第6話

第5章


〔壁ドン〕



清美と香が、図書室から出ると、廊下の奥から2人の男子が歩いて来た。



1組の「雪山 冬季」と6組の「太陽 光」だ。



全く正反対の2人だが、それゆえ、お互い引かれるものがあるのか、よく一緒にいる。


冬季は、物静かで真面目。

目立つ事を嫌い、いつも一歩引いて、物事を見ているような人物である。


かたや光は、その名の通り、いつも明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる、学校でもムードメーカー的な存在だ。


そんな、誰ともでも仲良くなれる光だが、なぜか、香だけは光を避けていた。



案の定、香は2人を見つけると、すぐに清美の後ろに隠れた。




光は面倒臭さそうに、頭の後ろに手を組み、


「透の話って、なんだろうね~。」


「さぁな、あいつの考えいる事は、わからない事が多いからな。

でも、今日来た転校生に関係あるのは、間違いないな。」


「え~?なんでそんなことわかるのさ?」


「名前だよ。」


「名前?え~っと、たしか「レイ・クラウド」だっけ?」


「ああ、日本語に訳すと、「雲の閃光」。」


「雲かぁ~」


「そういうことだ。まさかアメリカに居たとはな。」


冬季は、真っすぐに前を見つめ、たんたんと話した。



「ってことは、これで全員揃ったって事?」


「ああ、そういう事になるな。」


「ちぇっ、もう始まっちゃうのか。僕、この世界好きだったんだけどな。」


「仕方ないさ、自業自得だろ。」


「それはそうだけど……あっ!」



光は、前に清美と香がいるのに気が付いた。


「お~い、水川さ~ん。」

光は清美の元に駆け寄った。


「こんにちは、光君。図書室に行くの?」


「うん、透に呼び出されてさ。」


「雪山君も?」


「ああ…。」



その時、光は清美の後ろに隠れていた、香に気が付いた。


「あ~、香ちゃんも居たんだ~。」


光は清美の後ろに回り、香のすぐ側まで近づいた。


「キャッ!」


香はすぐ反対側に逃げた。


「そんなに嫌わなくったって~。」


すぐに光も、追い掛ける。


「ちょっと~、やめなさいよ、嫌がってるでしょ。」


「恥ずかしがってるだけだよね~、香ちゃん。」


光が香の手を掴もうとすると、


「いやっ!」


香が手を引っ込める。


「もう、ホントにやめなさいよね!しつこいわよ。」


清美が光の前に立ちはだかる。


「いいじゃん、いいじゃん。」


「いい加減にしなさ…!」

「やめないか!!」


「ゆ、雪山君…」


清美が光の手を払いのけようとした瞬間、冬季が光の手を取り、体ごと壁に押し付けた。



光の体は壁に押し付けられ、覆いかぶさるように冬季が片手で壁を押さえてる。


そして、光のすぐ目の前まで顔を近づけ、


「やめろと言ってる…」


光は観念したように、顔を赤らめ…


「わかったよ…。いいよ…冬季なら…」


目を閉じ、唇を突き出した。




「えっ?えっ?何?何?」


清美と香は、思いがけない展開にビックリしてる。


「これって、もしかして〔壁ドン〕」?


清美と香は、初めて本物の「壁ドン」を目の前で見た。



「うわ~、ど、どうしよう。なんか、とんでもないもの見ちゃった。」


清美は顔が赤くなった。


香も2人の動向を、清美の陰から、じっと見ていた。


すると…



「おい、光!ふざけるんじゃない!!」


冬季が、光の唇を指で掴み、引っ張りながら言った。


「いててて!なんだよ冬季、ノリが悪いな~。」


そして、キョトンとする清美達の方を向き、


「アハハハハ、ジョークだよ、ジョーク。

ビックリした?」


光は、いつもの調子に戻り、笑いながら言った。


「う、うん、ビックリした。」


清美は、まだ少しドキドキしていた。



「ほら、早く行くぞ!」


「へい、へい、わかりました。」


冬季の後を、面倒臭さそうに、ついて行く光だったが、すぐに清美達の方を向き、


「またね、水川さん。香ちゃん。」


手を振りながら、去って行った。


そして、正面を向き直すと、


「また、すぐに会えるよ…」


独り言のようにつぶやいた。



そんなやり取りを、図書室のドアの隙間から、ずっと見ていた人物がいた。


もちろん、いうまでもなく「草村 育枝」だ。


しかし、今回の育枝は、少しおかしい。

いつもと違い、息は荒く、目がキラキラと輝き、少し興奮してるようだ。



そんな草村をよそに、2人は、氷河の待つ図書室に、静かに入って行った…



そして、30分後、図書室から出てきた2人に笑顔はなかった。

それどころか、少し険しい表情になっていた……





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