第22話 マリヤと破滅の薬


 ブラッドはとある大学の研究室前に来ていた。

 ブラッドが扉の前に立つと、中から声が聞こえた。

「来るのは解っているよ。入っておいで」

 柔らかい声に、ブラッドは舌打ちをし扉をあけて中に入ると、ジョシュアがソファーに座ってブラッドを見ていた。

 ソファーの前のテーブルにはジョシュアの分のお茶だけでなく、ブラッドの分のお茶まで用意されていた。

「いつ頃来るまで解っていたのか貴様は」

「ほほ、ほんの少し予測しただけですよ」

 ジョシュアはお茶を飲みながら、ブラッドにソファーに座るように促した。

 ブラッドは扉を締め鍵をし、ソファーに腰をかける。

「此処に来たのは最近はやりのドラッグの事でしょう、あれでうちの学生の何名かが被害にあった。使った側が変貌した結果ね」

「なるほど、そんなドラッグなぜ未だにはやってる」

「永遠の若さと命が手に入る、とうたっているんですよ。実際化け物にならなかった人間も何名かいる。不老不死とはいかないですが、体の調子や気分がよくなったという話を聞いております」

「フン、そんなもので不老不死になったら今までの事象は起きない」

 ブラッドはお茶に手を着けず、いらだった調子で答える。

「貴様が手伝ってるのではないだろうな?」

「残念、私はそんなものには興味はないんですよ。しかし、私の授業を受けた誰かが手伝ったという可能性は捨てきれないですが」

「マリヤを疑っているのか?」

 ジョシュアの言葉にブラッドは苛立ちを隠さなかった。

「まさか、マリヤくんが手伝う要素は一つもないですよ。ただ私の授業を途中までは何とか受けた人物はいますからね、その子らが手伝った可能性は捨てきれないと」

「なるほど」

 苛立っているブラッドを見ながら、ジョシュアは目を細めティーカップを傾け口を開いた。

「そしてブラッドくん、『永遠にいきる』のはどれほど苦痛でしたかな?」

「……貴様はやはり好かん!」

「ほほ、安心したまえ誰も聞いてないから、あ私は聞いていますね」

 飄々としたジョシュアの言葉に、ブラッドは額を押さえてから息を吐いた。

「孤独だ、理解者はいない、いなくなる、皆死んでゆくだから私は眠っていたかったのだ」

 深いため息をつきながらブラッドは言葉を吐き出した。

「……そうですか、マリヤくんにはそのことは伝えてますか?」

「伝えていない、いずれ話さなくてはならないが、話し出す機会が見つからない」

「話すのは怖いですか?」

「怖いにきまってる」

 ブラッドは言い切る。

 ブラッドは疲れたように、息を吐き出す。

「種族が違うという風にしか感じてない彼奴に伝えていないことを伝えるのは本当に荷が重い」

「そこまでマリヤくんのことを考えていただけているのは、嬉しいほどですな」

 ジョシュアはブラッドに微笑むと、ブラッドは少しばかり顔を赤くして、苛立ったような雰囲気をだして盛大に舌打ちをした。

「食えない爺だ」

「ほほ、そういっていただけて助かるよ」

「この爺は……」

 ブラッドはそういうと、お茶を最期まで飲むことなくその場から消え去った。

 残されたジョシュアはお茶を飲み干して呟いた。

「さて……不出来な弟子の誰が協力者かな?」




 ブラッドが屋敷に戻ってくると、マリヤがフミと遊んでいたところに出くわした。

「ぶ、ブラッド様、お、お帰りなさいませ」

「ああ、今戻ったぞ」

 フミを抱き抱えてひきつった顔をしているマリヤの頭を、ブラッドはぽんと撫でる。

「ぶ、ブラッド様?」

「何か変わったことは?」

「えっと……レア先生から一人の外出は禁止令だされました……最近ドラッグがはやってて物騒になってるからとか……」

「そうか、それならいい。用事がある時は私かレアに言え」

「は、はい……」

 マリヤは恐縮したような状態で、頷いた。

「今日は基地に早く戻れ、いいな。フミも連れて行ってかまわん」

「は、はい」

 マリヤはそういうと、ブラッドに言われた通りフミをつれて基地の中へと戻っていった。

 しばらくしてから、ブラッドは口を開いた。

「マリヤは出て行ったぞ、出てこい」

 そういうと、ダーシュが姿を現した。

「薬の出所は解ったのか?」

「こちらではお手上げだ、お前逹はどうだ?」

「こちらは調べて一つ成果があった、ジョシュアの爺の教え子が関わっている可能性が高い」

「なるほど」

 ダーシュはそういうと、あの薬の入った注射器を取り出した。

「薬の入手は簡単だが、出所が解らないというのが問題だな」

「ああ」

「こちらで成分を調べているが――」

「レアが殺した出来損ないどもの体組織が混じってるのだろう。もしくは最初の時に採取されていた私の体組織が混じってるんだろうな」

「その予想で正解だ」

 ダーシュはそういって何かのメモリーディスクを渡した。

「なんだこれは」

「そのディスクの中に成分全てが検出されたのが出されている、レア女史が調べた結果のものだ。それをマリヤにわたせ」

「は?! マリヤを巻き込むつもりか貴様!!」

「理由はどうあれ、これに対抗できるのはジョシュア博士か、マリヤ博士しかいないだろう」

 そういってダーシュは薬をブラッドに渡した。

「貴様の件はぼかしておけ、その上で手伝わせろ。彼女にしかできないことがある」

「……よかろう、だがマリヤを深入りさせんからな」

「できることなら、そうするといい」

 ダーシュはそう言うとその場から姿を消していなくなった。

 ブラッドは忌々しげに薬とメモリーディスクを見てから、基地のマリヤの自室に向かった。

 部屋の扉を開け放つと、マリヤが驚いた表情でフミを膝の上にのせていた。

「マリヤ、今の研究を中断して調べてほしいことがある」

「は、はい。何でしょうかブラッド様」

「最近はやりの薬を入手した、人体に投与すると化け物になる薬だ」

「ひぇ……そ、そんな恐ろしい薬だったんですね」

「その成分が入ったメモリーディスクも入手済みだ、お前はこれに対する特効薬まぁ中和剤をつくってくれ」

「わ、わかりました」

「頼んだぞ、ドクター・マリヤ」

「――はい、ブラッド様」

 マリヤはフミをブラッドに渡すと、受け取ったものを抱えて研究室へと向かった。

「しばらくは私がじきじきに遊んでやる、ありがたく思えよ」

 ブラッドがやや不満そうにフミにそう語りかけると、フミはいつものようにふみゃーと鳴いた。

 ブラッドはフミを抱き抱えて部屋を後にした――





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