異世界にクラス転移したら俺だけ幼児になってたのですが

うめりんご

第1話 クラス転移したら4才の幼児になってたんだけど

カッカッとチョークの音が響く教室はいつもと違って静かだった。

普段はガヤガヤうるくて先生の声が聞こえないくらいなのに。


今日という特別な日に神さまが静かに授業を受けたいと思った俺の願いをかなえてくれたのだろうか。


それは今日が俺の16歳の誕生日だからだ。

そして4年間に1度だけ現れるうるう年の日でもある。


まあ、誰も祝ってはくれないけどね。

4年に1度のせいでみんなに忘れられているのだ。なので誕生日はないものだと考えていた。


授業を受けながらふと時計に目をうつす。


もう少しで俺の生まれた時刻になる。

12時00分、真っ昼間に生まれたらしい。


鮮明にきこえてくる音を頼りにその時を待つ。


カチ・・・


カチ・・


カチッ


そしてそれは訪れた。


俺! 誕生日おめでとう!!


そう心の中で自分を祝おうとしたが、それは出来なかった。


急に床一面に変な木みたいな模様が浮かび上がり、光とともに俺たちを飲み込んだのだ。







『………――――――――――――――――っ』




光の中… 誰かに抱きしめられた気がした





だけどそれが何かと考えることもできずに






俺の意識は薄れていった――――――………











◇◆◇






気がつくと、そこは全面真っ白な教会のような場所だった。唯一祭壇の真ん中に先ほどの模様のような、色とりどりの美しいステンドグラスがある。


周りを見るとクラスメイト達の姿と神官?ぽい人達がみえた。


「せ、成功したのか…?」


 神官達の誰かがつぶやく。

現状を理解し、確信するとともに彼等の表情に明るさが現れた。


「「うおおおぉぉぉぉぉおおおお!!」」


地響きのような歓声がその空間を駆け巡る。


中心にいたやたらお姫様みたいで綺麗な女の人もほっとしたような表情で座り込んでいた。




ここは…? 今の状況が把握できない。

それはクラスメイト達も同様で狼狽えてる生徒が多かった。中にはなぜか嬉々とした表情の者もいるんだけど。

生徒よりも先生が一番あせっていた。

大丈夫かよ…


少し心あたりがあるとすれば、異世界転移のラノベのような感じだ。


でも現実にそんなことあるわけがない。あれは物語であって、現実ではないのだから。


とりあえず今の状況が知りたいので、近くにいた俺の友達 (と思っている)の北条千紗に話しかけようと近寄る。

北条さんはクラスの人気ものだ。


ズルッ ズルルッ


・・・?

おかしいな、こんなに俺の服は大きかったけ? ズボンの裾が床に引きずられてしまった。袖もぶらんっと垂れ下がり、萌え袖のようになってしまっている。


・・・・・??

北条さんを見上げる形になってしまっている。

どういうこと? 俺は北条さんよりも背が高いはずなのに。


「ほうじょうしゃん、こりぇはどうなってりゅの?」


呂律がうまくまわらない。本当になんなんだよ!


明らかにいつもとは違う感覚が俺を不安にさせる。

声に気づいた北条さんが突然こっちを見て目を見開いた。




「可愛いーーーー!!!!」




そのまま俺はギュッと抱きしめられた。



「う!?」



豊満な二つの山が体に押し付けられる。




何!? この状況!!

男の俺は嬉しくないわけないから良いんだけど、ここみんなの前だよ!?

ほらみんなが見てるって!!


周りの人達が微笑ましい目を向けてくる。


「ねえ、ボク? お姉ちゃんここがどこか分かんないんだけどボクはしってる?」


いえ、わからないです。

…じゃなくて!! ボク!? なんで子供扱い!?


「ボク?」

どうしたの?とばかりに首をかしげる北条さんを横目に素早くスマホをポケットから取り出し、自分の姿を映した。



潤んだ黒く丸い瞳、

サラサラと輝く漆黒の髪、

平均の日本人よりもやや白めの艶やかな肌。

4~5才くらいのとても可愛い子ども。


・・・・・!?


そこには間違いなく、俺の幼い頃の姿があった。

いや、それよりももっと美形な。


ガシャンッ


スマホが落ちて画面が割れるがそんなことどうでも良い。


「にょおぉぉぉおおおおおおおおお!!」


 俺、幼児になりました。







◇◆◇


混乱する中、座り込んでいた綺麗なお姫様らしき女の人(本当にお姫様だった)が説明をはじめた。

俺達は勇者として召喚されたらしい。


ここはライスト王国。

人間の大陸の最北端。

魔王が住む終焉大陸に一番近い国。


勇者召喚は失敗すると多くの犠牲を払ってしまうため禁術とされてきたがこのままだと魔王の魔物達によって滅ばされてしまう。

仕方なく勇者召喚をおこなったそうだ。


 ラスのみんなはザワザワとしている。魔王と戦わねばいけないことに抗議する生徒もいた。


だけど俺は今、それどころじゃない。

なぜならクラスメイト達の中で俺だけが幼児になっていたのだから。


 「いひゃい」


つねったほっぺたがヒリヒリする。


夢じゃなかった……

ほんとうにどういうこと?


うーんと悩んでいると騎士っぽい人の声が聞こえた。


「これからステータスの確認をしてもらう。ステータスと念じると自分の能力が分かるはずだそれを教えてほしい。」


ステータス! ますますラノベみたいになってきた。もしかしたらそこに答えがあるかもしれない。


俺は早速『ステータス』と念じる。



《名前》夏目 幸斗 (なつめ ゆきと)

《年齢》4才 (16)

《職業》異世界人 勇者

《レベル》1

《HP》50

《MP》300

《攻撃力》10

《防御力》10

《俊敏性》30

《スキル》(鑑定 Lv1) (言語能力 Lv1:ライスト語)


《固有スキル》

(ふよふよ Lv1)

(なでなで Lv1)


《称号》

小さな勇者

聖樹の落とし子

逆行した愛されし者


《装備》ぶかぶかの制服。ぶかぶかのシャツ。ぶかぶかの下着。




何だよこのステータス。

年齢が4才になってるし…

いろいろと突っ込みどころが多すぎる。


“ふよふよ”って何? “なでなで”って?笑

“逆行した愛されし者”とかの称号も謎過ぎ。

見た感じ俺の幼児化はこの称号のせいなのかな?


ステータスの“逆行した愛されし者”をタップしてみる。


……何も出てこない。


え、ちょっと待って詳細分からなかったら何もできないじゃん。


周りを見るとみんなが一喜一憂していた。


「すっげー!! 俺、神聖魔法つかえるって!! チートじゃね!?」


「こっちだって! 四属性使える!!」


「ステータス全部100前後でうまってるんだけど、これって強いの?」


 強いんじゃね? 俺もそんくらいだよ。」


 そだろ…みんな強すぎない? 俺ステータス50前後なんですけど。唯一MPが高かったくらいで。


北条さんは俺を抱いたまま凄ーいとか言いって自分のステータスの確認をしていた。どうやら他人のステータスは覗けないらしい。


いい加減、離してくれないかな?そろそろ俺の理性が限界になってきた。今、俺の顔は真っ赤っかになっているだろう。


視線を感じて後ろを見ると北条さんが俺をガン見していた。


「ほうじょうしゃん?」


北条さんの顔がみるみる赤くなっていく。

「な…つめ…くん?」


ば・れ・た


多分、鑑定スキルをつかったんだろう。

勇者の称号を持つ人は持ってるっていってたし。



北条さんはズザザザッっと俺と距離をとる。


「ご、ごめん!えっと、私気づかなくて…」


狼狽える北条さん、可愛いすぎ。


「こちらこしょごめんね。」


俺も言わずに黙ってたので謝った。


「か、かわ…♡」


北条さんはなぜかぶるぶると震えながらひたすら俺を抱きしめることを我慢している。


「子供?」

「どうしてこんなところに」


そんな北条さんを見たクラスメイトや神官達が俺の存在に気づきはじめた。


「あなたは勇者様のお仲間なのですか?」


記録係らしき人がおそるおそる聞いてくる。


「しょうでしゅっ」


手をあげてぴしっと自己主張をする。

盛大にかんでしまった。呂律が回らないから同じなんだけど。


「「「「可愛いーーーー!!!!」」」


歓喜の悲鳴がきこえる。

先ほどの北条さんの二の舞だ。

女子達がジリジリと近寄ってくる。

なぜかお姫様も混ざってるんだけど。


「ちょっ、ちょっと待って!!」


今度は北条さんが止めてくれた。

さすがにあの数が来ると怖い。


「この子、夏目くんだから! あのさえなくて影が薄い夏目幸斗くんだから!!」


……泣いて良いですか?

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