第5話 ウインドミルの挑戦の日々


 さらに数日。

 挑戦を進める上で弥太郎の存在は、美空が想像していたよりも高い重要度を占めていた。


 風の強度、方向、タイミングなどを予測し、言語化できる。

この能力は彼女らがこの挑戦の貢献度こうけんどはかなり高いものだった。かなめと言い換えても良いくらいだった。

 本格的な風速機ふうそくきやスパコンを使ったことなどないが、それと同スペックかそれ以上の能力ではないかと思う。

 ましてや素人の高校生が個人的にやるような挑戦でできるようなものではない。


 ただ、弥太郎はそう言った自分の価値には無頓着むとんちゃくで、ただ自分の「風詠み」の力が美空の役に立っていることが純粋に嬉しい、と言う面もあった。

 風詠み。

 突然に閃きが舞い降りたかのように直感的に次の風を感じ取る。そこに理屈や論理の余地はなく、弥太郎に言わせてみれば「なんて言うか……フィーリング?」と言うことらしい。

 しかし、その原理不明で魔法みたいな不思議な力は、魔法みたいに便利な力では無かった。

 次の風が分かっても、誰かの危機を救えない。

 次の風が分かっても、誰かの苦難を防げない。

 次の風が分かっても、誰かの世界を守れない。

 所詮はビックリ人間の域を出ない、素手でビール瓶のふたを取る方が、幾分いくぶん実用的な能力だった。(自分が風を楽しむにはもってこいの力ではあったが)

 でも、こうして美空の役に立ち、意義を感じたのは初めてだった。

 この挑戦は弥太郎にとってもある意味救いだった。



 とある日の夜、その日も弥太郎がいつものように協力してから家路に着いた後。

 自宅には珍しく弥太郎の父が定時に帰宅していた。

「あれ、父さん。珍しいね」

「ま、たまにはこんなこともないとな」

 そう言ってビールを一人で注いで飲んでいた。言葉こそしっかりしているが、顔の赤み具合を見る限り、軽く酔っているようだった。

「お前も珍しい話じゃないか。こんな時間までフラフラしてるなんて。この時間の風は寒すぎるんじゃ無かったのか」

「まぁ、ちょっとした手伝いさ」

「手伝い?」

「えーっと……」

 弥太郎は少し自分の父に挑戦の話をするのを躊躇ったが、特別後ろめたい事をしているわけでも無い。逆に、変に隠す方が不審に思われる気がしたので説明した。


「……って事があったんだ」

 酔った頭でどこまで覚えているかはわからないが知っていることは一通りしゃべった。

 少女のこと、少女の父のこと、一〇年前の挑戦のこと、そして失敗したリベンジを少女がしていること。

「なるほどなぁ」

 そう言って、ビールを再びコップ注ぐ。

「一〇年前って事は、その嬢ちゃんは夏川の娘さんか?」

 その一言に弥太郎は驚いた。

「父さん、知ってたの?」

「あぁ、就職を機に出て行ったが、あいつもこの街の出身だしな」

 話している途中でもドンドン酒は進んでいたので、本当に聞いていなかったと思っていたが、完全に聞き流しているわけでも無いようだ。

「そうか、あの時のお嬢が紙ヒコーキを飛ばしてるのか……」

 そこには様々な想いがあるのか、複雑そうな表情が浮かぶ。

 友の死、その娘の現状、挑戦。

 酔った頭では簡単に咀嚼できないだろう、と考えていると弥太郎の父は口を開く。

「お前の話を聞いて気になったことがいくつかある」

「?」

「いやなーー」

 ここから先の話は、弥太郎に混乱をもたらすには十分すぎる内容だった。

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