優しきも愚かしきも人の《情》

真実におそろしいのは妖か、人か。
真実に愚かしいのはこどもか、おとなか。

各地を旅する薬師と山彦鳥が出逢ったのは「天邪鬼」と噂される幼い娘だった。娘は嘘ばかりをつき、度々村人をこまらせているそうだ。そんな「天邪鬼」の娘は薬師にある言葉を言い残す。

「この村の人間の言うことを信じるな。
さもないと、あんた達、生きてこの村出られないよ」

果たしてそれは真実か、嘘か。
天邪鬼の娘の真実、村に隠された人の業とは……そのすべてを解き明かしたときに、薬師はどのような決断を下すのか。

登場人物ひとりひとりの喜怒哀楽を見事に書ききった、素晴らしい小説です。複雑に絡んだ複数の謎が、様々な人物の心の動きにともなって、ひとつひとつあきらかになっていくところはまさに圧巻の一言でした。これほどありありと人の感情を書いた小説はそうそう、出逢えるものではありません。優しさと愚かさ、弱さと強さが綯交ぜになった《こども》と《おとな》の心からの叫びに、頁をめくる度に胸を揺さぶられました。

人は愚かで、世は無常。
人は無情で、世は憂き。
けれど、それだけではないのだと。
それだけであるはずもないのだと。

この物語が教えてくれます。

是非、ひとりでも多くの御方に読んで頂きたいと思います。

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