シーンC

■シーンC


 水は小さな映画のスクリーンのようだった。

 映し出された映像が動き、さらに音まで聞こえる。


「ヒロキ、この前面接に行ったっていう会社、どうだった?」

 少し反響した声が、水面から聞こえてくる。ハルカの声だ。

「やっぱり駄目だった。今まで受けたところは、全滅だな」

「……そうなんだ」うなだれるヒロキに、ハルカが少し申し訳なさそうに言葉をかける。「大変、だね」


 これはヒロキの記憶にある映像だった。

 一年前のことだった。二人は大学四年生になったが、お互い学業や就職活動で忙しく、なかなか会えていなかった。この日は久しぶりに直接会って近況を話していた。

「ハルカは? まだ就活は続けてる?」

 一社目の内定をもらったという話を以前ハルカがしていたことを思い出し、ヒロキが尋ねた。

「あのあと第一志望のところからも内定もらえたから、もう終わりにした」

「そっか。おめでとう」


 言葉とは裏腹に、ヒロキの声は落ち込み気味だった。

 ハルカは就職が決まったのに、自分はどうしてうまくいかないのだろう。こんな自分に価値なんてあるのか。こんな自分を採用してくれる企業なんてあるのか。劣等感と自己嫌悪が沸き上がってきていた。

 そんなヒロキの様子に気がついたのか、ハルカは優しく微笑んで言った。

「だけどこれも、ヒロキがいてくれたおかげだと思う。大変なときもあったけど、ヒロキがいたからなんとかやってこれた」

「ありがとう」口調は暗いままだったが、少し無理をしてヒロキは笑顔を作ってみせた。「ハルカがそう言ってくれるなら、俺もまだ頑張れる気がする」

「うん、頑張って」

 励ますハルカの声を最後に、水面が再び波紋を描き、映像は徐々にぼやけて消えていった。

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