彼と彼女の出会い

出会いは6年前の9月。

あいつとの出会いは、中学二年生のときだった。それまで学校の外で習っていた水泳に才能の限界を感じて辞めてから、私はまた新たに熱中できるものを探して、色々なことに取り組んでみた。運動、カードゲーム、音楽、委員会活動とか。でも、ダメだった。それまでの人生の中でずっと水泳と一緒だった私は、他の事じゃ満たされた気がしなかった。才能は無いくせに、それでも水泳に縋らなくちゃ生きている感覚が得られない自分が嫌だった。




その日は夏休みが明けて間もなくて、7月の終わりに授業の中で借りた本を返そうと思ってた。東校舎の2階にある図書室は、学校のどこよりも冷房が効いていて涼しい。だから私は結構気に入ってた。



カラカラ、と小さな音を立てて扉が開く。廊下側の取っ手は妙に温い。入って左手すぐのところにある受付には誰もいなかったけど、返却はその横にある箱に入れるだけで良いので問題はない。いつも通りひんやりとして心地いい空間。本棚の間をすり抜けるといくつかの机が並んでいる。普段なら真面目そうな生徒が勉強していたりするのに、その日はそういうこともなく、閑散としていた。



「〜♪」



誰もいなかったことで、普段なら禁止されているちょっとした雑音を出してみたくなった私は、鼻歌を歌い始めた。今流行りのバラードとか、密かに注目されているバンドとかじゃなくて、長年に渡って愛され続ける名曲のメロディー。静かな部屋にそれを小さく響かせていた私は、人がいることに気付かなかったのだ。



「…ご機嫌だな」

「、!?」



私が通らなかった通路、分厚い図鑑などが並んでいる棚の下に、あいつは座り込んでた。



「その曲好きなの?俺はあんまりー。」

「え、いつから…」



問いかけじゃない。ほとんど独り言。でもあいつは答えた。



「お前よりも先にいた。言っとくけど不可抗力だからな。お前が勝手に誰もいないんだと思って歌い始めたんだから。」

「え、あ、はい」

「わかってんならよし」



満足げに答えて、徐に立ち上がる。思わず目で行動を追ってしまって、少し笑われた。



「見すぎだし。つかまだ驚いてんの?」

「そりゃ少しは…」

「あっそ。平常心平常心!ほら大きく息を吸ってー、吐いてー」

「あの…」

「ん、落ち着いたか?んじゃ俺はもう行くわ」

「はぁ…」



そのままあいつは扉へ向かって、扉はまたカラカラと音を立てた。



それが私たちの初めての出会い。

第一印象は、「図書室で座り込んでた自由人」と「ご機嫌スーパーびっくり女子」である。情緒にはさよならを告げていた。

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