打ちっぱなしのコンクリート壁を這うように上る紫煙。

辿って下を向けば着古した背広の男が深く椅子に掛けていた。

彼は桑野くわの 朔太郎さくたろう。一応はこの組織のトップである…が、そう見えないくらいにはくたびれている。

それを証明するように、机に投げ出されたキャメルの箱はひしゃげ、100円ライターはもうほとんどオイルが残っていない。安物の灰皿は吸い殻がある意味芸術的に盛り込まれている。何より、不器用過ぎて団子結びになっているネクタイが哀愁の塊のようだ。


「まったく。

桑野、そろそろタバコの本数を減らせ」


その声に桑野は目もくれず紫煙ごと言葉を吐き出す。


「月島、お前には言われたくねぇよ」

「私はきちんと禁煙したぞ?」

「黙れ、元ヘビースモーカー」


ここでやっと桑野は声をかけてきた男と目を合わせる。

相手は丁度、禁煙用に買っているハッカ飴を口に放り込んで笑っていた。


月島つきしま むらさき

この組織きっての武闘派。

金と銀の間、月光のような淡い色をした長髪に紅い眼。先天的色素欠乏…アルビノだ。その目立つ容姿で随分苦労したらしい。


だが…。


「紺が喜ぶならタバコくらい楽に止めてやるさ」


約一年前にやってきた新人と恋仲になって彼は随分と変わった。

まだ歪いびつだが、笑うこともできるようになったらしい。

桑野はそんな彼に若干の眩しさを感じる。


「で、仕事の報告は?」


紛らわすように聞くと、月島は一言


「黒だ」


と答えた。


「じゃ、今晩にでも潰しにかかるか。月島、援護頼めるか?」

「ああ。なら倉庫のカギを貸してくれ」

「ほいよ」


桑野が投げたカギを取った月島は歩き出す。

フロア内の複雑な廊下を辿った最奥。そこにあるのは銀行の金庫室並みの防火扉。

それを、ぐっ、と力を込めて開く。


薄暗い空間に蔓延はびこる鉄と油、そして微かな火薬の匂い。

明かりを付けた室内には所狭しと銃火器を始めとする武器が並んでいた。


その中から月島は迷わずライフルを掴み、小さく笑った。

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