色々な色 ①大統領を決めた色

 『亡霊葬稿ゴーストライターマスタード』で紹介した通り、モルフォチョウは美しいはねを持っています。きらびやかな青色を、「森の宝石」と形容する人も少なくありません。


 鮮やかな色彩ははねの構造によるもので、「構造こうぞうしょく」と呼ばれます。

 詳しい説明は、『亡霊葬稿ゴーストライターマスタード』をご覧下さい。


 何も構造色こうぞうしょくは、モルフォチョウの専売特許ではありません。


 劇中ではタマムシの名前をげましたが、他にも多くの生物が構造こうぞうしょくを使っています。意外と知られていませんが、魚の銀色もその一つです。


 構造こうぞうしょくほど鮮やかではありませんが、我々の周りには多くの色が存在しています。


 古代から色は、人類の生活に関わって来ました。


 フランスのラスコー洞窟には、動物の壁画が残されています。作者は旧石器きゅうせっき時代じだいのクロマニョン人で、描かれたのは2万年前から1万5000年ほど前だと考えられているそうです。


 遥か古代に描かれたウシやウマには、既に赤や茶、黄色と言った顔料がんりょうが使われています。同様にスペインのアルタミラ洞窟にも、様々な色を使った壁画が残されているそうです。


 現代でも色は、大きな影響力を持っています。


 どんなに美味おいししくても、毒々しい色の料理にはなかなか手が伸びません。

 また商品にカラーバリエーションを持たせることは、最もポピュラーな販売戦略です。家具や家電を買う時、性能以上に色を重視する方も多いのではないでしょうか。


 時に色は日常生活だけでなく、歴史にも影響を及ぼしてきました。

 特に1960年のアメリカ大統領選において、色は重要な役割を果たします。


 同年の9月26日、大統領候補のリチャード・ニクソンとジョン・F・ケネディは討論会を行いました。

 この討論会は、テレビで放送されたことでも有名です。今でこそ大統領選の候補者がテレビで討論するのは当たり前ですが、当時としては初の試みでした。


 民主みんしゅとう候補のケネディは、テレビ映りを考え、ネイビーのスーツを着用します。一方、共和きょうわとう候補のニクソンは、特に意識することなくグレーのスーツを身にまといました。


 当時、既にカラーテレビは開発されていましたが、普及率は高くありませんでした。そのため、有権者の大多数が、白黒の映像で討論会を視聴したと言います。


 グレーのスーツを着たニクソンは、見事に背景と溶け合ってしまいました。しかも、彼は体調不良から回復したばかりで、顔色もよくありませんでした。結果、ニクソンは視聴していた有権者に、弱々しい印象を与えてしまいます。


 対して濃い色のスーツを着たケネディは、白黒の映像でも埋もれることがありませんでした。むしろ有権者に力強い印象を与え、多くの支持を勝ち取ることに成功します。


 ちなみにこの時、したたかなケネディはテレビ用のメークもほどこしていました。このことが一層、比較対象のニクソンに見窄みすぼらしい印象を与えてしまいます。


 テレビで二人の対決を観た人々は、討論はケネディの勝ちだと判断しました。


 逆にラジオで討論を聞いた有権者には、ニクソンの勝ちと考える声が多かったと言います。純粋に討論の内容だけを比べるなら、ニクソンのほうが優れていたのかも知れません。


 1960年11月8日に行われた大統領選挙で、ケネディはニクソンを破り、第35代アメリカ大統領に就任します。

 勿論もちろん、テレビ討論会だけが結果を左右したわけではないでしょう。

 一方で多くの専門家が、無関係ではないと考えているのもまた事実です。


 前置きが長くなりましたが、今回のシリーズでは色に関する色々な話を取り上げていきたいと思います。


「色」と聞いた時、多くの人はまず赤を思い浮かべるのではないでしょうか。


 赤は色の主役と言っても、過言ではない存在です。

 大半の服やインテリア用品には、赤いカラーバリエーションが用意されています。作者の大好きな特撮でも、主役を張るのは赤いヒーローです。


 以前紹介したように、ルビーとサファイアは同じ鉱物です。

 しかしルビーと呼ばれるのは赤い石だけで、それ以外の色はサファイアに分類されます。「イエロー」ダイヤモンドや「ピンク」サファイアはありますが、「ブルー」ルビーは存在しません。

 詳しくは『亡霊葬稿ゴーストライターシュネヴィ』の番外編(『ダイヤモンドは砕けモース ③サルーインには捧げません!』)をご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881358290/episodes/1177354054881818755


 赤は炎の色でもあり、熱情や活力、力強さを感じさせます。目にするだけで気分をたかぶらせ、パワーを与えてくれる色です。事実、赤いユニフォームを着たスポーツ選手は、普段よりいい結果を残すと言う報告もあります。


 このように熱いイメージのある赤ですが、実際のところ、赤い炎は低温の部類に入ります。さそり座のアンタレス、オリオン座のベテルギウスと言った赤い星も同様で、表面温度は太陽以下です。詳細は本編で解説していますので、宜しければご覧下さい。


 赤はまた、各国の国旗にも多く使われています。


 中国やトルコのように真っ赤な国旗から、日本やドイツのように一部が赤いものまで、例を出していったらキリがありません。恐らく、赤の使われていない国旗を探すほうが難しいでしょう。


 事実、赤は国旗に一番多く使われている色で、150ヵ国近くに採用されています。ちなみに二位は白で、三位は青、以下、緑、黄色と続きます。


 勿論もちろん、同じ赤でも、意味するものはそれぞれ違います。


 アメリカ国旗の赤い横縞よこじまは、白い横縞よこじまと合わせて13本になります。これは独立戦争の際、イギリスに戦いを挑んだ州の数を表しています。一方、トルコの国旗では、革命の際に流れた血を意味しているそうです。


 国旗の赤が、血の色であることは珍しくありません。

 現にスペインやケニアの国旗でも、赤は血の色を表しています。


 赤い旗には、社会主義の象徴と言う側面もあります。


 中国や北朝鮮と言った社会主義国家は、こぞって赤い国旗をかかげています。かつてアメリカと世界を二分したソ連も、真っ赤な国旗を使っていました。


 元々、赤い旗は、フランス革命の際に市民がかかげたシンボルでした。


 フランス革命は、18世紀末、フランスで起きた革命運動です。旧態依然とした体制に不満を抱いた市民が、国王ルイ16世に戦いを挑みました。


 民衆がバスティーユ牢獄を襲撃した7月14日は、現在、フランスの建国記念日に制定されています。バスティーユ牢獄は当時パリにあった刑務所で、多くの政治犯が収容されていました。


 国王との戦いに使われて以降、赤い旗は特権階級との戦いを象徴するものになりました。社会主義国家の場合は、格差や資本主義との戦いにかかげているようです。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回は人知れず人間の命を救っている、お役立ち生物を紹介します。


 参考資料:色彩心理のすべてがわかる本

           山脇恵子著 ナツメ社刊

      色の知識 ――名画の色・歴史の色・国の色――

            城一夫著 青幻舎刊

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