アイソレーションブレイク

@calm4649

第1話 リジェクション【拒絶】

暗い世界の中にいた。

何処かわからない場所。

上も下も、

左も右も無い世界。

そんな世界に僕はただ、漂っている。

「ここは…、何処なんだろう?」

白牙びゃくがぎんはそう呟く。

眼を開けている感覚はあるが目の前にはただひ

たすら闇が広がっているだけだった。

「まあ、別にいいか…」

と、銀は再び目を瞑る。

そして、再度、夢の世界へと誘われはじめたところで。




ピピピピピ


スマホの通知音がなる。

銀は枕もとにあったスマホを手に取り、重いまぶたを擦りながら、ロックを解除して通知を確認する。


[メッセージが一件来ています]


「ん…、魁真からメッセージが来てる…」

それは唯一の友人の金剛こんごう魁真かいまからだった。

「朝っぱらからなんだろ?」

銀は少し面倒くさそうに内容を見る。

[ぎん、おはよ。起きてるか?]

内容はそんな感じだった。

銀は、(今日はいちいちなんだろう?)と思いながら返信する。

[起きてるよ。魁真、こんな時間からどうしたの?]

長ったらしく返すのは嫌いなので定型的な文で返した。

すると、数分もしないうちに返信が返ってくる。

[いや…今日は久しぶりに学校に来ないかと思って…]

銀は、久しぶりに見たその言葉に酷く嫌悪感を抱いた。

[嫌だ、行きたくない]

銀はそう言って断った。

[そっか…たまには来いよ?]

と、魁真からの返信が来た。

[もう、学校は嫌なんだ…あんな場所は…]

銀はそう言って拒絶する。そして、その文の後に、

[また、みたいな事が起きたら、心が持たない…だから、ごめん。]

と、付け足す。

そして、銀は今日も学校には行かなかった。

家ですることもなく微睡まどろんでいると、

[おーい、銀。起きてるかー?]

と、魁真からメッセージが来る。

[今、少し眠ろうとしたところ]

と、銀が返すと、

[そんなところ悪いんだけどさ…今から、クラスの学級委員長と一緒にお前の家に行くことになったわ…]

そのメッセージに酷く驚いた銀は、危うく、手を滑らせてスマホを床に落としそうになる。

そして、大きなため息をついて、呟く。

「なんでそんなことになるんだよ…」


ピンポーン


魁真から連絡が来て、暫く経った頃、インターホンが鳴った。

魁真だな、と思い、銀はベッドから降りて玄関へ向かう。

銀が玄関の扉を開けると、そこには女の子が立っていた。後ろには魁真が立っている。

女の子と言っても同年代に見える風貌だったが。

「えーっと、学級委員長の方?」

と、銀が聞くと、

「そうです。一応、あなたのクラスの学級委員長の真川さながわ 琥珀こはくです。今回はあなたに用があってきました。」

堅苦しい挨拶をした真川は、そのままずいっと前に出てきてこう言った。

「学校に来なさい」

「嫌だ」

銀はそう即答する。

あんなところには行きたくない。

2度とになってたまるか。

と、そんなことを思っていると、

「何故です?なんか理由があるのですか?」

と、聞かれた。

聞かれるとは思っていたが、やはり、全く話したことない人にそういうことを話すことは出来ない。

「君には言いたくない」

と、銀は言う。

しかし、彼女も諦めることはなく、執拗に理由を聞いてきた。

しかし、暫くすると、彼女も諦めて帰るが、その時、

「また明日も来ます」

と言った。

それから、平日はほぼ毎日彼女はやってきた。

毎日毎日、学校に来いとしつこくせがんできたが、ここまできたら銀も折れることはできないので、ひたすらに登校をこばんだ。


そして、ついにある日、

彼女は今までの苛立ちが爆発したのか、

「いい加減にしてください!何でそんな学校を拒絶するんですか!?」

と、怒鳴った。

しかし、銀は落ち着きながら、

「じゃあ何で僕を学校に連れていこうとするの?」

と言った。

真川は一瞬キョトンとした顔をする。

そしてすぐに顔をしかめて、

「それはっ…先生とかもあなたのこと心配してたし…」

と言うが、語尾が口ごもっている。

銀はさらに追い打ちをかけるように、

「じゃあ、僕のことは気にしないで。心配してもらいたくて、学校行ってないわけじゃないんだ」

と、冷たく言い放つ。

ダメだ、これ以上言うと…

そんな嫌な予感が銀の頭をよぎる。

しかし、彼女も食い下がり、

「…!?人が心配してるのに何様ですか!?」

と、怒鳴る。

「だから、心配しなくていいって言ってるんだけど?」

鋭く指すように冷たい言葉が口から出る。

やばい。

銀の頭の中にはそんな考えがあった。

しかし、その言葉は止まらなかった。

「さっきからさぁ、偉そうに心配してあげてるって言ってるけど、誰もそんなこと望んでないし、僕も別にそんなこと頼んでないから。それとも、先生が心配しているから、学級委員長として頼まれているからきてるの?そんなの、タダの…」

ここまでいう必要はなかった。

真川は既にいつもの強気な表情とは違い、今にも泣きそうで、負けてしまいそうな顔になっている真川にここまでいう必要はなかったんだ。

しかし、喉の奥から溢れた言葉は、塞き止めることも出来ずに出ていってしまった。

「偽善者じゃないか」

冷たく、鉛のように重い空気があたりを支配する。

最後に言った台詞は、おそらく、彼女の心やメンタルを深く抉っただろう。

そんなことを思っているとその場で硬直していた彼女は小刻みに震えながら、

「誰が偽善者ですか…!私は偽善者なんかじゃない!!」

と叫び、後ろを向いて走り出した。

「…」

しかし、銀は何も言わずに、ただただ走り去る真川の後ろ姿を見ることしか出来なかった。

「偽善者じゃない。か…」

銀はそう呟き、端から少しずつ黒くなっている空を仰ぐ。

(久しぶりに聞いたな、そんなセリフ)

そんなことを思いながら。

……To be continued

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