17 たかがクソッタレな石ころ一つ


「今回の第十一巨人『エンケラドス』の迎撃方法は――全十基の『ギガス・ブレイカー』による連鎖爆破よ」

 

 ブリーフィングルームでミクリ・ミカサは、今回の作戦内容を端的に述べた。

 

 ――連鎖爆破、と。


「『エンケラドス』の直径は、約十二キロ。こんなヒマラヤ山脈よりも大きな超巨大質量の『巨人』を破壊するには、外側からの攻撃ではまるで意味なしなしの、ナッシング。つまり、『ギガス・ブレイカー』を打ち込んで内部からの直接破壊しか選択肢がないんだけど、これもちっとばかし無理があるのよね」

 

 ミカサさんは、『巨人』に『ギガス・ブレイカー』を一機打ち込んで内部から直接破壊を行った際のシミュレーション映像をスクリーンに流してみせる。

 

 彼女の言葉通り、『巨人』がわずかに震えて表面がひび割れた程度で、ほぼ何の効果もなかった。


「これを――二基、三基、四基と増やしても、ぜんぜん、まるで、無駄無駄無駄の無駄。五十基ぶち込んで、ようやく迎撃作戦完了ってところね。まぁ、世界中の基地を漁っても『ギガス・ブレイカー』五十基なんて用意のしようもないんだけどね。そんなに量産できるだけの予算もないし。重珪素も『ガンツァー』の製造に回してて絶賛不足中だし」

 

 その言葉に、ブリーフィングルーム全体が不安と疑心に包まれる。

 そもそも、五十基の『ギガス・ブレイカー』を宇宙に打ち上げてそれを運用できるだけの人員と『ガンツァー』が、今の『連合』には圧倒的に不足していた。


「でも、安心してちょうだい。私の立てた超絶安心安全で、さらに安価なプランなら、なんと『ギガス・ブレイカー』十基でこれを迎撃できる。それが、十基の『ギガス・ブレイカー』を連続で爆破させ、その衝撃――威力と振動を共鳴させて、爆破の効果を乗数的に増加させる連鎖爆破方式よ」

 

 ミカサさんが自信満々に言って手を広げると、スクリーンに連鎖爆破方式のシミュレーション映像が流れる。

 

 一基目の『ギガス・ブレイカー』の爆破を起点に、その衝撃と振動が最高値に達したところで、二基目の爆発が始まる。ちょうど水面に投げた石が波紋を描き、その波紋が一番大きくなったところで、二つ目の石を投げいれるみたいに。

 そうして、三つ目、四つ目、五つ目の石を投げいれると――その波紋はどんどんと大きく広がって、『巨人』という湖面全体に伝播していく。


 最終的に十基目の爆発が起きた時には、巨人全体に爆破の衝撃と威力が伝わり、それを内部から粉々にしてみせた。


「どうかしら? まさにパーフェクトな作戦でしょう?」

「ちょっと待って――これって、相当綿密な爆破計算とシミュレーションが必要な作戦よね? 重珪素と金属雲のせいで未だに『巨人』の正確な総質量も不明な状態で、その計算は可能なわけ?」

「あ、バレた?」

 

 アリサの鋭い指摘に、ミカサさんが「あちゃー」と額に手をついて見せる。冗談めかせてはいたが、誰一人その冗談で顔の表情をほころばせるものはいなかった。

 もちろん、ミカサさんも含めて。


「今回の迎撃作戦での最終的な爆破計算、及び『ギガス・ブレイカー』の掘削軌道計算、そして全機の爆破設定とタイミングは、全て前線で――『巨人』エンゲージ後に行ってもらうわ。っていうか、それしか方法がないの。悲しいけど、これが現実なのよね」

 

 ミカサさんは肩を竦めて両手を広げて見せた。

 これ以上はお手上げだと言わんばかりに。


「まぁ、悪くない作戦か? ギリギリ成功させられる許容範囲の作戦ってところかしら」

「あら、アリサ――今日はずいぶん優しいじゃない? でも『ギガス・ブレイカー』全機の爆破タイミングの算出は、あなたの仕事なのよ。コンマ一秒でも爆破のタイミングずれたら、この作戦は成功しない。それでも、成功させられるって自信はある?」

 

 ミカサさんの問を受けたアリサは、堂々と組んだ腕を解いて右手の指先をミカサさんに突き付ける。


「圧、倒、的――ナンセンス。自信なんていらないわ。私には、この作戦が成功するって確信があるもの。大丈夫、この作戦は絶対に成功する。勝利の女神たる私が言うんだから、間違いないわ。たかがクソッタレな石ころ一つ――私たちでぶっ壊してやりましょう」

「まったく、あなたには敵わないわね」

 

 アリサの堂々たる宣言と確信に満ちた表情を見たミカサさんは、困ったように笑って再び肩を竦めた。

 

 ミカサさんだけでなく、全ての子供たちがアリサの覇気にあてられていた。

 

 アリサの纏う雰囲気は眩しすぎる黄金そのもの――

 彼女の声と言葉は勝利の勝鬨かちどきそのものだった。


 見る者を全てを奮い立たせ、聞く者を全てを鼓舞する人類の希望そのものだ。


 今のこの瞬間、ここの集まった誰一人として――アリサのことを疑う者はいなかったと思う。もちろん、僕も含めて。


「さぁ、全員の覚悟も決まったみたいだし――ミカサ、作戦の続きを説明してちょうだい」

 

 ブリーフィングルームを見回したアリサは、そこに宿った反撃と迎撃の意思を読み取って微笑んで見せた。

 ミカサさんが了解と頷いて口を開く。



「この作戦は、時間との勝負よ。地球の静止軌道である高度三万五千七百八十六キロメートルを『巨人』へのエンゲージラインとして――高度一万五千メートルを最終爆破ラインに設定。このラインを過ぎると、仮に連鎖爆破が成功して『巨人』を粉々に破壊したとしても、熱圏で『巨人』の欠片が燃え尽きず、第二フェーズの最終防衛ラインの成層圏での迎撃も困難になる。『巨人』エンゲージ後の作戦時間は、およそ三十分。それまでにかたをつけて――全てを終わらせてちょうだい」

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