第3章 七転八盗のシークレットガーデン PART8



  8.



「ん? どういうことなんだ? 八橋」



 会場の空気が固まり、八橋に集まっていた視線が散漫になっていく。彼女のいっている意味がわからない。



「レーズンっていうのはあれか? 干し葡萄のことをいっているのか?」



「…………」



 彼女の顔が赤く染まり、頭を垂れうずくまってしまっている。



  ……レーズンとはまさか。



 八橋の顔に向けていた視線を下げて胸元に集中する。彼女はまさか自分の胸の大きさを気にしているのだろうか。確かに周りに比べると大きい方ではない。だがそれをいうなれば零無だって負けてはいない。



「八橋、大丈夫だ! それはお前だけじゃない。零無だってお前の頼もしい味方だ!!」



 八橋に優しく励ましの言葉を伝える。別に気にする問題じゃないという意味を込めてだ。おっぱいは大きければいいわけじゃない、小さくてもいい、要は需要があるかないかの違いだ。

 


「え、そうなんデスか!?」



 八橋の視線が零無へ向かう。純粋な表情で彼女を覗き込んでいる。



「そうだったんデスか! てっきりこの中ではワタシだけかと……」



 八橋の表情がゆっくりと和らいでいく。どこをどう見ても同種族だと思われるが、彼女は今頃、気づいたように安堵している。



「……四宮君。今の発言はどういう意味かしら?」



 零無は声を上げて自分を食い殺すように見つめている。次に何かいってしまえば、ただではすまないだろう。



「気を悪くしないでくれ、零無。別に悪い意味でいっているわけではない」



 彼女とは同盟を組んだ仲だ。ここは演技のため、一言いってやろう。断じて仕事中にいえない鬱憤を晴らすためではなく! そう、八橋のために!



「レーズンというのはだな、つまり女性が持つ肉体的な、包容力のある部分を挿しており……」



「……四宮君。今の発言はどういう意味かしら?」



「だからな、零無。レーズンというのは……」


「四宮君、今の発言はどういう意味かしら?」



 ……何でいわせないんだよ!


 

 心の中で零無に突っ込む。RPGのモブのように同じ質問を繰り返しながらも、回答をさせない彼女の表情は冷徹だ。


「ぜ……」


「四宮君、今の発言はどういう意味かしら?」


「だからお前はロボットかっ!? 答えさせろよ!」


 突っ込んだ所で、彼女の表情は揺るがない。仕方ない、ここは引き下がるしかなさそうだ。



「……特に意味はない。忘れてくれ」



「……そう。なら余計なことはいわないことね。もし次に勘に障るようなことをいったらただじゃすまないわよ」



「……はい、気をつけます。ごめんなさい」



 零無の態度に怖気づき謝っていると、八橋もまた顔を真っ赤にしながら謝罪の言葉を吐いた。



「ご、ごめんなさい、四宮さん。紛らわしい言い方をしてしまって……」



 ……そうだ、お前も謝って零無の怒りを静めてくれ。



 大体は八橋がわかりにくい隠喩を込めていったことが原因だ。断じて俺だけが悪いわけじゃない!



 ……だが待てよ。ここで謝るのもまずい。



 謝ればそれだけ八橋のいったことが悪いということになる。貧しい胸を否定してもいけない。



「謝るな、八橋! もっと胸を張れッ!」



「え? あ、ハイっ!」


「気にしすぎるといいことなどない。堂々としていればいいんだ。お前が悪いわけではないんだからな」


「四宮さん……」


「大丈夫、お前の性格の良さでカバーできる範疇だ。卑下することはない。隠すようなことじゃないぞっ!」


 きちんと八橋の胸を見ながらいう。



「そ、その……俺はありだと思っているからな! 大丈夫だ!」



 ……大体、大きい女の方が偉そうな態度をしているのが気にくわない。



 五十嵐と七草を眺めながらいう。七草は慎ましい性格なため、より一層強い武器になるが、五十嵐の場合はある意味、暴力だ。貧乳を冒涜しているような感じを受けてしまう。


 さきほどの陸弥に至っては、もう何かの兵器だ。童貞を殺す殺戮マシーンでしかない。



「そう……デスね、確かに四宮さんのいう通りかもしれません……嬉しいデス、ありがとうございマス」



 八橋は屈託のない笑みを見せて顔を綻ばせた。




「ワタシがであっても恥ずかしがることはないデスよねっ!」



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