Scene11 中央フリーウエイ 

 ふと目を覚ました時、サンルーフの彼方にはまだ星が輝いていた。

 上半身を起こして見回すと、漁り火はなくなっている。夏美は眠ったままだ。

 僕は彼女の乳房にそっと手をやり、乳首にキスした後で、後部座席に置いていた大きめのブランケットを掛けてやる。

 そうして、再び目を閉じる・・・



 次に目が覚めた時、スマホを出すと、4:57の表示が闇を照らす。

 夏美は、朝早くの新幹線で実家に帰ると言っていたのを思い出す。


 ペットボトルのミネラルウォーターを最後まで飲み干し、ジーンズをはき、砂浜を歩く。

 昨日の流木があと少しで水に浸かりそうになっている。潮が満ちてきているのだ。

 頭の中はいくぶんかリアルになっている。その中心には、夏美の透き通った体がある。あれは現実に起こったことかどうか未だに信じられないが、彼女のぬくもりはまだ体内に残っている。


 砂浜を歩いているうちに、頭はすっきりとしてくる。少ししか寝ていないが深い眠りだったようだ。

 薄暗いうちに、この海岸を離れようと思う。


 コラードに戻りエンジンをかける。夏美は窓の方に少しだけ体を傾けて眠っている。その横顔はやはり白く、美しい。

 

 とりあえず、に向かって出発する。

 ブランケットを彼女の体に巻き付け、助手席に寝かしたまま、来た時と同じ海岸沿いの荒れた道を抜けて、国道に出る。

 まだ夜が明けていないとあって、交通量はまばらで、走っているのはほとんどが大型トラックだ。

 ラジオをつけるとデビュー当時の松任谷由実ユーミンの音楽が流れている。『中央フリーウエイ』だ。

 夏美が起きてしまわないようにボリュームを絞り、そのかすかな歌声を聞きながらコラードを走らせる。


 曲に乗って後ろに流れる景色を見ていると、大学時代からの夏美との想い出が、まるでタイプライターで打つかのように、1つ1つ胸に刻まれてゆく。


 今思えば、大学時代における彼女の存在は、きわめて大きかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る