第6話 キマちゃんとランドセル

卒園が近づくとあちらこちらで聞こえてくる

小学校準備の話。


私たちも例外ではなく

あらゆる文房具を新しく揃えてもらえることにワクワクしていた。


その中でもメインとなるのはやっぱり

小学生と言えば!なアイテム。


「ランドセル」


私は姉と同じものが欲しく

姉と同じルート

(幼稚園の斡旋のもの)を買ってもらった。


念のために言っておこう。


私は私の意志で望んで幼稚園で受け取れる

ランドセルを買ってもらった。



2つ上の姉がある日幼稚園から

かわいいイラストの描かれた大きな大きな箱を

持って帰ってきた。

その中にはピッカピカの真っ赤なランドセルが入っていた。

たまらなくかっこよかった。


あの日からずっと憧れていたモノが

やっと自分のモノになる。

こんなにうれしいことがあるだろうか。


なのに。


園バス内でランドセルの箱を抱きしめている私に

キマちゃんは言い放つ。


「みおちゃんみんなとおんなじランドセルなん?

 かっこわるー。キマちゃんそんなん嫌。絶対。

 キマちゃんはおばーちゃまに買ってもらうねん。

 みんなと違うの買ってもらうねん。」


子供は純粋に傷つきやすいもの。

それでも私には私のプライドがあったため

キマちゃんに何を言われても泣かないでおこうと

常日頃傷ついても耐えてきた。


しかしこの日はそれが出来なかった。


園バスでこれでもか!ってくらいの号泣。


キマちゃんは私は何を言っても泣いたりしないと

思っていたのだろう。

ビックリしてか自分は悪くないと主張したかったのか

キマちゃんも泣いた。


迎えに来ていた親たちもビックリ。


私は家に帰ってから事情を親に話した。

幼稚園児の私の説明をどこまで親が理解してくれたかは

分からないが、母は納得してくれた。


キマちゃんももちろん家で親に話しているだろう。

それがなにより気がかりだった。

なにしろキマちゃんの中でキマちゃんが悪いことは

絶対にないから。

私がどれだけ悪者になっているんだろう。。



その日の夜、キマちゃんママから電話が入った。

私がまだランドセルを買っていないキマちゃんに

ランドセルを自慢したと。謝れと。


やっぱりね。


でもその電話を受けた母は

いつもみたいに私に謝れとは言わなかった。

むしろ小学校に上がれば新しい友達ができるから

キマちゃんと今みたいに無理に仲良くする必要はないと。

今まで我慢させてごめん。と私に謝ってくれた。



母の中で何か張りつめていたモノが切れたんだろう。



その日を境に私たち姉妹と母は

マンションの仲良しグループから距離を置くようになった。

どっぷり中心に属していたがその他大勢に身を引く形に。


卒園まで私はキマちゃんとほとんど話さなかった。



そして春になり、小学校の入学式の日。












キマちゃんは誰も見たこともない

蛍光色に近いまぶしいオレンジ色のランドセルで入学式に現れた。



笑ってしまうほど

羨ましい気持ちが生まれなかった。

むしろ…それはないわぁ。。といった感じ。


でもこの日の光景が目に焼きつき

私はオレンジ色が嫌いになった。


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