つかるって)」


 早速、『透明化魔法』を使って駆けつけてくれた唯一の男同居人、ユウ。

 ……うん、ユウ一人だけ。いつもユウと二人一組ラブラブなマオもいないし、魔力タンクのケフィーもいない。

 マオはともかく、ケフィーがいないというのは……端的に言って、ヤバイ。

 ユウは『魔力貯蔵量』がとある事情で著しく少なく、魔法を使うためには魔力を外部から持ってくる必要がある。

 だから、魔力をため込む体質のケフィーがいないと魔法がほとんど使えないんだけど……


「(そっそんな目で見るなって……、魔力が薄いんだから仕方ないだろ。コータローを女子高に置いていくのにケフィーの魔力使ったから、行きの分しかもってなかったし……逆に俺一人だけでもちゃんと迎えに来てやっただけでも満足してくれよなぁ)」

「(あぁ、まぁ感謝すりゃーいいのかも知れないけど、けど、さ……)」


 俺はスマホでtwitterを起動し、自分ツイート呟いたもの欄からこの前の『心霊動画』を探して、


「(もとから、お前が全部悪いんだからな。女子高に置いていきやがったのも、今警察に追われているのも……マスコミのカメラがめっちゃあることも)な!」

「(おい、声、声)」


 ユウの引き締まった腕に口をふさがれ、周囲を見渡す。

 無駄に広いグラウンド、そこらに生えている木々の間に隠れる男2人。もう、校舎から出られただけでも良かったのかねぇ。頑張ったよ、俺たち。そう思った。

 今見つかってしまえば、警察のお世話になるだけじゃなく、マスコミに顔ごと報道されちまうよ、未成年なのに。


「(いや、コータローも悪いって。何で『ますこみ』に位置を教えたんだ)」


 ……それは、俺が悪い。『心霊動画』でミクロウスジャパンの公式アカウントからメッセージが来たとき、何故かミスって位置情報も送信しちゃったんですね。はい。

 でもtwitterの位置情報なんて大雑把なもんなのに、『緑野女学園周辺でしょうか』と返信リプが来てビビった。何? twitter社とミクロウスが繋がっているとか、ミクロウスが変態的な予測力サーチ持ってるとか、そういうことなのかね。


 ……取り合えず、何かを呟く時は、言い方や言う相手をよく考えよう。マジで。


「(おい、なんか上から出てきたぞ)」

「(ん……?)」


 スマホを見ると通知が来ていた。サイレントにしたので、揺れなかったけど。


〇紫雲 成美___________________________

 幸太郎さん、今どこにいるでしょうか。

_____________________________________13:12


 嘘をつく状況でもないので、素直にグラウンドだと答える。

 少しして、成美から地図が送られてきた。


〇紫雲 成美___________________________

 このルートに沿って進んでください。

 タイミングは私が屋上から指示を飛ばします。

_____________________________________13:14


 ――頼もしい。よろしくだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「なぁ、コータロー。俺って必要なかったんじゃね」


 成美の指示のもと、緑野女学園の敷地内から外へと通じる隠し通路を歩きながら、ユウが呟く。

 精神的に安心はしたけど、実のところ役に立ってないし、この惨事を引き起こした原因にあれこれ言いたくないので、肯定も否定もしなかった。

 この通路は長年使われていなかったようで、埃っぽく蜘蛛の巣があちらこちらにある。


「なぁって、コータロー。これからどうするんだ。どっちが悪いとかともかく、『ますこーみ』って奴らがいる限り、隠れて生活しないといかんだろ」

「う~ん……」


 いろいろと考えてみる。しばらくの間は、外に出れないだろうな。自宅特定でもされたら、家にも居られないだろうし。


「ん、俺の顔になんかついているか。ボケッと見られても、何もでねぇぞ」

「…………」


 コータローの顔を見ながら考える。大学はもうそろ留年が確定しそうな勢いなので、あまり休みたくはない。テストも近くにある。

 が、そもそも学校に通える状況ではないだろう。


 俺はスマホで久しぶりにアドレス帳を開き、自分の祖父へ電話した。


「じいちゃん、今から『転移門ワープゲート』使いたいのだけど、ユウたちと研究所に行ってもいいかな」


 年を感じさせない声で許可の返事が返ってきた。

 通話を終了すると、ユウが変な顔でこっちを見ていた。


「……おっ、俺らの地元世界に行くってことか」

「まぁ、逃げるにはが一番だからな。お前たちにとっては元居た世界だけど、さ」


 ユウは少し嬉しそうな顔をしていたので、


「ホームシックか、そんなに家に帰りたかったのか?」

「いいや、親にはずっと前から会いに行ってないけど……自分の居ないうちにどんどん変わってくからな、世界ってのは。それを見るのが楽しみなんだよ」

「……実体験の話か」


 聞いた言葉にユウは、笑顔に分類されるであろう微妙な表情で。


「さぁな……んじゃ、マオらに連絡を入れてくれ、たぶん家にいる。それと、いい加減俺にも『すまほ』をくれてもいいんじゃないか」

「アニメとかで戸籍をちょろまかすの見てて、すげー簡単だと思ってたんだけどなぁ、もうちょい先まで待っててくれ」


 本当は自分名義でもいいんだけどな、とは口に出さずにいた。

 ケフィーにはこっそり携帯を渡しているのだけど、これ以上は金銭的にちょいと厳しいので誤魔化すのであった。



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