第14話 アップデート完了

「ダイブ!」


『現在回線が大変込み合っております。少々お待ちいただいて再度ログインください』


「……ダイブ」


『現在回線が大変込み合っております。少々お待ちいただいて再度ログインください』


「早くー、早くー……ダイブ!」


『……Now Loading……』


「おっ」


 ふわっとした浮遊感を感じる。

 こんなのあったっけ?


『現在回線が大変込み合っております。少々お待ちいただいて再度ログインください』


 リアルに戻される。


「あ……、うーん。ちょっとお茶買ってこよう。一旦落ち着こう」


 アパートの外にある自販機でお茶を買うと、ガチャリとアパートの何処かの扉が開く音がする。

 お茶を取り出して部屋へと戻る。

 カンカンと階段を降りる音がする。この音だと女性かな?

 部屋に入る寸前に軽く見ると俺と同じように自販機で飲み物を買ったみたいだ。

 なんとなく、気になったけど、一瞬だったのでそのまま部屋に入る。


「んっ……んぐっ。はぁー。落ち着いた。」


 とりあえず一気に冷たいお茶を飲み干す。

 興奮して少しのどが渇いていたみたいだ。

 途中で水を注されると嫌なので、トイレに行って無理やり絞り出しておく。

 これで準備は万端だ。


「ダイブ!」


 時間を開けたおかげか、すぐにログインできた。


 美しいリフクエの世界。今までと何も変わることはない。

 これで4倍早く時間が経っているのか、全くわからない。

 特に動きも変わりなし、素振りをして確かめる。

 

「わっ!」


 いきなり目の前にミーナさんが現れた。慌てて剣を引いたけど大きく体勢を崩して、ミーナさんを押し倒すように倒れ込んでしまう。


「ご、ごめん!」


 慌てて起き上がると……まるでコメディーのように俺の手がミーナさんの胸を掴んでしまっている。


「キャーーーーー!!」


「ぐえええぇぇぇ……」


 ドガン。


 とんでもない力で突き出されて身体が空中を浮遊して落下する。

 プレイヤー同士の攻撃は決闘モードでないと通らないのでダメージはない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 俺はすぐさまコメツキバッタのように起き上がり全力の土下座だ。


「……あー、びっくりしたぁ……」


「すみませんでしたぁ!」


「あー、もういいよ。私も急でびっくりしちゃったし……突き飛ばしてごめんね」


 ミーナさんが手を差し伸べてくれる。


「あ、でも感触はなかったから安心して!」


 俺を立たせようとしてくれていた手がパッと離されて俺は後頭部をしこたまぶつける。プレイヤー同士の(ry


「……最低……」


 最悪の選択肢を選んだようだ。


 それから10分くらいずっと土下座で謝った。


「それにしても今回のアップデート見た!? 凄いよね!!

 今こうしてても外では4分の1しか時間が経ってないんだよ!」


 ようやく許してくれたミーナさんは興奮したように今回のアップデートについて熱く語りだした。


「プレイしてる感じはいつもと変わらないけどねー……」


「ホントだよね! ちょっとさ1時間位狩りして、一回ログアウトしてみない?」


「よし、そうと決まれば頑張ろう!」


 それから俺達はいつもより少し離れた場所まで狩りに出かけて、初めて見るモンスターに興奮しながら狩りをしていたら、あっという間にゲーム内の1時間が経過する。


「そしたら、すぐ戻ってこよう! 向こうでゆっくりすると中の時間が凄くずれるから!」


 興奮した口調でミーナさんはバタバタとログアウトしていく。

 俺もすぐに後を追ってログアウトする。


「お……、ホントだ。15分位しか経ってない」


「すご~い!」


 窓が空いていたのか外の声がえらくハッキリと聞こえた。

 いかんいかん。窓を締めてすぐにゲームへと戻る。


「あれ、俺が先か……」


 2分位するとミーナさんがログインして戻ってきた。


「凄いね! これ! 凄いね!! ホントに15分しか経ってなかったよ!」


「どういう仕組みかはさっぱり理解できなかったけど、これでたっぷりプレイできるね」


「うん! うれしーなー。結構忙しいからいっつもバタバタプレイしてたからさー」


「それは良かった」


「4時間だから16時間、午後もやれば一日で2日分プレイできるね!」


 知らない人が聞いたら何を言ってるかわからない説明だな。


「あ、そうだ。レベル10越えたしギルドに戻ってFランク認定してもらって同時に討伐もしていかない?」


「そうそう、俺もそう思ってた。一回もどろう」


 今まではこういう移動の時間が結構プレイ時間を削っていたので急いで移動したけど、自然とそれほど急がずに話しながらの移動になる。

 先に進むと移動アイテムももらえるみたいだし、本当に楽しみだ。


「まずはベースを手に入れたいよねー」


「ベースがあればそこへ戻れるアイテムもらえるんだよねー」


「そうそう、Eランクに上がればギルドのアパートエリアを借りれるんだよねー」


「もしくはマンションエリアに自分で買うか……」


「買うのは100万zだもんね、まだまだ先になるよねー……」


「今のランクじゃ以来こなしても1000とか3000だもんね。

 それでも嬉しいけど、そろそろ木刀は卒業したい……」


「私も武器からかなぁ、スチールボウが1万5000zなんだよね、なんか急に高くなるよね……」


「木から鉄だから仕方ないよね、スチールソードも1万2000zだから。俺も次の目標はそれだね」


「お互い頑張ろう!」


 ギルドに戻ってギルドランクをレベル免除でFランクにしてもらう。

 それからいくつか討伐依頼を受けて、それをこなしていく。


「すごいね~時間がまだまだあるよ!」


「やばいね、俺、もっとハマっちゃうよ!」


「私も私もー! あー、このゲームに出会えてよかったー」


 本当に俺もそう思う。


「生き直し……か……」


 思わず口から言葉が出ていた。

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