第2話

半二次元の世界へようこそ。


彼等は15センチの幅の中で生きている。


今日は夫と妻の休日を垣間見てみよう。


ーーーーー


~休日の朝~


夫と妻の休日の朝は遅い。なぜならば妻が惰眠を貪る為です。


あ!夫が起きました!妻の寝顔を確認して安心したようです。フヒヒと豚のような笑顔を浮かべています。


夫が妻のほっぺにフレンチキス。しかし彼等は平面ですから夫の頬が妻の口を塞ぎます。


「むぐぅッ!むぐぅッ!」

窒息寸前!

妻の右フックが夫の脇腹に突き刺さりました。


「バゴァッ!」


夫は悶絶しています。

半二次元の彼等は身体のあらゆる角が鋭利な為に、角度によってはただのパンチも立派な凶器になります。


妻は不機嫌極まりない顔で頭を掻きながら悶絶する夫を見ています。


おや?妻の顔に笑顔が戻りました。いい角度で入ったボディブローでうずくまる夫を見て少しスッキリしたようです。


“キスも命懸け”


ここは覚えておきましょう。


時間は朝9:00。さぁ一日の始まりです。


わざとらしく苦しんでいる夫を尻目に妻はお手洗いに向かいました。


夫は妻のベッドに潜り込み、残り香を堪能しています。わしゃわしゃと毛布を丸めて、まるで犬のように頭を突っ込んでいます。


休日も朝ごはんはパンと牛乳です。

パジャマ姿のまま、ぽやぽやと朝ごはんの準備をします。


〈チン!〉

トーストが焼けても夫が起きてきません。妻がベッドに様子を見に行くと、妻の毛布にくるまりながら幸せそうに二度寝をしていました。


妻は無表情のままキッチンに戻り、パクパクと朝ごはんを食べます。


妻が朝ごはんを終え、着替えを済ませるとようやく夫が起きてきました。


夫「おはよう」

妻「おはよ。朝キス禁止」

夫「朝キス禁止」

妻「はい」

夫「はい」


〈ボグッ!〉

夫「ウゴォッ!」

妻のパンチが夫のみぞおちにヒットしました。


妻「目が嘘をついている」


エスパーの誕生です。

目を見ただけで妻は夫の適当な返事を見抜きました。


夫は涙目になりながら「朝キスはしない…」と言葉を振り絞りました。


屈んだ夫の頭があったので、薄くなった髪の毛を二、三度むしり取るといくらか気分がスッキリしました。


妻「よし!買い物に行こう☆」

夫「うん」


夫が冷めたトーストを胃に流し込んでいる間、妻はお化粧をします。


平面なのでとても早く終わります。最近はシールタイプの化粧も流行っています。


少しお洒落をして妻も嬉しそう。夫はそんな妻を見て目を細めています。


時間は11:00を回りました。


妻「今日はここも行きたいんだ☆」


妻が夫に見せたスマホの画面はお洒落なカフェテリアです。夫はおののきました。

少しびっくりしていると「シュッ!シュッ!」と妻が夫の髪の毛をむしる素振りをシャドーしています。


夫はビクッ!と反射的に身を屈めました。

もはや決定権は彼にはありません。彼精一杯のユニクロ全身コーディネートを施し出発です。


この世界の乗り物は電車と船だけです。

彼等はペラペラの身体の為、とても風に弱いからです。


なので今日は電車でお出かけです。ちなみにビルもあまりありません。ビル風を正面から受けるとたちまち飛ばされてしまいます。

風は彼等の弱点なのです。


ですから靴は重い靴を履きます。それでもお洒落の為に可愛いミュールを妻は履いて出掛けます。


「ゴッ!ゴッ!」


と音を鳴らして歩く姿はまるで鉄ゲタのようです。


妻は「お洒落はガマンだよ☆」というので、そんなに一生懸命お洒落をする妻の姿が輝いて見えます。


玄関を出ると、陽の光がサンサンと輝いていました。


妻「わぁ☆今日はいい天気だね☆」


太陽の輝きにより後光を差した妻の笑顔がとても綺麗で、夫は泣いてしまいました。


『ボクは一人じゃない』


そう思ったのかも知れません。


妻はやれやれと言った様子で夫の手を繋ぎます。


妻「やっぱりさ!今日はいつものお好み焼きにしよう☆」


夫の顔に子供のようなキラキラした笑顔が戻ります。


夫「いいの!?」

妻「いいの☆」


二人のいきつけのお好み焼き屋さんは夫の大好物です。お母さんが元気な時によく食べに連れていってもらいました。


なんだか二人とも幸せそうです。


お好み焼きを食べた二人はスーパーへ行き一週間のお買い物を済ませると、家に帰りお昼寝タイムです。


妻は疲れたのかソファでウトウトしています。夫が妻にタオルケットを掛けてあげるとスヤスヤ寝息を立てて気持ちよく眠ってしまいました。


思わずキスをしたくなりましたが、朝に怒られたばかりです。ぐっ!とガマンをして、晩ごはんの準備に取り掛かりました。


休みの日は夫が晩ごはんの係です。

今日は炒飯。というか炒飯しか作れません。


トントントン。

ジャー。

ガチャガチャ。

ザッザッザッ。


お母さんが病気になってから初めて作った料理が炒飯でした。


トントントン。

ジャー。

ガチャガチャ。

ザッザッザッ。


夫「出来たよー」

妻「うーん…むにゃむにゃ…」


まだ時間は夕方を少し回ったところです。


〈プシ!〉


発泡酒の缶を開けて、妻の寝顔を見ながら喉を潤します。夫、至福の時です。


18:00を過ぎてから妻は起き上がりました。

隣で夫がソファにもたれ掛かって寝ています。


妻は「フフ」と微笑むと夫の薄くなった頭を撫でました。


夫はなんだか嬉しそう。

キッチンを見ると炒飯にはきちんとラップが掛けられています。


〈ぐ~〉

妻のおなかが減りました。夫は寝ているので仕方ないから一本一本夫の髪の毛を抜いていきます。何本まで起こさずに抜けるかというゲームです。


「痛ッ!」

残念、三本目で起きてしまいました。


電子レンジで炒飯をチンして晩ごはん。

美味しそうに食べる妻の姿を見て夫は嬉しそう。


今日も楽しい一日でした。


ーーーーー


いかがだったろうか?

半二次元の男女も我々とさほど変わりない休日を謳歌していると言えよう。


彼等への興味は尽きない。

また会おう。

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