第6話 夢中

「よーし、さっそく依頼を見るぞー」


 Gランク冒険者に対する依頼は採取や納品が主で、後は掃除や片づけなんてものまである。戦闘系の依頼はまだない。


 ピピピピピピピピ


 せっかくの冒険者気分に水を差すアラーム音がする。

 

『ゲーム開始から4時間が経過しました。

 休憩してください』


「な、もうそんなに経ったのか……」


 リュウヤは渋々ログアウトする。


「ほんとだ、もう日が傾いている……」


 装置を外し部屋を見回すと、西日が差し込んでいる。

 こんなに時間を忘れて没頭したことなど、事故以降一度もなかった。


「おおう……」


 ブルリと身体を震わせる。

 生理現象の兆候だ。

 この装置の凄いところは、現実で生理現象サインが出ると内部でアラームからの強制ログアウト機能まである。

 強制ログアウトは健康的な配慮を考えて、複数回食らうとロックがかかって次回入場まである一定の時間を取らないといけなくなる。

 無理をしてプレイし続けたり出来ないように健康面への配慮もされている。


「とりあえず……夜飯食べるか……」


 健康状態が崩れるとプレイさせてもらえなくなる。

 その注意書きが俺に変化をもたらせた。

 いつも行く惣菜屋の幕の内弁当が俺の全食事を賄っているが、今日はそれにサラダと味噌汁をつけてみる。


「いらっしゃいませ。珍しいですね」


 店の人にもすっかりと覚えられている。いつもと違う物をレジに持っていくと驚かれてしまった。

 

「いや、はは……」


 現実では曖昧な返事しかできない、さっきはベラベラと話していたのが妙におかしい。


「なんか、今日は嬉しそうですね。ありがとうございました」


 そこで初めて店員さんの顔を見てみた。

 ずっと下を向いていた事に、今更ながらに気がつく。

 こんな顔をしていたんだな。

 人には顔や姿があることを、ゲームをやって改めて認識するなんて、俺は本当に、生きていたのか……

 優しそうな店員さんの前で泣きそうになってしまったので、急いで弁当を受取、帰路につく。

 変に思われると通いにくくなるから、次からはいつも通りにしよう。

 そう心に決めた。


「なんか、今日の弁当は美味しいな……」


 人間は現金なもので、ほんの少しの気の持ちようで食べ物の味まで変わる。

 俺はそのことを知った。


「少しは運動もしたほうがいいかな……」


 事故以来、リハビリは続けなければいけなかったので毎日、機械のように指定された運動をしているので、太ることもないが、腕や足には最低限の筋肉しかないひょろひょろだ。


 次のログインできるまで2時間ある。

 健康でないとプレイさせてもらえない。

 それが何よりも怖かった。

 知ってしまった新しい生の喜び。

 それを失いたくない。


 気がつくと俺は近くの土手を早足で歩いている。

 律儀に次のプレイまでのタイマーを仕掛けて。

 我ながら変わったもんだ。


「あれは、衝撃だよな……」


 あのゲームの中には世界が確実に存在する。

 そして、その世界で俺は新しい人生を生き直していく。

 そう考えると、指先に血がめぐるような思いだ。


「健康第一」


 今までの自分からは信じられないようなことが自然と出ていた。


 その日は、薄っすらと汗をかくくらいウォーキングして家に帰ってシャワーを浴びる。

 身を正してゲームの世界に


「ダイブ」


 する。

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