第5章 ハジメ勇者になる『神様は可哀想なので助言します』

 ハジメは学園で授業を受けるも身が入らない。

 昨日の夢の内容が強烈過ぎて、授業どころではないのだ。

 

 授業が終わり今日も恒例の日課が始まる。

 放課後学園にて行われるちょっとしたゲームに毎日毎日参加させられている。

 そのゲームは剣術の腕を競うゲームでハジメはいじめの標的とされている。

 なぜならハジメは一番弱いからである。そして勝者は敗者に何でも命令することができる。

 このゲームは学園側も黙認していて、ハジメは参加せざるを得ない。

 

 「嫌だな~行きたくないな~。はあ~」


 ハジメは溜息をつきながら仕方なくゲームが行われる武道場に今日も顔をだす。



 『始まりましたよハジメさん。どうやらいじめを受けているようですよ』

 『見ていて心が痛むから余り見たくないんだよ。何で俺の名前で俺の容姿であんなに弱々しくいじめられているんだよ』

 『可哀想なので一度だけ助言してみてはどうですか』

 『そうだな一度だけ助言してみよう。何か自分に助言しているみたいで変な気分だが』


 『おい幻想ハジメ、お前は神からプレゼントを与えられたんだ、それを利用してゲームに勝ってみせろ』


 

 「え!? 誰今の声。僕の声にそっくりだったが」



 『これ以上は助言しないほうがよさそうですね。物語の根幹に関わると駄目ですから』

 『これすらもAIは計算して物語を作っていたりしてな』

 『ありえますねそれは。さあ続きを見ていきましょう』

 『ああ物語スタート』


 

 ハジメは謎の声に返事するも返ってこない。ハジメは自分がとうとう幻聴が聞こえるのではと恐怖する。

 ハジメが武道場に着くといつものいじめっ子が沢山待ち構えていた。

 

 「逃げずに来るなんて勇気だけは褒めてやるよ。ああそれとも馬鹿だから来るのかな」

 「今日の僕は違うんだ」


 ハジメは震えた声で強がる。大丈夫神様がプレゼントをくれたんだから。

 ハジメは武道場にて一本の竹刀を持つ。いつもは負けっぱなしだけど、今日は負けられない。

 

 「じゃあ行くぞハジメ。今日も有り金置いてけよ」

 「僕だってやる時はやるんだ」

 

 ハジメは叫び声を上げながら竹刀を相手に向かって振るう。

 しかし、ハジメの竹刀は簡単に躱されて、逆にお腹に突きを貰う。

 ハジメはぐはっという声にならない声を漏らし、その場で蹲る。

 

 「ははっやっぱりお前は弱いな」

 


 『いや、本当に弱すぎるだろ。何だよこの展開、この後逆転のシナリオは用意されているんだろうなAI』

 『ハジメさんを信じましょう。ハジメさんは覚醒するはずです。何せ勇者になるのだから』

 『勇者になれるまでどれだけ時間がかかるんだよ。このペースだと十年かかっても魔王なんか倒せねぞ』

 『確かに少し早送りしますか?』

 『無駄な部分は早送りするとして大事な部分は見ないと面白くないし、内容分かんねえだろ』

 『じゃあ少しだけ早送りを』



 ハジメは負けて有り金を置き帰っていく。

 ハジメは結局覚醒せず、プレゼントの意味も分からずじまいになった。



 『どうやら負けてしまったようですね。早送りして正解でしたね』

 『ここから面白くなりそうだし普通に見るか』

 『同感です。凄く楽しみです』



 ハジメは帰り道一人の少女に声を掛けられた。


 「貴方神様にプレゼントを貰ったのね。なのに使わないなんて宝の持ち腐れ」

 「な!? どうして知っているんだ夢のこと」

 「私は貴方のパートナーになる存在だからよ」 

 「パートナー!? 僕にそんな価値ないよ」

 「はあ~仕方ないわね今から魔王の手下がいる森に行きましょう。丁度明日から一週間学園は連休で休みだしね」

 「な!? 魔王の手下、無理だよ僕には君も知っているだろカースト制度で言ったら僕は最底辺なんだ」

 「勇者になりたくないの?」 

 「なりたいよ。だけど……」

 「男なら覚悟を決めなさい」


 ハジメは渋々名前も知らない女の子に付いていく。

 


 『面白くなってきましたね。でも少し早送りしましょう』

 『ああ、移動シーンはカットでいいだろう』



 ハジメが森に着くとそこには凶悪な魔王の手下がいた。

 

 「さあ戦いなさい。願うのよ勇者になりたいと」

 「勇者になりたいと願う……分かったやってみる」

 

 ハジメに気づいたモンスター達が一斉にハジメ目掛けて襲いかかる。

 ハジメは足が竦んで動けない。モンスターに蹴り飛ばされ、後ろにある太い木に背中を打ち付ける。

 

 「がはっ」

 

 ハジメは夢のことを思い出す。

 

 (そうだ……勇者になるんだ)


 ハジメは決意を目に宿し強く願う。

 次の瞬間ハジメの目の前に勇者の剣が出現する。


 「何だこれ!? これが神様のプレゼント」


 ハジメは勇者の剣を握りモンスターに立ち向かう。

 遂にハジメは勇者に目覚める。



 『勇者になるまで長すぎだろ。明日は早送りしようぜ』

 『はい、勇者になるシーンは見られましたし、明日は早送りしましょう』

 『それにしてもこの物語ありきたりだな。設定も古臭く、作ったAIは才能ないんだな』

 『AIを作ったのはハジメさんですよ。ハジメさんの妄想がこの程度なんですよ』

 『意外とお前毒舌だな。まあいいや今日はここまでにしよう』

 『はいまた明日が楽しみです』


 神様は物語の中の人の苦労も知らず言いたい放題である。


 これが神様の現実なのかもしれない。

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