第19話 予期せぬ同行者

 船縁の向こうには陽光をきらきらと反射する広大なビルター湖と、それを望むシルベスタン港に停泊する大小様々な船の姿が見える。カエトスはそのうちの一隻である巨大な船の甲板上ににいた。

 これはシルベリア王国所属の軍艦の一つで、物資や人員の運搬に用いられる輸送船だ。

 帆船とは異なり帆や帆柱、そしてそれらを支えたり操作する縄の類が一切ないため、甲板上は非常にすっきりとしている。目立つ構造物といえば、船体後部にある船尾楼くらいのものだ。

 二階建ての家屋ほどの大きさのその上部には舵に直結した舵輪が設置されており、内部には船長や上級船員たちの私室、そして船の推進力を生み出す源霊使いが待機する部屋がある。

 この船は彼ら源霊使いが使役する源霊ミュルスの力によって推進する動力船と呼ばれる船であり、それゆえ帆が必要ないのだ。

 

 緩やかに波打つ水面とともに揺れる船を眺めていると、不意に何かが水面に落下する音がカエトスの耳を打った。甲板上の人間たちが一斉に舷側へと目を向ける。

 

「おおい! 誰か落ちたぞ!」

「縄持ってこい、縄!」

「どじな人がいますねぇ」


 男たちの怒声が響く中、呆れたように言ったのは船縁に背中を預けて寛いでいたヨハンナだ。

 いつものように黒髪を高く結い上げている彼女は、自身の身長程もある銃槍を携え、親衛隊ヴァルスティンの記章〝三日月を囲む星々〟が胸に刻印された濃紺の皮鎧を纏っている。普段の制服姿からは町娘っぽい雰囲気が感じ取れたが、さすがにいまの姿からは物々しさのほうが強く漂ってくる。

 

「これから霊獣討伐に行くのに、気が緩んでるんじゃないですかぁ?」

「確かにその通りだが、落ちた人間もお前には言われたくないだろうな」


 水面のような静謐な声の主は、ヨハンナと同じ武装に身を固めた親衛隊ヴァルスティンの副隊長アネッテだ。銃槍を手に佇む鎧姿は制服のときよりも一層勇ましく、短い黒髪と相まって一見すると男のように凛々しい。

 

「アネッテさん、ひどいっ。私だって試験に合格したからここにいるのに。そう思いませんか、ミエッカさんっ」


 ヨハンナに名を呼ばれた親衛隊ヴァルスティンの隊長ミエッカは、水音のほうへと鋭い視線を向けていた。硬質な気配をまとっていたが、危険な兆候がないとわかると、小さく息をつきながら部下へと向き直る。

 

「それならいつまでも行きたくないと駄々をこねるんじゃない」

「だって怖いんですもん。そもそもですよ? 私は霊獣討伐になんか行きたくなかったのに、隊長が無理やり試験を受けさせたんじゃないですかぁ。私はあの人たちとは違うんですっ」

 

 ミエッカを恨めしそうに見ながら、ヨハンナが指差す。

 三人の会話を黙って聞いていたカエトスは、それを追うように視線を巡らせた。

 

 カエトスたちはヨハンナの言うように霊獣討伐のために輸送船に乗り込んでいる。その人員は、無論カエトスたちだけではない。

 船にはすでに霊獣討伐に選抜された兵士たちが乗船しており、その多くは甲板下の船倉で待機している。その中でも小隊長以上の役職の者は、船尾楼での事前打ち合わせに呼び出され、それが終わった後も甲板上でいくつかの集団を作り会話を交わしていた。

 ヨハンナが指差したのは彼らだ。

 志願して試験に臨み、選抜されたという自負があるのだろう。濃緑色の皮鎧を身に付け、銃槍を手にする彼らからは、輸送船に乗る前から暗い顔をしていたヨハンナと違い、霊獣を討つという覇気が伝わってきた。

 

「それで合格したということは、ヨハンナ殿は優秀なんですね」

「いやぁ、それほどでも」


 カエトスの持ち上げる一言に、ヨハンナはたちまち相好を崩した。

 

「これでも一応ヴァルスティンの一員ですし? 殿下のお顔に泥を塗るわけにはいきませんから、少し本気を出しただけですよぉ」

「それじゃあ、同じように本気を出せば問題ないな。殿下のために奮闘するのを期待しているぞ」


 得意気に言うヨハンナの肩を、ミエッカがにやりと笑いながらぽんと叩いた。その拍子に彼女が装備している剣ががちゃりと音を立てる。

 ミエッカの武装は、防具は濃紺の皮鎧だが、武器はヨハンナたちのような銃槍ではなく、普通の剣を携えていた。しかも腰に差した一振りだけではなく、背中にさらに四振り担いでいる。人一倍強い物々しさを放つその姿は、今朝、中郭に向かうときに見せた少女のような初々しさは欠片もなく、まさに戦いに臨む戦士といった風体だ。

 彼女たち三人にカエトスを加えた四人が、霊獣討伐時の最小編成である班を組むことになっている。そのためこうして共にいるというわけだ。

 

「……カエトスさんのせいで引き返せなくなっちゃったじゃないですかぁ」


 上目遣いにカエトスを睨み付けながら、ヨハンナは頬を膨らませた。

 

「そもそも何でカエトスさんはそんなに平然としてるんです? 霊獣と戦うんですよ? 死ぬかもしれないんですよ? 怖くないんですか?」

「いえ、私も怖いですし、緊張もしています。見えませんか?」


 表面には出さないようにしてはいるが、カエトスは緊張していた。

 なぜなら、啓示する書物イルミストリアによる試練を、これから遂行しなければならないからだ。

 その内容はビルター湖中央の島ウルトスに棲みついた霊獣を討伐し、さらに同行するミエッカを守り抜くこと。ミエッカは上司であり仲間でもあるから守るのは当然なのだが、わざわざ名指しで言及していることから、彼女だけに襲いかかる特別な危機があると予想される。それだけでも重大な懸念材料なのに、いつもカエトスとともに在った小さな女神ネイシスは、王城アレスノイツで侍女長ナウリアの護衛に当たっているためこの場にいない。

 果たして無事に乗り越えられるだろうかという不安はまるで晴れることなく、カエトスの心中には暗雲が垂れ込めている。

 

「とてもそうは見えないな」


 腰に手を当てたアネッテがカエトスの全身を眺めながら言う。ちなみにカエトスの装備は、彼女たちと同じ濃紺の皮鎧と、愛用の神鉄製の剣だ。

 

「もしかして、霊獣討伐の経験でもあるのか?」


 その一言で胸の痛みとともに、ティアルクの町で関わりのあった女たちの顔が呼び起こされた。彼女たちと霊獣とは切っても切れない思い出があるのだ。

 カエトスはすぐにそれを記憶の奥深くに押し込めながら口を開いた。

 

「ええ。これまでに何回かあります。一番近い例では、一か月ほど前にティアルク近郊に出没していた霊獣を討ちました」

「本当ですか? どんな霊獣だったんですか? どうやって倒したんですか? 参考のために教えてくださいよ」


 ヨハンナが教訓として生かしたいというよりも、単純に話を聞きたいという好奇心に目を輝かせながらぐいぐいとカエトスに迫る。


「私の話を聞いても、あまり役に立たないと思いますよ。これから討つ霊獣と同じようにミュルスを使役していましたが、あっちは狼のような獣でしたから。話によれば、これから戦うのは鳥でしょう?」


 カエトスは今回の任務に就くにあたって、事前に大まかな概要を聞かされていた。そこでミエッカたちと班を編成することを聞かされたのだが、その際告げられた霊獣は猛禽類であるとのことだった。


 霊獣とは源霊を使役する獣の総称であり、様々な種類が存在する。また使役する源霊も五つのうちのどれと決まっていることもない。ミュルスを扱う狼もいれば、リヤーラを操る鼠なども存在するのだ。ゆえに霊獣に対する戦術は一言では語れず、前例をそのまま踏襲することもできない。つまりカエトスの経験がそのまま生かせるとは限らないのだ。

 

「ヨハンナ、もともと戦い方を聞いても参考にはならないぞ。カエトスと私たちでは技術がまるで違う。カエトスにできることが私たちにはできないし、逆に私たちにできることがカエトスにはできない。そうだな?」


 そう指摘するアネッテにカエトスは深く同意した。

 

「全くもってその通りです。私は私の剣舞に合わせた戦術を持っていますが、それはヨハンナ殿には合わないでしょう。私はヨハンナ殿が持っている銃槍が使えませんから、それを使えと言われても邪魔になってしまうのと同じです。相手が何をするか不透明な状況では、余計な情報を仕入れるよりも、すでに練られている戦術を駆使したほうがいいでしょう」

「……む~、それもそうですね」


 童顔をしかめながらヨハンナは腕を組んだ。その視線を自身の手にある銃槍へ移すと、不思議そうに首を傾げる。

 

「でも何で銃槍が使えないんです? こんなのミュルスを扱えれば、子供でも使えるじゃないですか。仕組みなんて吹き矢と同じですし、だから所有制限があるわけですし」

「使えないというのは、戦闘中に使うのは現実的ではないということです。私はもうご存知の通り、この剣を使わないと源霊に呼びかけられません。つまり戦闘中は必ず剣を持つわけですが、そうなると空いた手一つで銃槍を使うことになります。それでは正確に狙いを定められないし、弾丸の装填もできません。使おうにも使えないというわけです」

「なるほどなるほど。カエトスさんの剣舞ってすごい技ですけど、欠点もあるんですね」

「むしろ欠点だらけだと思いますよ。他にも色々難しいことがありますから。例えば、皆さんのように言葉で指示を出せませんからどうしても時間がかかりますし、源霊は指示した通りにしか動きません」

「ええ?」


 カエトスの言葉にヨハンナが声を上げた。アネッテとミエッカは無言だったがそれぞれ意外そうな目つきでカエトスを見やる。彼女たちは一様に驚いていた。

 指示した通りに動くというと普通は当然のことだと思うだろうが、こと源霊が相手となると少々事情が異なるのだ。

 アネッテが疑念の混じった口調で尋ねる。

 

「源霊はお前の意を汲んでくれないのか?」

「ええ。皆さんのように自分の声で指示を出した場合、かなり曖昧な言葉を使っても、源霊はきちんと応えてくれると思いますが、剣舞ではそんなことはありません」


 ミエッカたち源霊使いが源霊に指示を出すとき、どの程度の威力なのか、発現場所はどこなのか、減衰場を展開するならその形状はどのようなものなのかなど、細部を言葉にして命ずることはほとんどない。

 なぜなら源霊は、源霊使いの放った言葉とともにそこに込められた意思を読み取るからだ。ゆえに、人間同士の間では到底通じないようなでたらめな文法や意味不明な言葉を使ったとしても源霊には伝わる。アネッテが口にした〝意を汲む〟とはこのことを指している。

 カエトスは剣の柄に左手を乗せながらアネッテに目を向けた。

 

「私の場合、源霊へ呼びかけているのは私ではなくこの剣になります。そうなると、発生させた音に私自身の意思を乗せることはできないので、源霊への指示は過不足なく正確に言葉を紡いで伝えなければならないんです」

「……なるほど」


 アネッテとミエッカ、そしてヨハンナの三人がしきりに頷く。

 

「他にも相手が剣舞のことを知っていると、源霊への呼びかけを妨害されます。現に昨晩の隊長殿との稽古では、完全に剣舞を封じられましたから。このように私の技は欠点だらけなんですよ」


 カエトスがそう締めくくると、ヨハンナの目がきらんと光った。それが見つめるのはカエトスの剣。

 

「さすが隊長です、もう雪辱を果たしたんですねっ。ということは、同じように弱点を知っている私がいまカエトスさんとやっても勝てちゃうってわけですね。そしたらそしたらその剣を頂戴して売り払って一生遊んで暮らいたっ」

「やめんか。お前では無理だ。な、ミエッカ?」


 銃槍を構えてじりっとカエトスに迫るヨハンナの頭をアネッテが小突いた。そしてからかうような微笑をミエッカへと向ける。昨晩ミエッカがカエトスに背負われて戻ってきた姿を思い浮かべているのだろう。

 カエトスは稽古の経緯や結果を話していないが、あれを見ればどちらが勝ったかは一目瞭然だ。


「ま、まあヨハンナの腕ではな。戦いというのはそう単純じゃないし。と、ところでだ──」


 ミエッカは若干頬をひきつらせながらアネッテから目を逸らすと、あからさまに別の話題を振った。

 

「カエトスはそのエンジエンテという技をどこの誰に習ったんだ? 文献によれば二百年くらい前にはもう失伝していたとあったし、私もお前のを見るまで全然知らなかった。どこかにまだ伝える者がいるのか?」

「ええ、私の生まれた地に」


 ミエッカの言葉にカエトスの記憶が呼び起こされる。今はもう見ることのできない故郷の光景が。


「生地というと、リタームだったか。そこには同じように剣舞を使う者がいるのか?」


 ミエッカは、カエトスの技にかなり興味があるらしく、目の輝きが違っていた。そしてそれはアネッテも同じだ。静かな表情ながら、熱い眼差しをカエトスに向けている。

 女らしさと猛々しさを同居させる女戦士と、静謐な男装の麗人に見つめられては、しんみりと望郷の念に浸る暇もない。

 

「いえ。正確に言うといました、となります。師はすでに亡くなっていますし、私以外に弟子がいたという話も聞いていません。私の知る限り、存命の使い手は私一人でしょう」

「それはやはりあれか。習得難度とか使い勝手の問題で、継承しようとする人間がいなかったということか?」

「そんなところです。何しろこの技は複雑で、生活の中で使うにしてもそれなりの訓練を行わないとまともに使えなかったり、事故が起きたりします。戦闘に用いるにはさらに過酷な訓練が必要にもなりますので」

「確かに……実戦に耐え得る技量には、生半可な努力では辿り着かないだろうな」


 ミエッカの視線がカエトスの足元から頭までゆっくりと往復する。その目は、カエトスは剣技をどうやってあそこまで鍛え上げたのか知りたいと、口よりも雄弁に語っていた。


「カエトス。それを不特定多数の他人に教えることはできるのか? 秘密主義的な継承法を取っているのかいないのかという意味なんだが」

「いえ、特にそういった制約を課されてはいませんが……もしかして知りたいと? 隊長殿のような方には必要ないと思いますが」

「そんなことはない。私はミュルスとリヤーラを使えるが、口は一つしかないからその二つに同時に指示を出すことができない。その点、お前の技を使えるようになれば、二つの源霊に同時に別の指示を出せるようになる。これは我々のような源霊使いにおいて画期的なことだぞ」


 そう言ってカエトスに迫るミエッカの目が一層輝く。そこにあるのは飽くなき向上心だ。

 ミエッカの後を継いで、同じように瞳に熱を漲らせたアネッテが続ける。


「ミエッカの言う通りだ。それに私たちはイルーシオやマールカイスなどは使えないんだ。それを使えるようになるというのは非常に大きな意味がある。それは戦いの面だけじゃなくて生活面にも言えることだ」

「それもお前に教える気があればの話だがな」


 ミエッカとアネッテの視線はさらに熱を増す。

 カエトスの意思を確認するという体を取ってはいるものの、それはまるで何が何でも口を割らせようとする尋問のようだった。この二人は炎と水のように相容れない雰囲気を持っているが、その本質は非常に似ている。それゆえ馬が合うのだろう。

 カエトスは二人の圧力に抗しつつ、宥めるように話しかけた。

 

「そ、そこまで意欲を持っていただけるのなら、剣舞を生み出した先人たちも喜ぶでしょう。このまま失われゆくのは彼らも望んではいないでしょうし」

「それじゃあ──」

「ええ。教えて差し上げます」


 これはミエッカやアネッテのご機嫌取りといった意味合いがないわけではない。彼女たちと友好関係を築けというイルミストリアの指示はいまだ有効であるはずだからだ。しかしそれと同時にカエトスの本心でもあった。自分ひとりしか知る者がいない知識を後生大事に抱えて朽ちるよりも、学びたいと思う者に伝える方がきっといい。


「そうか、それなら早速、道具の名は何と言うんだ? 音を出す技法は複数あるみたいだが、他に何がある? それとお前は剣を楽器のようなものと言っていたが、使う道具は剣である必要はあるのか?」


 カエトスが承諾するとともに、ミエッカが矢継ぎ早に質問を放った。

 カエトスは戸惑った。まさか霊獣討伐を控えたこのときに教授するとは思わなかったのだ。しかしどう見てもミエッカは本気の目をしている。隣のアネッテも同様だ。速やかに答えなければ首を絞め上げられかねない。

 カエトスはかつて学んだ記憶を急いで掘り起こした。

 

「え~、道具はスティルガルという呼称です。技法は大別すると打つ、吹く、こするの三種でそれぞれルーダ、イスク、ヒエロアと呼んでいます。それと用いる道具ですが、剣を使うと決まっているわけではなくて、笛であったりただの棒であったり鋼の糸であったり、これらを組み合わせたものだったりと様々ですね。エンジエンテという技の呼称もそもそもは原初の音楽という意味で、剣舞という意味が込められるようになったのは神に捧げる舞に剣を使ったのが始まりという話です」

「……つまり音楽の素養も重要というわけか」

「あとで楽隊の人間と話してみよう。そのほうがカエトスの説明をよく理解できそうだ」


 相槌を打つアネッテに、真剣な表情でミエッカが答える。


「それじゃあ次だ。お前は神鉄製の剣を使っているが、仮に我々が剣舞を使うとした場合も、神鉄を用意しなければ──」

(カエトス、聞こえるか? 緊急事態だ)


 アネッテの次なる質問の途中で不意にカエトスの頭に声が響いた。今はナウリアとともにいるネイシスからの連絡だ。その内容に、カエトスの体は一瞬で緊張状態になる。それを察したミエッカが怪訝そうに首を傾げた。

 カエトスは、妖精からの連絡ですと告げながらネイシスに尋ねた。

 

(何があった)

(王女が消えた)

「何!?」


 予想だにしていなかった答えにカエトスは思わず声を上げてしまった。


「どうしたんだ?」

「殿下が消えたと言っています。い、いま詳細を聞くので。少々お待ちを」


 カエトスの言葉に目の色を変えてミエッカが迫る。襟に伸びる手を素早く防御しながらカエトスは女神に詳細を求めた。


(目を離した隙に王女の姿が見えなくなったと侍女どもが騒いでいる。ただ、昨日王女が典薬寮を抜け出した前例もあるから、私は別殿に出入りする人間を全て監視していたんだが、怪しい奴は見ていないんだ。少し待ってろ。いまナウリアに話を聞いてくるから)

(わかった)


 話を聞く限り、ネイシスに落ち度はなさそうだ。

 いまにもカエトスの襟首につかみかかりそうなミエッカに手短に事情を伝える。


「──ということなんですが、シリーネスに玄関と勝手口以外の出入り口はありますか?」

「窓を除外するなら、ない。だから外で見張っていれば、殿下が出て行ったとしてもわかるはずだ。賊が透明になっていたということはないのか? だから見逃してしまったとか」

「ネイシスは透明になっていても見破れますから、その可能性は低いかと。私が神殿に侵入したときに、怪しい人影を見つけたのはネイシスでしたから」

「……だとすると他に考えられるのは──」

(カエトス、わかったぞ)


 ミエッカが腕を組んで考え込む中、再びカエトスの頭にネイシスの声が響いた。

 

(多分王女は自分から出て行った)

(……何だって?)

(私は別殿に出入りする人間を数えていたんだが、侍女が一人減っていないとおかしいはずなのに減っていない。おそらく王女は侍女の服に着替えて出て行った。だから見落としてしまったようだ)

(それはいつ頃なのかわかるのか?)

(十五ルフス(約三十分)くらい前だと思う。今からナウリアと足取りを追う。進展があったらまた連絡する)


 カエトスはネイシスに了解した旨を伝えつつ、彼女から聞いたことをそのままミエッカに伝えた。

 

「レフィが? 何で……」


 そう言ってミエッカが深刻な表情で俯く。アネッテも眉間にしわを寄せて押し黙り、ヨハンナといえば声を上げそうになったのか、両手で口を塞ぎながら上司二人の様子を見守っている。

 

 一方のカエトスは事情に察しがついていた。

 昨日からレフィーニアは時折突拍子のない行動を見せていたが、それはいずれも神託にあったからと本人が言っている。今回もおそらくそれだろう。ただ、どこで何をしようとしているのかはさっぱりわからなかった。ネイシスが速やかに発見してくれるのを願う他ない。

 予定外の事態に焦りを募らせるカエトスの目に、ふと近づく男の姿が映った。


 年齢は三十代半ばほどで、がっしりとした体格に彫りの深い顔立ちをしている。銃槍は携えてはおらず、着用している鎧の形状は周りの兵士と同じだが、彼らの鎧の色が濃緑色なのに対し、男の鎧は黒だ。胸元に刻まれた模様は、菱形の四つの頂点にそれぞれ小さな菱形を刺したような形で、その中に三日月がある。これは王都守備隊の所属であることを示す記章だ。カエトスが事前に聞かされた名はルオステ・バリオ。今回の霊獣討伐において、全体の指揮を執る人物だ。

 

 近づくバリオの気配を察知したミエッカが、声をかけられる前に振り向いた。王女が行方不明になったという懸念をおくびにも出さずに平然と尋ねる。

 

「バリオ殿。何かご用ですか?」

「確かミエッカの班にカエトスという男が配置されたよな。それは……お前か?」


 ミエッカへ向いていたバリオの視線がカエトスに移る。


「そうです」

「お前に使者が来ている。ミエッカ、連れて行くぞ?」

「誰からですか?」

「来ればわかる」


 バリオは、眉をひそめて聞き返したミエッカに手振りで左舷側を示すとそちらへと歩き出した。

 ミエッカが無言のまま顎をしゃくるのを確認して、カエトスはバリオの後を追った。

 左舷には岸壁と甲板とを行き来するための舷梯がかかっている。その舷梯を上りきった辺りに四人の男がいた。腰に剣を差してはいるが鎧は着ておらず、その体を包むのは暗赤色の制服だ。

 

「イーグレベットの連中じゃないか。討伐に関係ない奴らが何の用だ……?」


 カエトスの横を歩くミエッカが訝るように呟く。

 カエトスはどこかで見たような顔だと思っていたが、その理由に納得した。昨日の早朝、レフィーニアに対して侮辱的な発言をした面々がその中に混じっていたのだ。

 

「お待たせした。この者がカエトスだ」


 バリオに告げられたイーグレベットの隊員の一人が、小さく目礼しながら一歩前に出た。

 全体的に細めの体つきで、面長な顔は神経質そうに引き締まっている。

 

「私はイーグレベット副隊長のボアン・ヘンリクだ。貴殿に緊急の通達が出されたためここに参った」


 男はそう名乗ると重々しい口調で、思いもよらないことを切り出した。

 

「貴殿はこの霊獣討伐に参加することになっていたが、昨日の試験の過程を再検討した結果、貴殿の実力では不適格との判断が先ほど下された。よって現時点をもって討伐の任を解かれることになった。速やかに下船し、我らとともに帰城せよ。これが通達書だ」

 

 後ろに控える隊員が差し出した紙をカエトスの前に広げて見せる。

 カエトスは動揺を押し殺しつつ、素早く目を通した。

 今日の日付とカエトスの名、そして今ヘンリクが口にした内容とほぼ同じ文章があり、その最後にはバロクバイヤ・エルマンニという名が直筆で記されている。

 

「隊長殿、これは──」

「兵部卿の署名がある。ちゃんとした命令書だ」


 小声で尋ねるカエトスに、ミエッカが渋い声で耳打ちした。

 今回の霊獣討伐を仕切っているのは兵部省であり、兵部卿とはその長だ。その人物の署名があるということは、正式な書類であるということだった。


「読んだな? では行くぞ」


 ヘンリクの部下がカエトスに近づいてきた。それを押しとどめるようにミエッカが一歩前に出る。

 

「待っていただきたい。すでにカエトスを含めた編成を終えているこのときにそのようなことを言われても困る。ましてやこれから向かうのは霊獣討伐だ。本当に兵部卿がそのように仰ったのか?」

「いや。卿はあるお方の意向を汲まれて、この判断を下された。我々が直々に参ったことから、想像はつくと思うが」

「……クラウス殿下か?」


 ヘンリクは鷹揚な仕草で頷くと諭すように話し出した。

 

「知っての通り、殿下は昨日の試験を直接ご覧になっておられた。そこでカエトスの実力に疑念を持たれたのだ。このまま霊獣に挑んでは命を落としかねないとな。つまり殿下は、此度の討伐は勇気をもって退き、さらに精進を重ねよと思し召しなのだ」

「なるほど。この時機に少々妙な話だとは思ったがそのような事情があったのか。殿下のご意向とあれば従うほかない。ミエッカ、この男には外れてもらおう」


 何度か首肯したバリオは、ヘンリクの言葉を一つも疑うことなく決定を下した。それに対しミエッカは即座に抗弁する。


「バリオ殿、カエトスは私の班の一員であり、ご存知のように主力部隊の一つです。この男に抜けられては戦力に不安が残ります。私は容認できません」

「ミエッカ殿。貴殿はクラウス殿下が力不足と判断したカエトスに十分な実力があると、そう言われるのか?」


 ヘンリクの態度は慇懃であったが、そこはかとなく恫喝の気配が漂ってもいた。クラウスの意向に逆らうのかと暗に脅しているのだ。

 しかしミエッカは全く怯まない。ヘンリクの視線を正面から受け止め、堂々と言い放つ。


「カエトスはレフィーニア殿下が推挙された人物なのだから当然のこと。逆に尋ねるが、そちらこそレフィーニア殿下の意向に疑義を唱えるおつもりか?」

「とんでもない。そんな畏れ多いことができるわけがないだろう。クラウス殿下も、そのような意図など持っておられない。ただレフィーニア殿下が取り立てられたとはいえ、王国に仕える者であることには変わりはない。それゆえ、手に余る任務に従事し傷つくことを殿下は望んでおられないのだ」


 上手い言い方だった。ヘンリクはあくまでも王子の厚意という点を強調している。これを拒否することは、クラウスの善意を踏みにじるものと映ってしまう。

 しかしこの命令に従うわけにはいかない。クラウスはカエトスを抹殺しようとしているのだから、カエトスの身を案じるわけがないのだ。つまり真の目的は、カエトスを霊獣討伐に向かわせないことにあると見て間違いない。

 この事実がカエトスの不安を強くする。

 イルミストリアの記述によれば、ミエッカはウルトスで危機に見舞われる。それは霊獣によるものなのかと思っていたが、やはりそれだけではないようだった。 

 ここは何とか命令を拒絶しなければならない。しかも穏便に。

 幸いにもミエッカは命令を拒んでいる。本来であれば、カエトスを王都に置いていく正当な理由ができるのだから了承してもおかしくはなかったが、クラウスが関与しているという事実に陰謀の匂いを嗅ぎとったのだろう。

 このまま命令をはねつけてくれとカエトスは切に願った。

 だが旗色は悪い。ミエッカは言葉に詰まっていた。王子の善意という外面の良い理屈に対抗できる上手い反論が思い浮かばないのだ。しかもやみくもに抵抗してしまっては、王子への叛意を疑われる恐れすらある。

 渋面で押し黙るミエッカに、年長者としての余裕を覗かせながらバリオが話しかける。

 

「ミエッカ。クラウス殿下はよほどこの男を目にかけているのだろう。ここは殿下のご厚意に応えるべきだ。なに、その男が一人いなくなったところで、大勢に影響はない。一人抜けた程度で霊獣を討てなくなるようでは、ここに集められた者の資質が問われるというものだ。それを選んだ我々もな。それにレフィーニア殿下の親衛隊を別の危険な任務に就かせるのであれば、これは当然王女殿下の指示を仰がねばならんだろうが、その任務から外れろというのだ。事後に理由をご説明申し上げれば、納得していただけることだろう」


 バリオは事情を知らないのだからこの言葉は当然出てくるべきものであり、そして至極真っ当な反応でもあった。きっとバリオの中ではクラウスの評価が大きく上がっていることだろう。

 

 ヘンリクはバリオに説得されるミエッカを、口の端を僅かに笑みの形に歪ませながら眺めていた。そこに鬱屈した感情の欠片が垣間見える。どうやらヘンリクはミエッカに好感を持っていないらしい。それゆえ、ミエッカが自分の伝えた命令に抗いながらも覆せない様を見て悦に浸っているようだった。

 

 その態度がカエトスの神経を逆撫でする。王子の威光を笠に着て偉ぶっているのが気に入らない。しかし現状を変える手段がないのもまた事実だった。

 クラウスが関わっている以上、この帰城命令を覆せるのはそれよりも上位の立場の人間、すなわちレフィーニア直々の言葉しかない。

 カエトスは、ネイシスに王女の行方を聞こうかと考えた。しかし仮に見つかっていたとしても何もできないことにすぐに気付いた。

 王女に、クラウスの指示を無視しろとの言葉をもらい、それを伝えたとしてもカエトスが妄言を口走っていると思われるだけだ。遠方の人間と会話できると説明したところで、理解されるわけがない。

 

「ヘンリク殿。ミエッカも納得したようだ。さあカエトス。お前は戻れ。殿下のご厚意を忘れてはならんぞ」


 ミエッカの沈黙を承諾と解釈したバリオがカエトスを促す。

 どうやらここは通達に従うしかなさそうだった。

 カエトスは帰城を命じられただけであるから、その後は自由に行動できるはず。折を見て抜け出し、現場に急行するしかないだろう。幸い移動手段については心当たりもある。

 カエトスはそう考え、承諾の旨を告げようと一歩前に出た。そのとき、澄んだ声が耳朶に飛び込んできた。


「その必要はありません」


 カエトスは声のした左方へと顔を向けた。小柄な少年が近づいてくるところだった。つぎはぎだらけの地味な茶系統の上着とズボンを着ていて、目深に帽子をかぶっている。甲板上には霊獣討伐のための資材を入れた木箱がいくつも置かれており、少年はその陰に隠れていたらしい。


「君はどこから忍び込んだんだ? 我々はこれから危険な仕事に向かうんだ。早く降りなさい」


 たしなめながらバリオが少年に近づく。するとその足がぴたりと止まった。少年が帽子のつばを持ち上げていた。そこに現れたのはカエトスもよく知る人物の顔だった。

 

「レ──じゃなくて、殿下……!」


 名前を呼ぼうとしたミエッカが慌てて言い直す。

 みすぼらしい格好をした少年は、レフィーニアだったのだ。

 レフィーニアは茫然とするバリオやミエッカの脇を通り、ヘンリクの前へと進んだ。

 

 驚きのあまりあんぐりと口を開けていたヘンリクは、王女を見下ろしていることに気付くと急いでその場にひざまずいた。後ろの三人の隊員もすぐさまそれに倣う。

 王女本人が出てくるとは夢にも思っていなかったのだろう。ヘンリクからは先刻までの余裕は完全に消え去っていた。

 

「あなたの話は聞きました。クラウス王子がカエトスの実力を懸念して討伐隊から外したいということも。でもその心配は無用です。カエトスの実力なら霊獣など物の数ではありません。なので、あなたたちはもう帰っていいです。その命令書ももういりませんから、処分して結構です」

「は。ですが、しかし──」


 ヘンリクは動揺を押し隠しながら、レフィーニアに抗弁を試みた。しかしそれは即座に王女に遮られた。

 

「しかし? しかし、何ですか。わたしの決定が不服ですか? 神官であるこのわたしの言葉よりも、その紙切れのほうが大事だと、そう言いたいんですか?」


 不機嫌そうに言うレフィーニアに、ヘンリクは上げかけた頭を深々と垂れた。

 

「い、いえ、滅相もございません。レフィーニア殿下のご決断は、何よりも優先されます。異論などあるはずがありません」

「ではあなたたちは速やかに帰城しなさい。ここは霊獣を討伐する人が集まるところです」

「は。そ、それでは失礼致します……!」


 レフィーニアは硬い表情で舷梯を指差した。

 ヘンリクはそれ以上抗う素振りを見せることはなかった。王女に辞去の礼を述べると、書類を懐にしまいながら部下とともにそそくさと船から降りて行った。

 それを見送ったレフィーニアが小さく息をつく。

 

「殿下、ちょっとこっちへ」

「姉さま、何?」


 驚きから立ち直ったミエッカが、きょとんとするレフィーニアの手を引いて甲板上の木箱の陰に向かう。指揮官のバリオも少なからず動揺の残る挙動でその後を追い、その様子を甲板上の兵士たちが不思議そうに見やる。ヘンリクたちのひざまずく姿が耳目を集めていたが、レフィーニアの正体まではまだ露見していないようだった。

 

 レフィーニアが何のためにやって来たのか非常に気になる。しかしカエトスにはその前にやることがあった。ミエッカたちの後ろを歩きながら金髪の女神の名を頭の中で呼ぶ。

 

(ネイシス、聞こえるか?)

(うむ。聞こえてる。王女がそこにいるようだな)


 ネイシスにはカエトスの声や思考は筒抜けだ。そのため彼女はカエトスが説明するまでもなく事態を把握していた。


(ああ。いま隊長が話を聞くところだ。その後で城に戻ってもらうことになると思うから、迎えに来てくれるか?)

(残念だが、それはできない)

(……どういうことだ。こっちに来られないのか?)

(違う。王女はそこに留まらなければならないから、連れ戻せないという意味だ)


 カエトスはすぐにネイシスの言いたいことを察した。嫌な予感がする。

 

(もしかして……本の指示か?)

(そうだ。王女がそっちに行ったと聞いて本を見てみたら内容が変わっていたんだ)


 不穏な一言に、カエトスの危惧は一層深まる。

 

(ちょっと待ってくれ。いま変わったって言ったよな。新しく現れたんじゃなくて、変わったのか?)

(そうだ。霊獣と戦いつつミエッカを守れという文章があっただろう? そこに王女の名が加わっている。いま読んでやるからよく聞け。本の内容は、『大陸暦二七〇七年五月十五日、ビルター湖中央ウルトスにて、アルティスティン・レフィーニア、カシトユライネン・ミエッカを守りつつ共に霊獣と戦い、これを討伐せよ』だ。わかったと思うが、時刻表記が消えている。これはナウリアのほうも同じで、そっちはさらに場所の表記も消えた。つまりいつどこで危機に見舞われるか不透明になった)


 カエトスは呻き声を上げそうになって、それを辛うじて飲み込んだ。

 霊獣と戦いながら、ミエッカを襲う危機に対処するだけでも難しいと考えていたところへ、さらに王女も一緒に守れなどとは正気の沙汰ではない。しかもナウリア側の危機がいつどこで起きるかわからなくなったときてる。

 

 そしてこれだけでも十分にまずい状況なのだが、カエトスをより一層危惧させるのは、一度出現した記述が変わったという点だ。

 イルミストリアの指示は非常に不親切かつ曖昧なものだったが、内容そのものは正確だった。ゆえにカエトスはその情報を頼りに行動していたわけだが、今回の例で内容自体も流動的なものだと判明してしまったのだ。

 カエトスはこの先起こり得る事態が容易に想像できた。この推測が正しいのかどうか、すでに答えはわかっていたが、敢えてネイシスに尋ねた。

 

(……なあ、ネイシス。例えば本の内容が突然変わったせいで、指示を達成できなかったとしても、俺に災厄は降りかかってくるよな?)

(十中八九、そうなるだろうな。お前ならよく知っているだろうが、神に人間の理屈は通用しない。神が作った本も、行動原理は同じはずだ。ゆえにいかに理不尽な経緯があったとしても、記述された内容を実行できなかったという事実のみが残ることになるはずだ)

(……つまり滅茶苦茶厳しくなっただけで、結局やることは変わらないわけか)


 カエトスは周りに聞こえないように嘆息した。


(しょうがない。予定通りこっちは俺が何とかするから、ネイシスは侍女長のほうを頼む)


 正直なところネイシスと詳細に打ち合わせて、最善の方法を模索したかったがもう時間がない。このまま進めるしかなった。


(……わかった。お前が死ぬようなことになったら、この不良品を作った神は私が殺してやろう)


 やや間を置いて返ってきたその思念は、氷のように冷ややかで、かつ溶岩のように熱く滾っていた。

 ネイシスは愛情について学んでいる最中であり、その影響なのか感情の起伏があまり激しくはない。しかし喜怒哀楽といった感情は普通に持っている。そんな彼女がいま放っているのは怒りと殺意。それがひしひしと伝わってきた。

 

(ただそんな面倒くさいことはごめんだし、望んでもいない。だから死ぬなよ、カエトス)


 ネイシスは打って変わって大河の流れのように穏やかな思念で告げた。彼女の気遣いが戦いに挑む前から折れそうになったカエトスの士気を高揚させる。

 女神の支援があるのだ。どれだけ困難な試練になろうとも挫折するわけにはいかない。

 

(お前に恩返ししないで死ぬわけないだろう。絶対に生き延びてやる)


 カエトスは気力を奮い立たせると、ミエッカたちへと注意を戻した。

 姉妹二人は、船縁と木箱とに挟まれて通路のようになった場所にいた。バリオが手前側に、事情を察してやって来たアネッテとヨハンナが奥側に立ち、周りから二人を隔離している。

 カエトスは頭を下げつつバリオの横を通り、レフィーニアと向かい合うミエッカの傍らで足を止めた。バリオやアネッテたちに聞こえないように小声で話しかける。


「隊長殿。殿下発見の報を妖精に伝えておきました。侍女長殿にも届いているはずです」

「そうか。助かる」

「すごい。妖精ってそんなこともできるのね」


 カエトスの言葉を聞きつけたレフィーニアが感嘆の声を上げる。

 

「レフィ。すごい、じゃないでしょう。何であなたはこんなところにいるの……!」

「ミエッカ姉さまにそう呼ばれるの久しぶり」


 押し殺した声で詰問するミエッカに対し、レフィーニアが姉の剣幕に全く動じることなく嬉しそうな声を上げた。

 思わず素を露わにしてしまったミエッカは口を手で押さえて周りをきょろきょろと見渡す。近くにいるのはカエトス以外には、この場所を隔離しているバリオとアネッテ、ヨハンナの三人だけで、彼らとの間にも話し声が聞こえない程度の距離がある。彼らが何も反応していないのを確認してミエッカは小さく息をついた。再び王女を詰問する。

 

「殿下、軽率な行動は控えてください。姉さ──侍女長がどれだけ心配していることか。なぜ殿下はこんなところにいるんですか」

「カエトスが困ってる気がしたから、居ても立っても居られなくなって来ちゃった」

「気がした……? もしかしてそれは神託ですか?」


 ミエッカの放った不意の一言に、レフィーニアは姉をまじまじと見つめた。

 

「姉さま、どうしてそれを──」

「申し訳ありません、殿下。姉君の協力を得るために私が話しました」


 カエトスは速やかに頭を下げて謝罪した。

 ミエッカが躊躇いなく神託のことを口にするとは想定外だった。

 ミエッカはナウリアから神託の件について聞いたはずだが、それを内密にしろと言い含められなかったのか、それとも黙っている意味はないと判断したのか。

 いずれにしろ漏洩元はカエトスに違いない。カエトスは恐る恐る王女の様子を窺った。

 

「そう。それなら仕方ないです。きっと姉さまたちは問いただすと思っていたし、仲良くしてって言ったのは私だし」


 カエトスの不安をよそに、レフィーニアはさほど気にしていなさそうな口調で答えた。彼女にとっては想定内のことだったらしい。

 ただそう言いながらも神秘的な光を湛えた緑の瞳が、カエトスを問いただすようにじっと見つめる。カエトスはその意味をすぐに察した。王女は、求婚についての話題を話してはいないかと問うているのだ。

 ミエッカに悟られないように口だけを動かして『他には何も』と伝えると、レフィーニアは安心したように小さく頷いた。

 

「……事情はわかりました。やり方は褒められたものじゃありませんが、殿下のおかげでカエトスを外さずに済んだのはよかったです。それでは殿下は速やかに城にお戻りください。いま供の者を見繕ってきます」


 ミエッカは妹に対して一礼すると、離れたところで見守るバリオのもとへ歩き出した。

 まずい。イルミストリアの課した試練はたった今変化した。それを遂行するにはミエッカだけではなく、王女とともに霊獣討伐に挑まなければならない。ここで城に戻られては困るのだ。

 カエトスは咄嗟にミエッカを呼び止めようとした。しかしかける言葉が出てこない。

 そもそも王女が戦場に赴くこと自体が不自然過ぎる。レフィーニアを守ろうとしているのに、わざわざ危険な場所を引っ張り出すのは完全に矛盾している。王女やミエッカを納得させる理由などあるはずがない。


 それでも何とか王女に霊獣討伐に出向いてもらわなければ、試練を達成できない。カエトスは必死に相応しい言葉を捻り出そうとした。しかし心中に生じる迷いがそれを鈍らせる。カエトス自身も王女を危険にさらすことを望んでいないのだ。深い葛藤と焦燥がカエトスを苛む。

 カエトスが唇を引き結んで苦悶していると、不意にレフィーニアが予想外の言葉を放った。

 

「お供はいらないです。私も行くから」

「……は? 今なんと」


 ぴたりと足を止めたミエッカが振り返った。

 

「私も行くって行ったの。霊獣討伐に」


 まるで街中を散歩するような口調で言うレフィーニアに、呆気に取られていたミエッカの表情がゆっくりと険しくなる。

 

「殿下、遊びじゃないんです。これから戦に向かうんです。そんなところにお連れできるわけがないでしょう。親衛隊長として、認めるわけにはいきません……!」


 声量を押さえてはいるが、そこには紛れもなく憤りがあった。しかしレフィーニアも負けてはいなかった。これまでの穏やかな表情を一変させると、拳を握り締めて姉に訴えかける。

 

「私だってそんなところになんか行きたくない。でも必要なの、私が行かなきゃいけないの……!」

「……それも神託ですか?」


 ミエッカの問いに、レフィーニアが小さく頷く。

 

「では具体的に何をするのか教えてください。その内容によっては、きちんと検討するし、我々も手伝いますから」

「それは言えないの。でも行かなきゃいけない」


 レフィーニアの拒絶に、ミエッカが苦しそうに顔を歪める。その内心がカエトスには手に取るようにわかった。

 無力感に襲われているのだ。

 ミエッカにとって今の提案は最大限の譲歩だったのだろう。神託と言われてしまえば、王女の臣下であるミエッカは立場上認めざるを得ない。ゆえにそれを受け入れた上でその一助になろうとしたのに、その内容を知ることすらできない。ミエッカは妹をただ守りたいだけなのに、それを拒まれているのだ。肉親としてこれほど辛いことはない。


 心情としてはミエッカの後押しをしてレフィーニアを安全な場所に送り届けたかった。しかしカエトスはそれとは正反対のことをしなければならないのだ。押し黙るミエッカに、葛藤を押し殺しながら歩み寄る。

 

「隊長殿、少しよろしいですか」


 カエトスはミエッカに耳打ちするとレフィーニアに背を向けた。

 王女に聞かせたくない話があるとの意図を読み取ったミエッカが、同じように体を翻した。

 

「……何だ」


 カエトスは一度深呼吸してから、本意ではない説得を始めた。

 

「殿下を危険な目に遭わせたくないというお気持ちお察します。私も殿下を霊獣討伐にお連れするのは賛同はできません。たとえそれが神の指示だったとしても。ですが今回ばかりは、我々とともにいるほうが安全かもしれません」

「霊獣と戦うんだぞ。そんなところが安全なわけがあるか……!」

「ですが敵は見えます」


 カエトスの一言に詰め寄るミエッカの動きが止まった。否定一色だった険しい表情に、僅かに理解の色が広がる。

 ミエッカは指摘一つでカエトスの意図を全て察していた。

 王女の命を狙うのはクラウスで間違いはないだろう。しかし王子自身が直接動いているわけではなく、その指示を遂行する者がいて、カエトスたちはそれが誰なのかを把握していない。つまりどこに敵が潜んでいるのかわからない状況にある。

 一方、霊獣は目の前に実際に存在する脅威だ。敵が見えるというのは、今のカエトスたちにとってそれだけで一つの利点だ。

 カエトスはさらに説得を続けた。

 

「理由はもう一つあります。殿下はここに来ることは誰にも告げなかった。侍女長殿にさえも。それはつまり、殿下の現在の居場所を把握しているのが我々だけであり、このまま出航すれば少なくとも戻ってくるまでは、霊獣以外の危険はないということです。ここで殿下に城に戻っていただいたとしても、私や隊長殿まで戻るわけにはいきません。それならばいっそのこと、我々の手の届くところでお守りしたほうがいいのではないでしょうか。そうすれば今朝、侍女長殿が抱いていた懸念の一つは解消されます」


 ミエッカは目を閉じてじっとカエトスの言葉に耳を傾けていた。眉間に刻まれたしわが彼女の苦悩の深さを物語っている。

 ミエッカが沈黙していたのはごく僅かな時間だった。決意に漲る瞳でカエトスを一瞥すると、王女のもとへと歩み寄った。


「わかりました。殿下が同行されることを認めます。殿下は必ず私がお守りしましょう。ただ独断での行動は慎んでいただきます。常に私の目の届くところにいること。これだけは絶対に約束していただきます……!」

「わかった。約束する」


 語尾を強めて迫るミエッカに、レフィーニアは真剣な表情で頷いた。

 ミエッカはじっと妹の目を見つめるとさっと踵を返した。バリオの元へと向かい、小声で話しかける。

 

「バリオ殿。殿下は神官としての使命があり、それをウルトスで為さなければならないとのこと。そこで我らがお連れすることとなりました」

「お連れするだと? 本当に大丈夫なのか?」

「それは……わかりません。戦場では何が起きて不思議じゃありませんから。そこで一つお願いがあります。殿下の身に危険が及びそうになったら、我々の班だけでも撤退する許可を今のうちにいただきたいのですが」

「うぅ……む。ミエッカが撤退か。それは望ましい事態ではないな……」


 ミエッカの要求に、バリオは渋い顔で唇を引き結んだ。

 

「殿下はそのようなところに出向いて何をされるおつもりなのだ? 大事な儀式が控えているというこのときに」

「それは、我々のような俗人には計り知れない事情があるようです。これでどうか納得してください」

「神官だから、か。わかった。ミエッカの判断で自由に撤退してくれ。そうならないことを祈っているがな。では私は行く。何かあればすぐに報告に来い」

「ありがとうございます。それと混乱を招きかねないので、くれぐれもこの件は内密に願います」


 もちろんだと言い残してバリオは船尾楼へと向かって行った。

 その背中に頭を下げたミエッカは、反対側を見張っていたアネッテとヨハンナを呼んだ。早足でやって来た彼女たちを交えて、今後の方針について話し始める。すぐにアネッテが無言のまま顔色を変え、ヨハンナが声を上げそうになって慌てて口を押さえる。

 カエトスがその様子を見守っていると、ふと背中に気配を感じた。振り向くとそこにレフィーニアがいた。ミエッカたち三人には聞こえないほどの小さな声で囁く。

 

「カエトス、ありがとう。姉さまを説得してくれて」


 その一言にカエトスの胸が痛む。

 レフィーニア自身が霊獣討伐に同行すると言い出したわけだが、本来はミエッカと同じように止めなければならないのに、カエトスは自分のために利用したのだ。それが王女の望みを叶えるためだとしても、後ろめたさは拭えない。

 

「……いえ。殿下にお力添えをしなければと思ったまでです。ですが本当によろしいんですか? 霊獣は本当に危険です。やはり、殿下の目的のために必要ということですか?」

「うん。カエトスと一緒にいないと駄目みたい。あと姉さまとも」

「隊長殿と……?」

「これ以上は言えないの」


 レフィーニアはそう言うと、申し訳なさそうに目を伏せた。神託の存在は明かせても、内容までは話せないらしい。これから起こることについては触れられないのだろう。

 レフィーニアの深刻な口振りからして、何らかの危機に遭遇するのは免れないとわかる。そしてイルミストリアも危機が発生すると記述している。なのにその手がかりがないというのがもどかしくてたまらなかった。

 

 脅威をもたらすものが霊獣であればまだいい。非常に過酷ではあるが対処のしようもある。

 しかし実を言うと、すでに船内にミエッカの暗殺を目的とした刺客が入り込んでいるかもしれず、それがレフィーニアに牙をむく恐れがあるのだ。

 

 ミエッカが狙われる理由に心当たりはない。クラウスがレフィーニアを暗殺しようとしていたとしても、それだけでミエッカまでも殺されるかといえばそのようなことはないだろう。

 なぜならミエッカは王族ではないし、ましてや神官でもない。彼女の存在自体は、クラウスの王位継承に何の関係もないからだ。

 せいぜいレフィーニア暗殺の障害だから取り除くという動機しか思いつかず、それも無理矢理実行すべきかといえばそんなことはない。そしてそれはナウリアも同様だ。

 

 しかし実際には二人に危機が迫っている。しかも、今はもう変化してしまったが、つい先刻までは異なる場所の同じ時刻で危機に陥ることになっていたのだ。そこに何らかの意思の介在を感じるのは必然であり、彼女たちを危機に追いやるのは人間と推測するのは当然のこと。

 そしてその首謀者はおそらくクラウス。ミエッカとナウリアを狙う理由は不明なままだが、彼女たちを襲う者といえばそれ以外に考えにくい。

 

 仮にここまでの推測が当たっているとするなら、船内にはすでにミエッカを狙う刺客が潜んでいることになる。そしてレフィーニアが同行することになった今、標的がミエッカからレフィーニアへと移る危険がある。霊獣との戦闘中の混乱に乗じれば暗殺も容易であり、この機を逃すわけがない。

 

「カエトス」


 レフィーニアに名を呼ばれて、カエトスは悲観的な思考から引き戻された。目を向けると、王女が硬い表情で見上げていた。腰の前で組んだ手が小さく震えている。

 

「絶対迷惑かけると思うけど……助けてくれる?」


 黒と鮮緑の瞳は抑えきれない不安に揺れていた。

 不意にカエトスの脳裏に、昨日王女に膝枕されたときの感触が蘇ってきた。そのときに感じた衝動も。

 カエトスは迷うことなく頷いた。

 

「もちろんです。殿下には毛ほどの傷もつけさせはしません。必ず私が守って見せます」


 それはミエッカに対しても同じ。レフィーニアたち姉妹は絶対に守る。

 カエトスの決意に呼応するように船が揺れた。

 甲板上が慌ただしくなる。何人もの船員が協力して、岸壁と甲板との間に架けられていた舷梯を収納し、船を係留していた縄を解く。船体がゆっくりと離岸し始めた。出航の時間になったのだ。

 

 ビルター湖には、霊獣討伐の目的地であるウルトスに近づくほどに強くなる湖流がある。これが収まらないとウルトスに上陸どころか近づくこともできないために、港に停泊したまま待っていたのだ。

 突発的に、試練がより過酷になってしまった。果たして乗り越えられるのか。

 カエトスの不安とは裏腹に、船はゆっくりと力強く加速を始めた。

 

 

                 ◇

 

 

 親衛隊イーグレベットの隊長ヴァルヘイムは、輸送船の船尾付近に積まれた木箱の陰に身を潜めていた。

 服装はいつもの暗赤色の制服ではなく、一般兵士の標準的武装である濃緑色の皮鎧と銃槍。一見すると霊獣討伐に赴く兵士の一人のように見える。

 ただヴァルヘイムはその役職上、顔が知られている。また平均的な男よりもかなり身長が高いため、外見上も目立つ。物陰にいるとはいえ、周りの人間の目から完全に隠れているわけでもない。ゆえに一兵卒のような格好をしていたとしても、ヴァルヘイムであると誰もが気付く。しかし甲板上を行き交う船員の誰一人としてヴァルヘイムに目を止めることはなかった。

 それはなぜか。

 彼らの目には、ヴァルヘイムの姿が映っていないからだ。

 

 ヴァルヘイムは光を司る源霊イルーシオの使い手であり、光を操って透明化することができる。

 具体的には、自身の周囲にイルーシオの力が満ちた〝場〟を展開し、こちらに差し込む光の進路を歪め、そのまま素通りさせるという操作を行っている。こうすることで、周りの人間にはヴァルヘイムの姿が映らないようになっているのだ。

 もっとも全ての光を素通りさせると、ヴァルヘイム自身の目に入ってくる光もなくなり、周囲の状況を確認できなくなることから、ごく少量の光はヴァルヘイム自身に届くように調整してある。そのためヴァルヘイムの目に映る景色は、まだ午前の早い時刻であるにもかかわらず、夕暮れ時のように黄昏れていた。


「イルーシオよ、我が運指に従い、イラルトを放て」

 

 ヴァルヘイムは近くに人がいないのを確認しつつ、小声で呼びかけた。左手の平を右人差し指で叩くと、その動作に呼応してイルーシオが活動する気配が伝わってくる。


 一口に光と言ってもそれには多くの種類があり、それらの中には肉眼では捉えられないものや、物体を透過したり遥か遠方にまで届くものがある。

 ヴァルヘイムが口にした〝イラルト〟とはそのうちの一つ、物体を透過し、かつ遠方にまで届く光を指す言葉で、ヴァルヘイムはそれを意図的に発生させることで情報を伝達することができる。つまり可視光線を用いた連絡方法を、別の種類の光で行っているというわけだ。

 

 本来の予定では決行のときまでは使用しない予定だったが、想定外の事態が発生したために確認が必要になっていた。その要因は薄暮に包まれたヴァルヘイムの視線の先にあった。

 

 船首に近い辺りに、今日の標的である親衛隊ヴァルスティン隊長ミエッカの姿がある。そこにレフィーニア王女もいるのだ。

 当初の予定では、クラウス王子の指示を受けたヴァルヘイムの部下の手で、計画を阻害する恐れのあるカエトスを合法的に帰城させる手筈だった。そしてその後も勝手な行動をさせないように別の用件に関わらせることになっていた。ところがそれを突如現れたレフィーニアが妨害し、使者だけを帰してしまったのだ。

 それは望まざる事態ではあったが、その一方でなぜか王女が船上に残っている。ミエッカと何か話をしていたが、依然として下船する気配がないところを見ると、王女はこのままウルトスへ同行するらしい。

 

 これは王女を抹殺する千載一遇の好機だった。しかしヴァルヘイムの標的はあくまでもミエッカだ。王女をどのように扱うべきか、早急にクラウス王子に確認せねばならない。


 ヴァルヘイムは手の平を叩いていた指の動きを止めた。

 いま行っていたのは、長短の発信を組み合わせて一つの文字を表現する交信方法だ。

 光を放つだけでは、光っていることしか相手側には伝わらない。そこで発信する光にあらかじめ決められた変化をつけることで、そこに意味を乗せるのだ。

 ヴァルヘイムが放った光には『王女の乗船を確認。判断を請う』といった内容が乗せられていた。

 

 身じろぎせずに待つこと数ルフス。頭に巻いていた布帯が振動した。

 これは額に当たる部分に霊鉄が縫い込まれたもので、先刻ヴァルヘイムがイルーシオに命じて発信した光とは別の種類の光を検知すると、それに反応して振動する性質が備わっている。

 クラウスの傍にいる侍女ハルンからの返信を受け取った証だ。

 

 頭骨に響く長短の振動の組み合わせを解析し、意味を読み取る。そこにはこうあった。『殺害対象に王女が加わった。確実に殺せるほうを殺せ』と。

 ヴァルヘイムはもう一度イルーシオに呼びかけて、左手の平を指先で叩いた。承諾を意味する合図を送る。

 これで目的は定まった。あとは実行するのみ。

 ヴァルヘイムは息を潜めると、じっとその時を待った。

 

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