第9話

第8章


〔決着!!そして…〕



「もう、お前達の好きにはさせない!」


友生は右手を氷河に向け、

「サンダーブレイクスプラッシュ!!!!」


本来、空から落ちるカミナリだが、友生のそれは違った、地面の中から無数のカミナリが氷河に向かって放たれた。



カミナリはいろんな方向から、氷河に向かって一直線に駆け抜ける。


そのうちの何本かが、憂稀を捕まえていた、氷に直撃し、憂稀は再び地面に向かって落ちて行った。


「緑姉!憂稀を頼む!!」


「あいよ、任せて!!ツリーキャッチャー!!!」


すると、何本かの木が伸びて来て、憂稀の体を優しく包んだ。


「友生、憂稀は、もう大丈夫!あとは任せたよ!!」


「ありがとう、緑姉!

氷河、もうお前に勝ち目はない。諦めろ!」



「なぜだ!なぜ貴様らは、こんな世界の為にそこまで戦う、貴様らも知ってるだろう、愚かな人間を。このままにしておけば、必ず人間は、この星を滅ぼす。

そんな人間達は、全員滅びたほうがいいんだ!!」



「ホントにそう思うのか、氷河!いや、「アイスプリンス!」


そこに現れたのは、ずっと草場の陰から見ていた、草村 育枝だった。



「き、貴様!なぜ俺のH・Nを…」


「お前のホント姿は、これじゃないのか!」



そう言うと、育枝はスマホの画面を空に映し出した。


「こ、この写真は…この前の夏コミのコスプレ…」


そこには、満面の決めポーズで写っている氷河がいた。



「そうだ、この満面の笑顔は!このサイコーの決めポーズは!全部嘘だと言うのか!!」


「そ、それは…」


「お前は、あの場所に集まる、サイコーの仲間達を、あの聖地を、滅ぼそうと言うのか!!」



「き、貴様は、いったい…なぜ、その写真を…なぜ俺の正体を知ってる…?」


「それはな、お前が、1番最初に、私の本を買ってくれたからだ。」


そして、彼女は束ねた髪を振りほどき、眼鏡を外した。


そこには、今までいた「草村 育枝」の姿は無かった。

まるでファッション誌から出てきたような美少女が、そこに立っていた。


「あ、貴方は…!「榮倉 無策」先生!」


氷河は、驚くと同時に、姿勢を正し、お辞儀をしていた。


あれが草村?まるで別人だ…しかし「榮倉無策」って?誰だそれ?」


友生達は顔を見合わせたが、誰も知らない。


「な、なんだ貴様ら、知らないのか!コミケで先生を知らない人は居ないんだぞ!!」


「いや…、僕達、コミケに行かないし…」


友生が困り顔で言った。



「氷河…いや、アイスプリンス、お前はあの仲間達が居なくなってもいいというのか、お前が本心をさらけ出せる、あの場所が本当に無くなってもいいのか!?」


うつむく氷河を見ながら、草村…いや、榮倉は話を続けた。


「私は嬉しかった。まだ誰も、私の同人誌に見向きもしなかった頃、君が本を手に取り「僕、この絵好きですよ。」

と言って、私の同人誌を買ってくれたことが。

だから、私はここまで頑張れた。君の一言が支えになった。

この学校で、君を見つけた時、嬉しかったよ。わかり会える仲間を見つけたと思ったよ。

でも違ってた…学校の君は、自分を偽り、誰にも本当の自分を見せず、嘘っぱちに生きていた。

なぜ、自分に嘘をつく!なぜ、自分に正直に生きない?!なぜ、自分をさらけ出さない!!」



「お、俺には…学校には…心を許せる友が…本心をさらけ出せる友達が誰もいない。

「アニメ好き」というだけで、少し距離を置かれ、特別な部類に分けられる。そんな人間が大半を占めるこんな世の中は、無くなってしまえばいいんだ!」



「だからどうした!君は君だ!自分に自信を持て!!アニメが好きな自分を誇れ!!!」



「お、俺は…俺は…お俺が、この世界を作り直すんだ!!!」


氷河が叫ぶと同時に、無数の氷の刃が、みんなに降り注いだ。


しかし、友生が光のドームを作り、みんなを囲むと、氷の刃はドームに触れたと同時に消えて無くなった。


「無駄だよ、草村…今のあいつに何を言っても、届かない…」



「くそ、こんなはずじゃ…こんなはずじゃ…」



氷河と友生の睨み合いが続く、その時!


「もうやめて!氷河君!」


香が氷河の前に飛び出して来た。


「私、知ってるよ。氷河君は本当は優しいって事。私、毎日見てたもん、図書室で本を読んでる氷河君は優しい目をしてた。

それに「フラン○ースの犬」読んで、泣いてたじゃない!

私は、そんな綺麗な心を持った、氷河君が……大好きだったんだよ!!!」


香は、顔を真っ赤にして、涙を流しながら叫んだ。


「う、うるさい!黙れ!!」


一瞬の出来事だった、氷河の指から放たれた光線は、一瞬で香を凍らせてしまった。


「香!香!香~~!!!」


清美が、すぐさま香の元に駆け寄る。


「氷河~!貴様~!!」


清美の髪の毛が、怒りで逆立つ。


「ウォータートルネード!!」


凄まじい水の渦が、氷河に向かっていく。


「無駄だ、水は氷に勝てないんだよ。アイスブレイズ。」


氷河は一瞬にして、水を凍らせ、砕いた。

そして、砕かれた氷は、鋭い破片となって、清美に降り注いだ。


「キャア~~!」


「水川さ~ん!」


友生が、清美を守ろうとしたその時、一陣の突風が吹き、氷の破片を吹き飛ばした。


そして、清美のそばには、翔の姿があった。


「風見!? 貴様!裏切るのか!!」


「悪いな透… 大丈夫か?清美。」


「風見君…」


すぐそばにあった翔の顔を見て、清美の顔は赤くなった。しかし、すぐに手を跳ね退け、


「気安く名前で呼ばないで!」


二人の会話に友生が割って入る。


「翔、氷河の言った事は本当なのか?君は本当に氷河達の仲間なのか?」



翔は友生の目を見ながら、黙ってうなずき、


「最初は、任務としてお前達に接してきた。でも…一緒に過ごすうち、この世界が好きになってしまった。お前達と過ごす時間を大切にしたいと思った。

それに…守りたいと思う者も出来たしな。」


そう言うと、翔は清美を見つめた。


清美はさらに真っ赤になった。


「清美、もう一度、あいつに攻撃してくれ!」


「え?でも、あいつに水は効かないんじゃ…」


「大丈夫だ、俺を信じろ。香のかたきを討つんだろ、清美!」


「もう、気安く名前で呼ばないでって、言ってるでしょ。でも、今回だけは許してあげる。」


清美は、翔の肩を借り立ち上がり、ありったけの力で技を放った。


「ウォータースプラッシュ!!」


「ふん、無駄だと言ってるだろ。アイスエンディング!!」



みるみる水が凍って行く。


しかし、そこへ、「トルネードハリケーン!」


翔が繰り出した技が、水と合体し、巨大な渦潮となって氷河に襲い掛かった。


「う、うわぁ~!!」


巨大な渦潮に飲まれた氷河は、天高く舞い上がった。


「知ってるか?氷河、つねに動いてる水は、凍らないんだぜ。

それに、俺のハリケーンは地上の物を舞上げるが、渦潮は渦の底へと、引き込むんだぜ。 リバース!!」


すると、渦の回転か逆になり、氷河はみるみる渦の中に飲み込まれて行った。


「あとは任せた!友生!」


「わかった!クラック・オブ・グラウンド!!」


友生の掛け声と共に、大地が割れ、深さ何千、いや何万メートルという亀裂が出来た。


「スー!!」


「アイヨ、マカセテネ!!」


スーは渦に飲み込まれて、地上に落ちてきた氷河の足をつかみ、


「ツカマエテシマエバ、コチラノモノデ~ス。オリャ~!!!」


スーは、氷河を亀裂の奥深くまで、投げ込んだ。


「うわぁぁぁ……!…………ぁぁぁ………」



氷河の体は、暗闇の奥底へと吸い込まれて行った。


「クローズド!」


友生の言葉と共に、地響きをあげながら、大地の裂け目が閉じた。


「あいつ、死んじゃったの?」


清美が翔に尋ねる。


「いや、あいつのことだ、自分を凍らせて眠っているかもな。

でも、地中深くじゃ、何も出来ない。よほどの事がないかぎりな。

さて、お前らはどうすんだ?」


翔は、残った空の精霊達に尋ねた。


「降参、降参。もともと僕は、透の事気に入らなかったんだよね。学校では大人しいくせに、僕達だけになると、エラソーに。それに、やっぱり奪うより、与える方が気持ちいいや。」


そういうと、光は緑に向かって淡い光を浴びせた。

すると傷だらけだった体は、元通りになり、下着に付いていた葉っぱが育ち、お洒落なワンピースへと変わった。


「わぁ、緑姉、綺麗。」


憂稀は緑のワンピース姿を初めて見た。

緑も少し照れ臭そうだ。


「こんな格好したことないから、恥ずかしいや…」


「やっぱり思ってた通りだ、前から似合うとおもってたんだよな。」


光は自慢げに言った。


「あとの2人は、どうするんだ?」


翔は、冬季とレイを見ながら言った。


「お、俺は、光が戦わないのなら、俺もやめる…」


冬季は光を見ながら、少し顔を赤らめながら言った。


「え?え??何?何??どういうこと?もしかして冬季君て、やっぱり?」


清美は、昨日の壁ドンを思い出し、ドキドキしていた。


もちろん、草村が興奮してたのは、言うまでもない。


翔はビミョーな空気になったのを払うかのように、1つ咳ばらいをし、


「コ、コホン、レイは?」


「ミー1人で勝てるわけないです。降参します。」


レイも両手を上げ敗北を認めた。



ちょうどその時、赤く染まり始めた空に、2つの顔が浮かび上がった。

1つは「神成雷造」憂稀の父親、もう1つは「上地陸奥美」友生の母親だった。



「お父さん…」


「母さん…」


「友生君、よく憂稀を守ってくれた。礼をいうよ。」


「僕だけの力じゃないです。みんなが憂稀を守ってくれたんです。」


「友生~、ちょっと見ない間に、立派になっちゃって、母さん嬉しいわ。」


「え? あっ、そうか。」


友生は覚醒したままの姿でいたことを忘れていた。


ふっ、と力を抜くと元のひ弱な友生に戻った。


「アタシハ、コッチノトモキノホウガ、スキデ~ス。」


スーが、友生に抱き着いた。案の定、友生の顔はスーの胸に挟まって、見えなくなった。


「こ、こらスー、離れなさいってば。友生も胸に挟まれたいなら、私の胸に挟まれなさい。」


憂稀は友生の腕を引き寄せ、自分の胸に押し当てた。


「あらあら、友生ってば、モテモテなのね。若いっていいわね~」



「おお、そうだ、君達に知らせる事があるんだ。

〔神の審判〕は無くなったよ。もう100年程様子を見る事にした。

人間の可能性を信じたんだ。

それに、神々を尋ねてわかったんたが、今回は氷の一族にそそのかされたらしい。

氷の一族は、憂稀の力を手に入れて、空を支配しようと考えてたみたいだな。

とにかく、これからは君達がこの世界を守ってくれ、この星の未来は君達世代にかかってる。頼んだぞ。

友生君、これからも憂稀と仲良くしてやってくれ。」


「憂ちゃん、友生の事これからもよろしくね。」


「母さん、僕……」


友生は自分の出生の事をどう言葉にすればいいのかわからなかった。


「いいのよ、あなたは正真正銘、私の子供。

私のお腹で育って、私が産んで、今まで育ててきたんですもの。今までと何も変わらないわ。」


「母さん…」


「そんなことより、みんなお腹空いてるでしょ、早く帰ってらっしゃい。いっぱい作ってあるから今日は、みんなで食べましょう。」


「オー、ワタシ、ニクガタベタイデ~ス。」


「もう、スーったら。」


「アハハハハハ。」


みんなの笑い声が、赤く染まった空にに響いた。


友生と憂稀は、手を取り合い、清美と翔は肩をだいたまま、冬季と光は寄り添い、緑はレイを抱き寄せ、


「これで、もう仲間だ。。」


レイは照れ臭そうにはにかんだ。


「さあ、帰ろうか。」


友生の言葉で、みんな一斉に歩き出した。


夕日に向かって歩いていく姿は、まるで明るい未来に向かって歩いているようだった。



おしまい…



チャラララ~ン、チャンチャチャ…


この~星~は~、生きている~………

明るい~未来へと~~~…勇~気と共に~…


エンディングが終わると、部屋のカーテンが開けられた。


「どうだった?みんな。とりあえず、ざっと編集してみたんだけど。」


そこには、ポッ○ーをくわえながら、パソコンのキーボードを叩いてる、草村育枝がいた。



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