第4話ジュディ=キルメイア

 ジュディ=キルメイアは、適当てきとう主義しゅぎなまけ者である。


 その容姿は目鼻立ちのハッキリした美女で、胸元まで伸びる金髪に出るところは出ていて引っ込む所は引っ込むプロポーション、タレ目がちな眼が男性受けも良い。


 そんなジュディが、国境の宿場に足を運べばどうなるかと言うと。


「おい! ねぇちゃん! こっちに来てしゃくをしろや!」


 宿場にある酒場で破落戸ごろつきからまれるのである。


「おことわりよ、ママのおっぱいでもしゃぶってなさい」


 にこやかに切り返すジュディ。


「んだと! このアマ!」


 叫んだ破落戸ごろつきが、テーブルを蹴飛けとばしてジュディに近寄る。


「‥‥‥しつけがなっていない犬ねぇ」


 タレ目がちのジュディの瞳がわる。


「ジュディさん、あんまり大事にしないでくださいよ?後でロゼッタさんに何て言われるか解ったもんじゃないですから‥‥‥」


「何こそこそ言ってんだ!餓鬼がき!」

「がっ‥‥‥餓鬼!?」


 餓鬼と言われ憤慨ふんがいするティナだが、ボーイッシュな髪型をのぞけば美少女の部類である。

 胸は残念なサイズではあるが。


「良いからそこを退きやがヘブゥッ!!」


 すごみを効かせようとする破落戸のあごに、ジュディの掌底しょうてい炸裂さくれつした。


 180を越える大男の身体が、十センチ程宙に浮いた。


 打ち切った掌底を引き戻し、引き戻した反動でそのままひじ鳩尾みぞおちに叩き込む。


「ギブっ!」


 妙な声をあげる破落戸から肘を勢いよく戻し、その勢いのまま、その場で身体を回して回し蹴りを再び鳩尾に突き刺した。


 破落戸が吹き飛び、壁に叩き付けられる。


 回し蹴りを終えて、そのまま吹き飛ぶ破落戸を走って追っていたジュディは、そのいきおいのまま再び掌底を、今度は顔面に叩き込んだ。


 破落戸は、壁に背を預ける様にしたまま腰を床に落とした。


「ふぅ、手加減してあげたんだから感謝しなさいよ?」


「ジュディさんの手加減が手加減になってない‥‥‥」


 ティナが呆れながら顔を手で覆う。

 宿場の客達は、その光景に静まり返っていた。


ーーーーー


 宿場での騒ぎのせいで、二人は部屋に荷物を置き休む間もなく謎の二人組の目撃証言が多い、国境付近に向かっていた。


「ジュディさんのせいで、休む暇もないんですけど?」

「あら? 私が悪い訳じゃ無いんじゃない?」


 悪びれる事も無く言う。


「いや、他のお客さん達もドン引きしてたでしょ!?」

「あの程度でドン引きするとか修行が足りないのよ‥‥‥て、この辺りじゃない?」


 話ながら歩いていると、いつの間にか目的地近くまで来ていた。


「でしたっけ、と‥‥‥」


 周囲をうかがっていると、大きな岩影から大柄な変わった服を着た老人が此方こちらに近づいてきた。


じょうちゃん、少し聞きたい事があるんじゃがよいかの?」


「‥‥‥ジュディさん、この人例の二人組の片割れだよね?」

「そうね‥‥‥」


 二人でコソコソと話をしていると、老人が話を切り出してきた。


「この辺りで、くれない波動はどうを感じた事は無いかの?」


 普通に聞けば何の話をしているのかサッパリ解らないが、二人にはソレが何を意味するか直ぐに理解できた。


 その時、老人の黒目が二重の輪になり、紅に変わる。


(このお爺さんっ!)

覚醒者かくせいしゃっ!?)


「ほぅ、この目を見てその反応‥‥‥どうやら当たりのようじゃの」


 老人の身にまと雰囲気ふんいきが、好好爺こうこうやとしたモノから、するど殺気さっきを放つソレへと変わる。


「クエン殿、ようや逃亡者とうぼうしゃが現れましたぞ?」


 老人はそう言ってジュディとティナの後ろに向けて声をかけた。


「まさか、犯人が二人組だったとはね‥‥‥スオウさん、右の金色の髪の女性は僕が受け持ちますので」


 二人の後ろには、いつの間にか神官服を身に纏う男にも女にも見える子供が立っていた。


「ふむ、委細承知いさいしょいち‥‥‥ではわしは小僧を引き受けましょうぞ」


 そう言ってスオウはティナに視線を向けた。


「誰が小僧だっ! 私は女ですっ!」

 小僧扱いされたティナがキレた。


「‥‥‥二人共覚醒者、みたいね」

 ジュディはクエンに視線をやりながら聞いた。


「あはっ、お姉さん強そうですね、これは少し不味いかな?」


 そう言いながらも、余裕よゆうを持ってにこやかに話しかけてくるクエン。


(この余裕‥‥‥ただの子供じゃ無い‥‥‥って事かな?)

 普段抜けている気を入れて、ジュディはクエンに向け集中を始めた。


「では、行くぞ小僧!」


 そう言うと、スオウは剣を抜かずにつかに手を掛かけたまま走り出した。


「だから! 女だからっ!」


 ティナは柄のにぎりが丸く作られている、刃の無い棒を取り出して同じく駆かけ出す。


「ぬっ? お主、武器はどうした?」

 ティナの行動に、スオウが眉をひそめる。


「ここに‥‥‥」


 そう言うと、棒を振ふりかぶったティナは気合いと共ともに振り下ろした。


「あるよ!」


 柄の突起とっきを押した瞬間しゅんかん、柄の先に棒状の光が伸びた。


「ぬぉっ! なんじゃ!?」


 光が服のはしに触れた瞬間、触れた部分が消し飛んだ。


「なんちゅう武器じゃ!」


 斬られるとは違う、妙な感覚にスオウが叫ぶ。


「ふぅうぅぅうッ!」


 連続の剣撃がスオウを襲う。


「くぁっ!面妖めんような‥‥‥距離をとらせてもらうかの!」


 二人の激突が始まった時、ジュディはいまだクエンと相対あいたいしたままであった。


「‥‥‥ねぇ、クエンって言ったっけ? 貴方あなた

 注意深くクエンをにらみながら聞く。


「はい、クエンと申しますお姉さん」

 そう言うと、わざとらしく胸に手を置いてお辞儀じぎをする。


「逃亡者、とか言ってたけど、貴方もしかして帝国の関係者?」

 ジュディは自分の過去を思い出しながら聞いた。


「帝国‥‥‥? いいえ、僕たちはクリムゾンイーターを追っているだけで、帝国とは関係ないんですが‥‥‥」


 拍子抜ひょうしぬけしたかの様な表情で答えた。


「あ、違うんだ‥そのクリムゾンなんちゃらってのは知らないけど‥」

 ジュディが安堵あんどの溜め息をつく。


「‥‥‥」

「‥‥‥」

 沈黙が辺りにただよう。


「「て、人違いかよっ!」」


 二人が見事にハモる。


「ちょっ! スオウさんストップストップ!」

「ティナちゃん止まって!」


 二人は何とか止めようとするが、集中するティナとスオウには届かない。


「どうすんの、クエン君っ!」

 あせりをにじませながら聞いた。


「えっと‥‥‥ど、どうしましょ?」

 頼りない笑顔でクエンが無責任に言った。

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