第四章:05



・・・



「おぉぉぉぉらぁぁあああぁあぁッ!」

「ヒィェエエハァァァッッッ!!」

兜虫改人と天道虫改人が両脇から同時に攻めてくる。

直前まで引きつけ、静かに"力ある言葉ロゴス"を発動する。


「"ライトニング・ムーヴ"」


ピシっ、とガラスの割れる音に似た響きがして視界がいれかわる。

いや、ごくごく短距離ながらで移動したのだ。


「げぶッ!?」

「ぐへッ!?」


目標を見失った改人たちが激突しあい、マヌケな声を出す。

ぐるりと反転すると、絡み合った改人に向けてもう一度"力ある言葉ロゴス"。


「"アーク・チャージ"」


右手をさげ左手を前に突き出し、狙いを定める。


「――ちぃっ、コクシネ・ル!」

兜虫改人が前に出て装甲を変化させ防御態勢をとる。


「"アーク・ディスチャージ"」


右手と左手を入れ替えるように拳を突き出す。その先からこの世ならざる雷が

改人に向かってほとばしる。


「ぐああああぁあぁぁぁぁッ!!」


天道虫改人には避けられたが、兜虫改人に直撃する。何十億ボルトもの電圧から

解き放たれた電流が物理法則を無視し、渦を巻いて改人に吸い込まれていく。



爆発。

内側に溜まった莫大なエネルギーが内側から焼き焦がす。



ずしゃり、と重々しい音を立てて改人が膝をつく。ダメージにはなったが、

致命打にまではならなかったようだ。


(アルカー・エンガと比べ発動と挙動は速いが、やや威力に乏しいか……)


冷静に分析する。むろん、背後にいるホオリへの警戒は怠らない。

だがいまやノー・フェイスはそらおそろしくなるほどの万能感に包まれていた。



身体が軽い。力がみなぎる。人々をまもるための力がノー・フェイスに宿っている。



「ノー・フェイスッッッ!!」



アルカー・エンガの声に振り向きもせず飛び上がる。頂点で一回転し、

空中で雷光を発し急降下する。完璧なタイミングで、ジェネラルが飛んできて、

その蹴りが直撃する。



「がああぁぁぁぁぁッッッ!!!」



石畳を砕き割り、ジェネラルが地面にめりこむ。

ふたたび飛び上がり、改人たちに対峙するノー・フェイス。その肩を

アルカー・エンガがぽんと叩く。


「いけるな、ノー・フェイス」

「――ああ、アルカー。やるぞ!」


その手から伝わる熱さに、心が打ち震える。


いける。

これなら、戦える。アルカーと肩を並べて戦える!



改人が立ち上がる。

「くそッッ……いてぇぇぇぇぞ畜生ッ!」

「クソッ、クソ! なんだテメェ……なんでアルカーが二体になってんだよッ!」

毒づく改人二体の前でアルカー・エンガと共に身構える。



もう、焦燥はない。



・・・



アルカー・エンガはがしり、とノー・フェイスと腕をあわせる。

炎の精霊と雷の精霊が、力の使い方を教えてくれる。

あわせた腕から伝わる頼もしさに、アルカー・エンガは打ち震えていた。



(ノー・フェイス……雷の精霊が、お前を選んだ)



適合者は、一代に一人。精霊はそう伝えていた。



(資格があるかないかじゃない、お前の胸に輝く勇気を!)

共に戦う戦士として。精霊自身が、ノー・フェイスに力を与えることを選んだのだ。



誇らしさで胸がいっぱいになる。

俺の隣にいるこの男を信頼したことは、正しかったのだ。


その思いを隠すことなく口に出す。



「――行くぞ、相棒!」

「任せろ、友よ」



あわせた腕に炎と雷が渦巻く。その炎雷はあたりを包み込み改人たちを逃がさない。



どうっ、と改人に向け突進する。そして――




『ヴォルカニック・ライトニングッッッ!!!』




融合した炎と雷の打撃が、改人たちに突き刺さる。

あたりを包み込む炎雷が全てその胸に吸い込まれてゆき――爆発した。




轟音と閃光、その二つが収まった爆心地GROUND ZEROに――

アルカーたちだけが、立ち尽くしていた。



・・・



ホオリはやさしく揺られて目を覚ました。

見上げると、ノー・フェイスが自身を抱えて歩いている。

側にはアルカーも一緒だ。



そして、精霊も共に居る。



ノー・フェイスの胸に耳をつけると、その奥にたしかに感じる。

自分が生まれてから今までずっと、共にいた存在の波動を。


――ワタシは貴女。アナタは私


声は、まだ聞こえる。身体から出て行っても、自分と雷の精霊は

深く結びついてわかちがたいものになっている。



その精霊が、今はノー・フェイスの中に居る。彼に力を与えている。

心にあった雷が、ノー・フェイスとの絆として彼の胸にある。



その感触に喜びと少しの気恥ずかしさを感じて、ホオリはもう一度眠りについた。

優しい夢の中へと――。



・・・


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