第4話 〈コスモス〉を奪ったパイロット

 指定されたポイントは新首都高だった。


 かつて存在した首都高を全面改装したものであり、車線は広くて安全第一で作られている。通行する乗用車はすべて車輪で走る自動運転車であり、過疎化しているだけあって数は少なかった。


 そんなスカスカの道路に、手動運転の大型トラックが停車していた。〈コスモス〉にフライングユニットを接続しているのだ。


 フライングユニットとは、自走台車と同じくレーダー波を吸収するオプションパーツであり、短距離だがDSが空を飛べるようになる。その見た目は西遊記に登場するキントウンを機械にしたみたいだった。


 五光は本部へ報告した。


『花札から本部へ。敵はフライングユニットで逃げるつもりです』

『少々お待ちください…………フライングユニットの入手ルートを調べたら敵の所属が判明しました。テロ組織【グレイブディガー】です』


 かなり有名なテロ組織だ。テロリスト訓練キャンプを複数持っていて、DS乗りも粒が揃っている。資金の調達はグローバル企業の襲撃で成り立っているため、戦闘経験も豊富だった。組織の目的は『世界の変革』といわれているが、真相は不明だ。


 だがなぜテロリストが国家憲兵隊の新型DSを狙うんだろうか。新型というのは予備パーツが少ないし整備にも手間暇がかかるから国家単位の巨大組織でないと運用できないのだ。


 実際問題さきほどROTシステムを使った反動で〈グラウンドゼロ〉はオーバーホールが必要になっていた。特に脚部の間接パーツが破裂寸前であり、もし無理な動きをしたら歩行不能になるだろう。


 だからこそ五光には選択が生まれていた。


〈グラウンドゼロ〉が歩行不能になるリスクを背負ってでも〈コスモス〉を襲撃するか。


 それとも仲間の到着を待って監視を続けるか。


 二つに一つ。


 五光は幽霊みたいな同乗者へ質問した。


「あんたはどう思う、葛城スティレット」

(襲撃に決まってんでしょ。相手は丸腰で護衛もいないんだから、一撃で仕留めればいいのよ)


 スティレットは勝気な顔で強気なことをいった。


 五光も同感だった。わざわざ損傷した脚部を動かす必要はないから、遠距離から撃って片付けてしまえばいい。


 さっそくプラズマ機関砲を構えた。だがエラーが発生した。ROTシステムの反動で照準システムが狂っていたのだ。ハードウェアだけではなくソフトウェアまでおかしくするなんてどうかしている。


 五光はプラズマ機関砲を捨てると、プラズマブレードを装備。脚部パーツが破損しない速度で新首都高に侵入した。


〈コスモス〉が〈グラウンドゼロ〉に気づいた。だが丸腰なのでフライングユニットの接続をじっと待っている。


「武器を持っていないならば」


 五光は〈コスモス〉へ斬りかかった。決して油断していなかったし、相手を舐めてもいなかった。持っている技術のすべてを投入して、必殺の一撃を放っていた。


 だが〈コスモス〉は〈グラウンドゼロ〉の手首を掴んで必殺の一撃を止めてしまった。


「まさに運命だな、五光くん」


〈コスモス〉から聞こえてきた外部音声に聞き覚えがあった。


 忘れるはずもない。


「校長先生、どうして……」


 五光は彫像のように硬直した。


 校長先生こと新崎だ。


 人生の目標にしていた人物が、テロリストになって新型DSを奪った――そんなこと信じるわけにはいかない。だが尊敬する人物の声を聞き間違えるはずがない。頭の中が真っ白になって、プラズマブレードを落としてしまった。


 新崎は厳かな声で告げた。


「運命なのだよ、すべての流れは」


〈コスモス〉の強烈な膝蹴りが腰部へ突き刺さる――〈グラウンドゼロ〉は、くの字に折れた。コクピットの五光は激しく揺さぶられて視界が乱れた。必死に反撃を試みようとしたが、敵の右ストレートが迫っていた。


 顔面に直撃――〈グラウンドゼロ〉は後方へ吹っ飛んで新首都高の路面を無様に転がった。


 今のダメージで脚部の間接パーツがひしゃげてしまい〈グラウンドゼロ〉はまともな歩行ができなくなった。おまけに格納庫で被弾していた五光の左腕の傷が開いてしまい、真っ赤な血が滲んでくる。


 五光は、倒れた〈グラウンドゼロ〉の中でホゾを噛んだ。機体の運動性が著しく低下しているし、左腕が自由に動かせない。


 絶体絶命のピンチである。


 だが運よく仲間の増援が間に合った。味方のDS部隊が新首都高を包囲していく。


 しかし新崎も脱出の準備が整ってしまった。


「さらばだ五光くん。また会おう」


 キントウンそっくりなフライングユニットが起動。新首都高の直線道路を滑走路にすると〈コスモス〉は夜空へ飛び上がり、真っ暗な東京湾の向こうへ消えた。

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