第4話 陰謀と破滅

悪い噂の教授がいる。その教授は男女問わずパワハラの限りを尽くし秘密を握るとか。当然、卒業が掛かれば学生は泣き寝入りするしかない。その教授の名前は山中 正蔵(やまなか しょうぞう)。学校でも権力がある人だ。もし噂が本当であれば大問題だが被害者が声を上げないのだ。所詮は噂である。しかし俺は噂の真相に興味を持つ。地位や名誉を持つ人間。その人間が堕落していけばどうなるのか。俺は興奮した。

破滅の中にある美を見たかった。そして山中教授の授業を選択する。

「今日はここまで」

教授はそう言って教室から出ていく。俺は授業後に質問を必ずするようにしていた。彼は満更でもない顔で俺の質問に答える。何時しか彼の研究室でお茶をするまで近付いていた。


「西村君、君は本当に可愛いね」

「そうですか?」

「あぁ、私の悪い噂は知っているだろう?それでも私の話し相手になってくれる」

そう言いながら彼は笑う。しかしその表情から怒りにも似た闇を感じる。

「先生が本当に噂通りなら今頃、俺はどうなっているでしょうね」

俺は笑いながら彼を観察する。この感じからすると本当に噂でしかないだろう。

俺は少しがっかりした。しかしこの老人はなかなか面白い。話も上手いし紳士的だ。多分、噂の裏には何かしらの力があるのだろう。派閥なり権力闘争の何かが。

その中心に彼がいることは想像できる範囲内だ。


(この人を蹴落とそうとする人が逆に蹴落とされたら?どんな闇を見せてくれるのだろう。)


俺は苦痛に歪み積みあげてきたもの全てが瓦解していく姿を想像した。


(破滅の中にある苦痛と悲嘆、そして絶望の美。是非とも見てみたい)


俺はそれからますますその教授に近付く。何時しか悪い噂は影をひそめるようになる。すると、周りで何やら不穏な空気がする。そう、噂を流した黒幕たちが動き出したのだ。俺は心躍った。あとは俺にちょっかいを掛けさせるだけだ。

俺は周りに良い顔をする。するとある教授が俺に声を掛けてくるようになる。


「西村君」

声を掛けてくる中年の男。この人は城戸 敦(しろと あつし)教授。人気がある教授だ。この人のうわさで悪いものはない。しかしそれが俺には不自然に感じる。人気取りか本当に上手い人かは解らない。とりあえず接触してみればわかるだろう。

「城戸教授、なんでしょう」

「いや、最近よく見るからね。少し気になって」

その目の奥には邪魔者を見る鋭いものがあった。


(こいつ、俺に何かするな)


直感的にそう思った。何かされればそれこそ面白い。俺は彼の誘いのままに研究室を訪れる。学生はいないようだ。俺は眼鏡を掛け彼と向かい合う。

しばらく俺達は歓談する。専門の話メインで。俺は授業内容を織り交ぜ当たり障りない会話を心掛けた。彼は感心した顔で俺の話を聞く。


(何か盛られたな)


不意に体が動かなくなる。そして城戸は俺に冷たい視線を向ける。

「君みたいな学生は邪魔なんだよ」

俺は体がしびれて動かない。

「君には学校に来れなくなるくらいの体験をしてもらおうか」

そう言うと彼はビデオを撮りだす。そして数人の男が部屋に入ってくる。

その後、男達は俺を一糸纏わぬ姿にする。そして動画を撮りながら順番に俺を汚す。俺の体には彼らが放出した粘液に塗れる。そして何時しかシケの花の香りが部屋中に広がった。それでも彼らは俺の穴と言う穴を凌辱し続けた。


翌日、大学に警察が来る。俺は被害届を出したのだ。城戸は涼しい顔をして証拠を出せと言って来る。


(どうせ男たちが証拠を保管しているのだろう)


俺は一応ビデオにとられたことを話す。しかし彼の研究室からその類のものは発見されない。それは解りきっている。


(こいつマジで昨日の俺との差異に気が付いていないな)


俺は内心でほくそ笑んだ。

「証拠がないと思っているようですが」

俺はスマホに彼が男たちをけしかける動画を流す。俺の眼鏡には小型カメラが取り付けられていた。全員の顔が写りだす。そして凌辱される姿も。

次に靴から録音機を取り出し昨日の会話を流す。

“君は邪魔なんだよ。少し痛い目をみてもらおうか”

話が流れ出す。

「それでなんでしたっけ?」

俺は満面の笑みで彼を問い詰める。彼の顔はみるみる青くなっていく。

「最初に言っておきます。示談はありません」

その言葉に彼は悲痛の顔に変わる。


その後、彼は大学を首になった。他にも被害者が居たのだ。同性に襲われる屈辱。それは人に言えるものではないだろう。しかし俺が全て明らかにした。

全てを失い怒り狂う彼の姿に俺は見とれた。破滅に向かう人間の負の感情、逆切れするその姿。全てが美しく感じた。


(破滅に向かう人間の美。素晴らしい)


「西村君…」

不意に声を掛けられる。山中教授だ。

「君はこうなると解って私に近付いたのか?」

「どうでしょう。普通に話が楽しかったから研究室にお邪魔しただけですし」

彼は押し黙る。そして俺の顔を見つめる。その表情には恐怖の色が浮かぶ。

「先生、その目は素敵ですね。どこまでも恐怖におびえる負の感情。実に美しいです」

「君は…」

「僕はただの被害者です。何もしていませんから」

俺は彼に満面の笑みを向けた。見つめる先の老人が震える姿が実に美しく感じる。

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