第一章 唯一の能力は妄想

 俺は目が覚めたら知らない森の中で倒れていた。

 鳥の囀りが聞こえる。森には木漏れ日が差し込んでいる。


 どこだここ!? 全く覚えていないんだが、何がどうなって森で倒れているんだよ。


 取り敢えず体が痛い。落下でもして記憶喪失にでもなったか俺?


 ガルルルルルルルル。


 変な声が聞こえた気がする。気のせいだよな。


 ガルルルルルルルル。


 ああ気のせいではないわこれ。


 猛獣が俺に襲いかかる。見たこともない猛獣だ。

 記憶ないし当然か。

 逃げるしか無いが足が震えて動けない。

 

 ああ俺死ぬんだここで俺の人生終わった。

 でも俺も男だ、最後にこの猛獣を脳内だけでも倒してやる。

 俺は脳内で猛獣を殺す妄想をする。自分が格好良く剣で倒す妄想を。

 

 あれ!? いつの間にか剣が右手に存在する。


 あれ!? 体が猛獣に向かって動き出す。


 あれ!? 猛獣を剣で倒してしまった。



 何がどうしてこうなった。俺は脳内でひたすら強く妄想をしていただけなのだが。


 まさか、妄想したことが現実になったのか、いやまさかな。


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 幻想ハジメ 15歳 男 レベル1


 職業 勇者


 スキル 妄想


 筋力?

 魔力?

 耐性?

 幸運?

 敏捷?

 耐魔?


 ※鑑定スキルは妄想で補えます


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 は!? 意味不明ですが。

 妄想って何ですか、妄想って。

 後ステータス?ってどういうことだよ。さっき格好良く猛獣倒してただろうが。

 

 名前は幻想ハジメって言うのか? 変な名前だな。

 せめてスキルの名称も幻想に変えろよ。格好悪いだろうが。

 しかし文句を言っても仕方ないか、ここは先ず妄想を鍛えよう。

 そうだな空を飛びたいぞ。空を飛んで行けば森を抜けられるはずだ。

 

 俺は空を飛ぶ妄想をする。

 すると俺はゆっくりと空中へ浮上していく。

 おお空を飛んでる、飛んでるぞ。

 俺は子供みたいにはしゃぐ。

 しかしこれどこまで浮上するんだ、段々怖くなってきたんだが。

 

 俺は無事に妄想で森を脱出する。しかしここで非常事態に見舞われた。

 馬鹿な俺ははしゃぎすぎて、マッハで真っ直ぐ空を飛ぶイメージをしてしまった。

 その御蔭で視界が霞むほどの速度で動いてしまう。

 まずいまずい、止まる妄想をしないと。

 俺は止まる妄想をして何とか非常事態を切り抜ける。

 

 しかしこのスキル厄介だな。変な妄想をしてしまうと、それが実現してしまうことになる。

 試しに美少女のおっぱいに顔を埋める妄想をしてみよう。

 本当に妄想が実現するなら美少女のおっぱいに顔を埋めれる筈だ。

 

 俺が馬鹿な妄想を目を閉じてしていると何やら柔らかい感触が俺の顔を包み込んだ。


 

 「貴様一体誰で何のためにこんなことをしている? 事と次第によっては許さんぞ」

 「え……いや、その、あの……妄想したらここに飛んできてしまい悪いのは俺じゃなく俺の妄想なんです」

 「貴様何を言っている。言い訳はそれだけか、死をもって償え」

 


 うわああああああああ!? 違う違う、妄想のせいなんだよ本当に。


 あ、そうだこの金髪巨乳美少女が俺に攻撃できない妄想をすれば解決だ。


 俺はまたしても妄想をする。俺に攻撃できない妄想を。


 

 「な!? 動けない。貴様何をした」

 「妄想のお陰だ。少しの間俺の言うことを聞いてもらおう。じゃないともっと凄い辱めを受けて貰うぞ」

 「くっ、貴様。私をこれ以上辱めるつもりか」 

 「いや、言うことを聞いてくれれば何もしないと約束しよう、さあどうする? 金髪巨乳美少女よ」

 「分かった、何もしないと約束する。だから辱めるな私を」

 「いいだろう」


 

 いやなんか凄い変態チックな会話の流れになってしまった気がする。

 まあ可哀想だし、おっぱいに顔を埋めれたし、今は良しとしよう。


 

 「それで私に何の用件だ。いきなり現れてお前は一体誰だ」

 「俺は幻想ハジメ。自分でもよく分からないが職業は勇者だ」

 「勇者だと!? お前が伝説の勇者なのか」

 「え!? 伝説かどうかは分からないな。ステータスに書いてあるだけだし」

 「そうか、なら話は早い。今までの件全部水に流してやろう。その変わり私とパーティーを組め」

 「は!?」


 

 いやいや何でそういう話になったんだ。一体何がどうしてこうなった。

 何、この世界勇者だとそんなに凄いのか。そして俺は何故勇者なんだ。

 この金髪巨乳美少女とパーティー組んでメリットなんか無いだろ俺。

 見たところ何か騎士っぽい格好しているし、戦争にでも駆り出されたらたまったもんじゃない。



 「断る、俺にメリットないだろ」

 「魔王退治には勇者である貴様が必要不可欠なのだ。その代わりと言っては何だが褒美をやろう」

 「褒美?」

 「私には両親がいなく、たった一人で生きてきた。今も独り身である。よって貴様と契を交わしてやろう」

 「いや結構です。妄想使えば何でも願い叶うので」

 「頼む、そこを何とか、このとおりだ」



 ううっ……何か土下座までし始めたんですがこの人。すごく面倒くさい。

 仕方ないどうせ妄想使えばいつでも逃げられるしここはこの世界を知るために一時的にパーティーを組むか。



 「いいだろう、但し俺は俺に不利益なことはしたくない。魔王退治がどう俺に利益があるかを話せ」

 「ああ有り難い。私の名前はエルミスよろしく頼むハジメ」

 「ああよろしく頼むエルミス」



 何か妙なことになったぞ、この妄想のせいで。


 まあ何を隠そう取り敢えず


 俺の唯一の能力は妄想である。

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