ゲーム
グズガは、目の前にいる白髪の男に明確な殺意を覚える。まるで、暇つぶしかのように。まるで、エンターテイメントのように。まるで、強者が弱者を弄ぶかのように。
こんな事がいったい、何が楽しいのだろうか。
「なに、簡単なゲームだ。君たちと子どもたち、両方に選択権を与えようと思う」
「……」
「親である君たち。そして、子どもたち。果たして、どちらが罪を背負うべきか。君たちが選択してくれればいい」
「……それは、どう言う」
「簡単なことだ。選べる選択肢は、2つ。自分たち親が奴隷となるか。子どもたちを奴隷として差し出すか」
「……」
「それによって選択肢は2つ生まれる。まず、子どもの罪を親が背負う場合。そして、子どもの罪を子ども自身が背負う場合。君たち自身が双方納得のいく結果であれば納得もいくだろう?」
「……っ」
そんなのいく訳がない。
「ただ、子どもと親。両者の思いが一致していなければ、無効とする。親が子どもたちに、子どもたちが親たちに互いに責任を負わせようとした場合、両方の責任とする。どうかな? 簡単なゲームだろう?」
「……」
「しっかりと、この問題について話して貰いたいのだよ。罪を明確にすることで、今後の奴隷生活を納得のいくものにして貰いたいと言う、僕の配慮だ」
「……っ」
狂っている。この男は、完全に。
「し、しかし、子どもたちは……」
「安心したまえ」
アシュが手を叩くと、放心状態の子どもたちが入って来た。彼は黙って牢屋へと入りグズガたちの元へと到着した。
「魔法で意識は刈り取ってある。まずは、カストロ君から。親子水入らずでしっかりと話して結論を出してくれ」
再び手を叩くと、カストロは正気に戻った。
「お、お父様……ここは?」
「……っ」
自分の息子だと思えば思うほど、憎悪の感情が湧き起こる。コイツのせいで、自分の人生が台無しになった。それどころか、これから奴隷にすらさせられようとしている。
しかし、なんとか説得しなければ、両方とも共倒れだ。
「カストロ……よく、聞け。お前は取り返しのつかないことをしたんだ。よりにもよって、国内最高の権力者であるリデール大臣の娘様をいじめるという、とてつもないことを」
「ひっ……ごめんなさい」
息子の謝罪に対し、グズガは大きく首を振る。
「許される事じゃない。決して許されることじゃないんだ。お前は罰を受けなければいけない」
「うっ……ううううう。はい」
「わかるな? 本来は死罪なんだ。しかし、今ならば奴隷で許してくれる」
「ううううううう……ううううう……」
「お前のためなんだ。キチッと罪を償え。そして、真っ当な人間になるんだ」
「ううううっ……はい、わかりました」
カストロが頷いた様子を、アシュは興味深い様子で観察する。
「決まったかな?」
「ああ。息子は奴隷になるそうだ」
「君には聞いてないよ。カストロ君。身代わりに奴隷になる準備はできたかね?」
「み、身代わり?」
「……っ」
余計なことを、とグズガは歯を食いしばる。
「ああ。君が奴隷になれば、親のグズガ君は許される。しかし、グズガ君が奴隷になれば、君は奴隷にならなくてもいい。そう言うゲームなんだ」
「お、お父様?」
カストロは信じられないような表情を浮かべる。
「お、お、お前が悪いんだから仕方がないだろう! 自業自得だ! 自己責任だ! 困ったら親頼みなんて世間を甘く見るなぁ!」
「ひっ……ごめんなさい」
「クク。決まったかな?」
アシュは再度確認をする。
「……」
「重要な決断だ。しっかりと考えてくれ、カストロ君。これから、奴隷として人間……いや、家畜以下の扱いで残りの人生を過ごすのだから」
「ひっ……い、嫌です! そんなの、嫌だ!」
!?
「嫌と言っても、困るな。選択肢は、限られている。親か子どもか、どちらが奴隷になるか選ばなくては」
「ひぐぅ……」
カストロは涙を溜めながら、その場で崩れ落ちる。
「では、決めようか。自分自身を犠牲にするかい?」
「うう……嫌でずっ」
「……っ、おい! カストロ! なにを言っている!」
「だっだっだっで! 嫌なものは嫌ですぅ!」
「ふざけるな! 貴様が奴隷にならなかったら、家族全員が奴隷になるんだぞ! お前が悪いんだから! お前たちの罪なんだから!」
「ふぐぅ……お、お父様だって! 俺がナルシーを虐めた話をしてたら、笑ってたじゃないですか!」
「……っ」
「自分だって過去に同じことをしたって! 武勇伝みたいにそう言ってたじゃないですかぁ!」
「……い、今の話をしてるんだ! 誤魔化すな!」
「イジメるなら片親か下級貴族にしておけよって! お父様が言ったんじゃないですか! 俺はそれを実践しただけだ! 悪いのはお父様じゃないですか!」
「違う違う! お前が悪いんだ! お前が!」
「お父様の言う通りにしたんだ! 悪いのはお父様じゃないですか」
「クク……」
言い争う2人を見ながら。アシュはワインに口をつける。
「……」
そんな中。
隣の執事が声をかける。
「……楽しいですか? アシュ様」
「ああ、楽しいね。彼らのような弱者が右往左往するところは、非常に見ていた滑稽だ」
「……そうですか」
「どうかしたかい、ミラ?」
「いえ。ただ、なんとなくですが。アシュ様らしくはないと思ったものですから」
「そうかな?」
アシュは不思議そうに首を傾げた。
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