第8話:「映画にまつわるxについて 2」西川美和

 本書は映画監督の西川美和が、映画「永い言い訳」を製作した時期に書かれたエッセー集なので、7割くらいは本人による製作過程の報告のような側面もある。


 映画は基本的に二時間前後と尺が決まっているのだが、表面に出てこない、いわゆる裏設定(主人公の家系図、生い立ち、エピソードなど)を用意する道草が楽しいという西川監督は、

「一度で良いから時間に縛られず、ページ数におびえず、書きたいものを書きたい言葉で書いてみたい、という希求に突き動かされ」

 て、小説を書き始めることにする。


 ところが実際に書いてみると、部屋の様子を書くにしても、


「それらをどんな順序で、いかなる文体で表現するかというところから書き手の技量が測られ始めるのだ。(略)映画の準備の短縮をもくろんで始めたはずなのに、書いて書いても、終りはしない。ひー!」


 という訳でこれまた難航する。

 2013年の2月に書き始めて小説の第一稿の脱稿が11月、いざ脚本に書き直すと今度は、


「同じことを二度書くのは、退屈なのだ。自分で自分の芸当を真似ているようで、うっすらと幻滅することもある。あ、その程度なのね、あたし。もう、これ以上は浮かばないのね、と。」


 そこからまた書き直しがあって、脚本の完成が2014年の4月という。

 まる一年以上もかかっているのだ。これだけの時間と手間をかけて自作を育てられる環境があり、熱意が持続できるということ自体、羨ましいような恐ろしいような気がする。


 ただ「映画」と「小説」を行ったり来たりするという方法は参考になるし、半端な構想の段階で「漫画」「アニメ」「人形劇」「絵本」「ラジオドラマ」などに置き換えてみるというのも手としてはありかなと思う。

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